Love the darkness -5-
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「何してんです?」
「あ、フーゴ」
声をかけられて顔を上げたら、フーゴが興味深そうに手元を覗き込んできた。
ここは本屋だ。
たまたま通りがかったら目立つスタイル抜群の後ろ姿があったので、引き寄せられるように店に入って声をかけたのだ。それがフーゴで、本屋で立ち読みをしていたのがリカである。
(久々に見たな…)
リカが開いている本には数学の方程式や図が並んでいる。昔はフーゴもそれらを使いこなして飛び級とかしたものだ。
「なんでそんなもん見てるんですか?」
「ちょっとねぇ、勉強しようかと思って。ほら、ナランチャもがんばってるでしょ?」
「がんばっても身に付いてないからどうかと思うけどな…馬鹿すぎるんだよあいつは」
辛辣な物言いにあははと笑ってごまかすリカ。どちらかというと私も身に付かないタイプなんだけど。
「なんで今更数学を?イタリア語は前から勉強してるみたいだけど…」
「それはジョ、……数学苦手だから」
(ジョ?)
「フーゴ、教えてくれない?」
ぱっとリカが顔を上げたのでまともに目が合ってしまった。
「駄目?」
目力が強い上におねだりされてさっきの「ジョ」が何なのか聞くのを忘れた。自然の摂理である。
リカは少し焦っていた。ここで「ジョルノも勉強頑張ってるみたいだから教えてあげれたらいいなと思って」とか口を滑らしたら、「ジョルノって誰です?」ってなるに決まってる。それで、「あなた曲がりなりにもギャングなんですから、困りますよ。一般人とそんな親密になられちゃあ……そうだ、一応ブチャラティにも報告しておこう」ってなって、「ジョルノ?誰だそれは……まぁ念のためツラを拝ませてもらおうか」ってすぐブチャラティが過保護を発揮してなんの罪もない人をビビらせることになるんだ。それでこの間もパン屋の店員さんが震え上がってたもん。私にパンをいっぱいサービスしてくれただけだったのに。(「いやぁ、先日はありがとうございます。実は彼女は俺の友人でして……あんなにパンをたくさん……食べきれなくて鳩にあげましたけど、あはは…」「ひぃぃいぃ!そ、そんなつもりじゃないんです!ごめんなさい!!」)
…思い出したらすごい面倒くさくなってきた。なんで私のことでいちいちブチャラティが出てくるのよ。ブチャラティがお礼言う必要なくない?
(なんか急に不機嫌そうになったな……)
目の前で表情をくるくる変えるリカを見下ろしながらフーゴは思った。めっちゃ可愛い。もうちょっとこのまま見ていていいだろうか。
しかしこれから仕事だったのを思い出して踏みとどまった。
「教えるのはいいけど真面目にやらないと怒るよ」
「え……怒る?」
「うん」
「私いつも真面目なのにフーゴ怒ってるよ」
「はぁぁ?」
「そんなことないね!お願いします!」
不満げなフーゴに持っていた本を顔まで上げて盾にした。その表紙を見てフーゴはちょっと顔をしかめる。
「ほんとにその問題集をやるの」
「うん。なんかこれなら出来そうかなって」
「それ中学生のやつだけど…」
「えっ」
「ふっ…あなた何歳なんです?ハタチはいってないとしても僕よりは年上でしょ?それ、中学生のやつだけど…ふふっふ」
「もぉーうるさいうるさい!!意外とね、忘れてるんだって!やろうと思うと出来ないの!ブランクあるから仕方ないでしょ!!別に出来なくても生きてこれたんだから仕方ないでしょ!!これだから!頭いいやつは!!」
「わ、わかった…わかったから本屋で騒がないでください!迷惑でしょうが!」
「すぐ正論を振りかざして!!許せない!」
「なんだこいつ…!」
ぽかぽかと叩いてやったらフーゴが狼狽え始めたのでちょっと気が済んだ。持っていた本を奪われて我に帰る。
それから上から本で頭をポンポンされた。顔を上げたらフーゴがちょっと嬉しそうにしてたので不思議。
「ま、自発的に勉強するのは良いことなんじゃないか?あとリカにはこっちの方がいいと思う」
ささっと本を別のものに交換して、フーゴはそれを持ったままレジに向かった。
「えっ、フーゴ、ちょっと…待って!そんなつもりじゃないのよ」
「教えてあげるから頑張ってね」
今度はリカが狼狽えている間に支払いを済ませてしまう。足の長い彼がさっさと店を出てしまったので、リカは制止もむなしくついて行くほかなかった。
「どうせ君もアジトに行くんだろ?ついでさ」
しかもそのまま本を持ってくれている。見た目も中身もイケてるとはどういうことだ。
しかし嬉しいものは嬉しいのでリカは大人しくフーゴの隣に追いついた。
「ありがと、フーゴ」
「別にいいですよ…通りがかりだし」
怒りっぽいのに優しくて変なの。思わず笑ったら、フーゴも得意そうに笑った。