Love the darkness -5-
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「ええっと…ほんとに無理なんです。…待ち合わせしてるので…」
「いいじゃんかよぉ〜〜ちょぉーっとそこのカフェに入るだけだよ?友達が来るまで俺とティータイムしようぜぇ〜」
せっかくの天気に不愉快な声が聞こえてきたので、ナランチャはテーブルに広げているノートから視線を上げた。任務もないし、フーゴを引き連れてカフェで自主勉していたのだ。ちょうどフーゴがトイレに行ったので、気を抜いていたらこれだ。
「でも、あなたと2人でお茶してたら、彼きっと怒るから…」
「なんだぁー彼氏かぁー?じゃあさぁぁ、電話番号教えといてよ〜。諦めきれないんだ。今度デートしてくれよぉ〜」
「困ります……ほんとに……あの、興味ないの。あなたに」
謙虚だがきっぱりと断る強さにナランチャは思わず吹き出した。
けど、確かに相当なオーラのある美少女だ。あの冴えないチャラ男がどうにかできるものじゃあない。
「てめぇ〜〜…下手に出てりゃ恥かかせやがってぇ〜…っ!俺が誰だかわかってんのか!」
「いえ……知らないです。ああもう、ツバが飛んでくる……」
ぱっぱと振り払う仕草をされて、男は完全にキレたようだった。血管の浮いたごつごつの手がが彼女の華奢な手首を掴んだところで、ナランチャはテラス席から飛び出した。
「エアロスミスッ!!」
ゴォ、とエンジン音がして空からラジコンのような飛行機が舞い降りてくる。その翼の付け根から次々と弾丸が発射された。
「はっ!」
ナランチャのスタンドにすぐ気付いたリカは、何か攻撃を受けていると思って気を張った。地面に小さな穴がいくつも空いて、だんだんこっちに迫ってくる。飛び去るエアロスミスがナンパ男のコートをズタボロにしたのだ。
「なっ、なっ、なんだぁ〜〜〜??!」
戻ってきた空飛ぶスタンドが、今度は男の靴に穴を開けた。そこから血が吹き出している。
「うっぎゃぁぁぁーーッッ!!?」
一発は小さなものだけど、足に穴が空いたら痛いに決まっている。男はたまらずリカを離して逃げていった。
ナランチャはリカのそばに駆け寄りながら爆笑した。
「ぎゃはははは!見ろよあの走り方!ダッセェーーーッ!!」
確かに足を庇っているため妙な動きだ。ヒィヒィ言っているし。
楽しそうなナランチャを見ていたらリカもちょっと笑えてきた。きっとこの子があいつを追い払ってくれたんだろう。だって、彼の頭の上でさっきの飛行機がドルンドルンと浮かんでいる。
「ああいうの、『身の程知らず』っていうんだよなぁー!なぁ?こないだ覚えたんだ!」
「そう、なの、かな?えーっと…ありがとう。助けてくれて……」
リカは心ここにあらずで上空を見つめながらナランチャに答えた。
飛行機のスタンドなんて見たのが初めてだったからである。日差しを反射するボディは上等なラジコンのようでかっこいい。よくよく見ると、コックピットには小さな人が乗っているようだ。
「???」
じぃーっと自分の頭の上を見つめられてナランチャは面食らった。何か気になるものでもあるのだろうか。ちらりと確認してみたが、エアロスミスが浮いている以外は晴れ空が広がるばかりである。
ということは、だ。
「………。」
「………。」
ナランチャはエアロスミスを左右に動かした。リカは素直にそれを目で追った。その瞬間ナランチャの中で予想が確信に変わり、ビシッとリカに指を突き付けた。
「おっ!お前まさかッ!!スタンド使いかぁ??!」
「ナランチャてめぇぇえ!!!人がトイレ行ってる隙に何サボってんだ!!なんで単語を右から左に書くんだアラビア語でも勉強してんのか!!ほんっっとに馬鹿だな!!!」
「げぇぇっ!フーゴ!!」
戻ってきたフーゴがやっと追い付いた。キレているフーゴはナランチャにとって多大な恐怖である。ここぞとばかりに問題をそらそうとリカを生贄にした。
「そっ、そんなことよりフーゴ!こいつスタンド使いだぞっ!!エアロスミスが見えてやがるッ!」
「何っ!?…スタンド使い……彼女が?」
言われて初めてリカをちゃんと視界に入れたフーゴも面食らった。
全然その…喧嘩できそうな、血の気が多い感じには見えない。むしろ庇護欲を掻き立てられる儚さのある美少女だ。フーゴは無意識に姿勢を正していた。
「君……どこのチームの者だ?」
「そっ!そーだ!どこのチームの刺客だぁ〜?!許さねーぞこんな可愛い女の子がいるなんて!聞いてねぇ!」
「…私チームとかじゃないよ。生まれたときからスタンドが使えるの。この辺りはけっこうスタンドを見かけるね。やっぱり弓矢があるからかな」
意外な言葉にナランチャは服の下で握っていたナイフをしまった。
「えっ?そんなことってあるのか?生まれつきのスタンド使いぃ??」
「日本にはけっこういたよ。ポルポのとは別の矢もあったから、スタンド使いがたくさんいる町とかもあるよ」
「へぇぇ〜〜!」
「待て待てナランチャ!ごまかされてんじゃあないぞ!ポルポを知ってるなら完全に組織のやつじゃないか!!」
「へ?何?…どゆこと?」
「なんで今のでわからねーんだッ!!」
「いでっ!!?」
ばしーんとフーゴが持っていた参考書でナランチャの頭を叩いた。ちょっと遊んでみようと思っていただけのリカは、2人のノリっぷりに思わず笑ってしまう。
「ふふっふふふ」
「あっ!!からかったな!」
「うん。2人ともおもしろそうだったから」
「?!か…可愛い……!!クソッ!クソッ!!ずっりぃぞ!!マジでどこのチームの子なの?今度遊びに行こーよ!」
地団駄を踏むナランチャにリカはにこにこしている。
「いいよ。あ、あと私も一緒に勉強したいかも。スペルの問題苦手なの」
「やったぁぁぁ!!!でもさでもさ!こいつに教えてもらうのはやめといた方がいいぜぇー!すぐキレて暴れてくるから!」
「なっ、なんてこと言うんだ!それはお前の馬鹿が常軌を逸してるからだろーがッ!」
「私そういうの平気なの。日本から来てまだ友達少ないから…仲間に入れてもらえる?」
リカは本当に怒鳴られたりには臆しなかった。若き日の承太郎のアップダウンの方がフーゴよりよほど怖かったのである。
フーゴの方は自分がキレるのを見てここまでけろりとしている女性が初めてだったので、これまでの人生が救われるような、癒されるようなふわふわとした心地に包まれていた。
「…まぁ、任務がないときなら……別に構わないけど……」
「やった」
小さくガッツポーズをして跳ねるリカに少年たちは撃ち抜かれている。
こんな目立つ美少女が組織に…きっと彼女のチームの連中は必死こいて存在を隠していたに違いない。腹立つなぁ。そいつら痛い目みせてやりたいなぁ。
そんなことをふつふつと考えていた。
「それじゃあ、そろそろ行くね。勉強の邪魔しちゃ悪いし……スミスさんも、助けてくれてありがとう」
リカは今だにドルンドルンと辺りを周回しているエアロスミスに向かって頭を下げた。リカとの出会いにパニクっていたナランチャがスタンドを戻すのを忘れていたのだ。
「えっ?お前……エアロスミスを『スミスさん』って呼ぶの?」
「え?…だって、飛行機がエアロで、乗ってる人がスミスさん…なんじゃないの…?」
「……うっそだぁ。エアロスミスはエアロスミスだよ」
「…でも、誰か操縦してるよね?あれはスミスさん…じゃないの?」
「……マジで?あいつがスミスだったのか……?」
「あれ?でも操縦してるのはあなただよね。それじゃああの人は…え……??もしかしてお化け……?!」
「こえぇよ!急にやめろよなーっ!」
「だって、真っ黒だよ…?」
「やめろよぉぉお!」
馬鹿みたいな会話だなぁとフーゴはさめざめ2人を見つめた。しかしリカの存在があることで何故か苛立ちはなく、平和な心地で馬鹿みたいな会話を流すことができた。
そしてなんとそのまま、去ろうとする彼女を引き留めてお互いの電話番号を交換するに至ったのである!
みんなで休みの時連絡取り合って暇だったら集まろう的な約束まで取り付けた。すごく冴えている。フーゴは自分で自分を褒めてやった。
「そういえば、君の待ち合わせの相手なかなか来ないな」
「そうだね…。彼忙しいからいつも適当に会ってるの」
「ふぅん」
やっぱり彼氏かな。とナランチャとフーゴがこそこそ顔を見合わせていると、「あ、ブチャラティ」とリカがつぶやいた。
その名前に無意識に背筋が伸びる。そして遅れて何故リカがその名前を、と疑問が噴き出した。
「すまないな遅くなって…。思ったより手続きに時間がかかって……」
そしたら本当に本物のブチャラティが慌てた様子で登場したので目を疑った。
驚いたのはブチャラティも同じで、続くリカへの労いの言葉が頭から抜けてしまった。
「おいおいおい!!まさかっ!!リカが待ってたのってブチャラティのことかぁぁーーーッ!!?」
「お前たち……その…、休みの日にも一緒にいるなんて…仲がいいんだな…」
「ちょっと待ってくださいよ……えーと、不躾で悪いんですけど…2人の関係って…?」
フーゴは嫌な予感にさいなまれていた。このお似合いの美男美女がカップルである可能性が多大にあるからだ。しかし、仕事人間のブチャラティが女性にうつつを抜かしたりするだろうか。するかもしれない。そういえば最近いつになく忙しそうにしていたな…。もしかしたらリカのせいだったのかも。
そしてもう一つ。期待値を込めた可能性があった。それは組織の幹部候補であるブチャラティが、組織の一員であると思われるリカと行動を共にしている、ということは……。
「どうなんだよっ!ブチャラティ!?」
キラキラとナランチャに期待の眼差しを向けられ、ブチャラティはぐっと唇を結んだ。なんでミスタといいこいつらといい、紹介する前に勝手に出会うんだろうか。予定になかったし出来ればもうしばらく引き延ばしたかったのだが…。
ここで「そうだ。彼女は俺の恋人さ」とは言えないのが真面目人間の損なところである。
ブチャラティは色々と諦めてため息をつきつつリカを紹介した。
「彼女は俺たちの新しいチームメイトだ。お前ら仲良くしろよ」
「えっ」
「え?」
「えぇ?!」
あっけにとられているリカとフーゴより先に、なんとナランチャが状況を把握した。
「やったあああああ!!!」と叫んでの大ジャンプで大はしゃぎしている。
「女の子っ!女の子だっ!!初めてのぉぉ!女の子がうちにぃぃぃ!!なんだよブチャラティーっ!そーならもっと早く紹介してくれよぉぉーー!!」
「だっ、大丈夫なんですかブチャラティ…悪いけど、彼女にギャングがやれるとは思えませんけど……」
「…そうやってエアロスミスが飛んでるところを見ると、お互いスタンド使いだってことはわかっているな」
ということは、彼女にも何か特殊な能力が…。フーゴはやっとそれを思い出して押し黙った。
「チームメーイト!チームメーイトぉ!」
「わっわっわ!ちょっとやめてぇ〜〜!?」
ナランチャが喜びでリカの両手を握りしめてぶんぶんと上下させている隙に、ブチャラティがフーゴにこそこそと寄っていく。
「それに…リカはああ見えて仕事ができるんだ……お前が毎月文句言いながらこなしてる事務処理の負担が減るぞ…」
「うっ」
その瞬間、フーゴの脳内ではリカと2人きりでイチャイチャとデスクワークをする自分の未来が見えた。もはやスタンド云々がなくてもリカがチームの一員であることはすごく良いことだ。
「せっかくだし…全員で食事にするか…」
ちょっと疲れ気味のブチャラティに促されてお店に入ることにした。
「リカ」
ドアをくぐる前に腕を引かれてリカは振り返る。思いの外近くからフーゴが口元に手を添えて囁いてきたので緊張した。
「…アジトに勉強道具を持ってくるといい。ナランチャもそうしてるんです。約束通り、ときどき教えてあげるから」
「!……うんっ」
にこっと笑顔を見せてお店に入っていくリカの背中。髪の先から甘い香りが漂う。
ナランチャじゃないけど、フーゴも小躍りしたくなってしまう可愛らしさだった。