Love the darkness -5-
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リカはその日も常連のカフェのテラス席にいた。
ブチャラティに『仕事の合間に、一緒に街を散歩したい』と誘われていたからだ。学校が終わった後ここで待つように言われているのだ。
天気も良いし、ブチャラティと過ごすのはリカにとって居心地が良かった。今日は良い午後を過ごせそうだ。
「お待たせいたしました」
「ありがとうございまーす」
カフェの店員がテーブルに注文したアイスロイヤルミルクティを置く。
リラックスしていたリカはそれを横目に両手を空に向けて体を伸ばした。
それから喉を潤すためにグラスに手を伸ばしたら、後ろから飛んできた何かがリカより早くグラスに衝突し、グラリと背の高いそれが傾いた。
「「あっ!」」
声が重なる。
もう1人危機に気付いていたのはグラスに衝突した張本人だった。
仲間に殴られておもしろおかしくぶん投げられた小さなスタンド。NO.5がリカのテーブルの上で縮こまっている。
リカにはもちろん彼が見えた。しかし無害なそれよりも今まさに地面に向かって倒れゆくグラスに意識を集中させていた。
「〈darkness〉ッ!!」
それは一瞬のことで、頭を抱えていたNO.5が顔を上げるとグラスはたっぷりとドリンクを湛えたまま、テーブルの上に涼しげに鎮座している。リカが周囲の影を操りグラスと液体までもを受け止めて元に戻したのだ。
両手で頬杖を付き目下の小さなスタンドを眺める。どうにも悲しそうにうずくまっているので自然と声をかけていた。
「ねぇ…あなた泣いてるの?大丈夫?」
『………。』
「君のことよ」
『ウワァァ!』
ぽかんとしていたNO.5は頭をつんと指でつつかれて初めてリカが自分の存在を認識していることに気付いた。
『ミ、見エテイルノカ!俺ノコトガッ!!』
「うん。……それで、向こうから吹っ飛んできたあなたがグラスにぶつかって泣いてるように見えたんだけど…大丈夫?」
リカはそっと小さなスタンドの顔を覗き込んで、今度は指で優しく背中をさすった。NO.5は初めて触れた優しさにまたもや涙腺を崩壊させた。
人目もはばからず嗚咽をもらす(とはいえ周囲の人間には彼のことは見えないし聞こえないのだけれど)。
『アイツガァァ、イツモ俺ヲイジメテクルンダヨォォォ!スグニ殴ッテクルンダァ!俺ダッテ頑張ッテルノニィッ!!』
「……誰?」
『アイツダヨォォ!!NO.6ノヤツガァァ!ウワァァァン!!』
小さい体で信じられない量の涙を流すNO.5に若干引きつつ、リカは彼が指差す方を見た。特徴的な網目模様の帽子をかぶった、体格の良い青年が少し離れた席でソーセージとかの軽食を食べている。
(自分のスタンドをいじめるなんて、酷いやつね!)
ヘラヘラしているのを見ていたら、リカの中で正義感がメラメラと燃え上がってきた。
きっとスタンドを持っている故の万能感で調子に乗っているんだろう。ここはひとつ懲らしめてやろう。
リカはミルクティーを一気飲みしてから口元を拭うと席を立った。
「おいで。私がなんとかしてあげる」
『エッ?ナントカッテ……エッ?』
ツカツカ歩いて行くリカの後ろ頭を追いかけるNO.5。なびく彼女の髪は綺麗だったし、良い匂いがした。
そのことにNO.5だけではなくミスタも気付いた。なにせ誰もが振り返るような美女が正面から目の前まで近付いてきたのである。サラミが刺さったままのフォークを持ったまま上から下までマジマジ眺めてしまった。見れば見るほど不思議な雰囲気のある、吸い込まれそうな美人だ。
「ヘッ、ヘヘ……なんか今日は良い事ありそうな気がしてたんだよなぁ〜」
思わずニヤける顔を引き締めて、さっとフォークを皿に戻し咳払いをした。できる限りのキメ顔で無表情の美女を見上げる。
「座るかい?今日は客が多いからな…相席になるのも仕方ねぇよ」
実際ちらほら席は空いているのだが、すっかり逆ナンだと思い込んでいるミスタは意気揚々と隣の椅子を下げ始めた。
「…私、弱いものいじめする人キライなの」
「あ?」
一瞬外した視線を戻したときには、リカの細い手が大きく振りかぶっているところだった。
驚いている間もなくミスタの頬に平手がクリティカルヒットした。
ぶわしぃぃぃん!!と盛大に破裂音が炸裂したのも仕方のない事で、リカはダークネスを自分の腕から指まで薄いグローブのように纏わり付かせて攻撃力を上げていたのだ。
「ぶへぇッ!!?」
故にミスタは簡単に椅子から倒れて地面に転がった。一瞬何事かと他の客たちがどよめいたが、若い2人の揉め事に関わるべきではないと見て見ぬふりをしつつ距離を取るにとどまった。
リカは地面に伏せるミスタの真正面で仁王立ちして指を突きつけてやった。
「あんたねぇ!スタンドってゆーのは自分の分身なのよっ!そのスタンドをいじめるっていうのは、自分自身を傷つけてるのと一緒だわッ!!もっと自分を大事にしなさい!!」
「は?!……はぁぁ?!?」
「こんな小さくておしゃべりもできる可愛いスタンドを殴るなんて信じられない!泣いてるじゃないの!!最低っ!」
「なんっ、…つーか、スタンドって……あ!あーーっ!!NO.5!」
ジンジンする頬を抑えて混乱する頭をどうにか機能させていたミスタは、ようやくリカの肩のところに自分のスタンドの一体が浮いているのに気がついた。
『ナンダヨアイツーー!戻ッテコナイト思ッタラエロイ姉チャン引ッカケテキタゾーー!』
『ズッリーーー!!テメーチャッカリシテンジャネェゾォォ!』
『チャンスダゼミスタァァァ!!口説ケェェ!!』
「うるせーー!!てめーら俺がビンタされたの見てなかったのかよ!!」
倒れた椅子の陰にこれまた小さなスタンドがたくさん集まっているのにリカもようやく気付いた。たくさんいるとますます可愛い…。しかしそんなこと考えてる場合ではなく、スタンドは『1人につき一体』の思い込みがいまだに抜けていない自分に反省した。さらによくよく見ると、彼らの額に番号が振られている…。
反撃されるかも、というものではなく、嫌な予感が背中を駆け抜けた。
『ウェエ〜〜ン!違ウヨォォ。ソイツハ俺タチノ本体ノミスタダヨォォ!NO.6ハア・イ・ツ!!』
『ナンダヨテメェ〜ヤル気カァーコラァァ!』
NO.5がまたメソメソしている。威嚇してくる額に『6』のあるスタンドを見てリカはショックを受けた。
(ビンタしてしまった…!無実の人を急に……!!)
(間違いねぇ…!こいつ、ピストルズが見えてやがる……組織の人間か……?!)
「ご、ごめんなさいっ!!」
「お」
別のチームの奴が攻撃してきたのかもしれない。咄嗟にそう思い隠し持っている銃に手を伸ばしたミスタだったが、リカが急にしおらしくなって飛びついてきたので驚いた。
ジョースター家から『疑わしい奴はとりあえず殴る』精神を受け継いでいるリカはそれを猛烈に反省した。地面に倒れ込んでいるミスタのそばに膝をつき、頭の下に腕を回して彼を支える。座り込むリカの上半身に密着してミスタは怒りや疑いを一瞬で忘れ去った。
「勘違いで引っ叩いてごめんなさい!あなたがスタンドをいじめてるのかと思ったの。あの子泣いてたから……。スタンド同士で喧嘩してるのもどうかと思うけど、とにかくあなたのせいじゃなかった…!本当、ごめんね…すごく痛いでしょう?私強いから…」
(うおおおお?!!近けぇぇ!!)
膝枕のような体勢で上から覗き込まれ、ミスタは緊張で固まった。柔らかい感触に触れているそこがじんじんと熱い。上には不安げにこちらを覗き込む美女。肌は陶器のように滑らかで、良い匂いがする。
(さ、触っちまう……!少しでも顔を上げたら、…唇がッ!!)
『イッケェェーーーッ!!ミスタアァァ!!!』
分身であるミスタのスタンドたちが大興奮している。それはまさしくミスタの心の叫びでもあった。もはや出会い頭にビンタされたのも遠い記憶。今のミスタは目の前の美女と午後を楽しむことしか考えていなかった。
「腫れなかったらいいんだけど……」
手のひらにダークネスを貼り付けて、リカはミスタの頬を冷やそうとした。それでますます距離が縮まるものだから、ミスタの唇が前のめりになってしまうのも仕方のないことである。
「おいっ!てめーら何してやがるッ!店に迷惑かけてんじゃあねーぞッ!!」
その怒声にミスタの顔は反射で一瞬の内に引き締まった。
つかつかと歩幅を広くしてやってきたのはブチャラティだ。鼻歌混じりに良い気分でリカを迎えにきたのに、店に着いたとたん客に助けを求められてしまった。若いカップルが揉めて暴力沙汰になっていると。
しかし近付いてみるとそこにいるのは見知った顔の2人だった。
「!リカ…に、ミスタ?……なんでお前たちが」
「ブチャラティ!」
リカは彼の顔を見た途端安心して瞳を輝かせた。抱き寄せていたミスタをぱっと離して立ち上がると、助けを求めてブチャラティの胸元に身を寄せた。
ミスタは突然のことにごつんと頭を床に打ち、ブチャラティは2人が何故こんなにも密着していたのか理解できず、ふつふつと苛立ちを募らせていた。
「どうしようブチャラティ!私…あの人がスタンドをいじめてると思って、怒って殴ってしまったの。怪我させちゃったわ。どうしよう…!」
「落ち着けリカ。あいつが怪我をしてるって?どこをどういうふうに?…俺には公衆の面前で鼻の下伸ばしてる間抜けにしか見えなかった」
「気をつけろブチャラティ!そいつただのかわい子ちゃんじゃねぇ!!スタンド使いだッ!!」
「ああ…そうだとも。お前が喚かなくてもリカのことはよーく知っている」
「はぁ?!なんだよ、知り合いか?……もしかしてブチャラティ、まさかあんたの」
痛む後頭部をさすりながらミスタが思わず口にしたのは、ブチャラティが極自然にリカの肩を抱き寄せて庇うように身を寄せていたからである。
「……2人とも仲良くしろよ。これからは同じチームの仲間なんだから」
「え?」
「えっ?」
ブチャラティは冷静だった。冷静に目の前の2人は思っていることが顔に出るタイプなんだなと確信した。
ミスタは横目でリカをチラチラ盗み見ながらにやにやが止まらないし、リカは眉間に皺をよせて眉を八の字にしておろおろしている。
「なんだよぉ〜ブチャラティ!もっと早く紹介しろよ!なんかよぉ〜…今日は良いことあるような気がしてたんだ…これってやっぱりぃー、運命ってやつー?」
「い、嫌だ…ブチャラティ……だってこの人、スタンドが6匹もいる上にみんなしゃべるしスタンド同士でケンカしてたのよ。絶対変な人だわ。変な人だからスタンドもなんか変わってるのよ。絶対そう!仲良くなれない気がする」
「変な人だぁ?出会い頭にビンタしてきたお前が言うなよな……ま、おかげで距離があっという間に縮まったわけだし良しとするか」
「そうか?俺には離れていってるようにしか見えないが…」
正直な感想を述べたブチャラティにミスタはその肩を叩きながら爆笑している。
ミスタの陽気さに急には合わせられず、リカは落ち着かなかった。でも、よく見たら笑っているのはミスタ1人でブチャラティも真顔だったのでほっとした。
ふと斜め下を見たら、彼のスタンドの1人…泣き虫のNO.5がやっぱり涙目でこっちを見ている。うるうるの瞳の上目遣いにリカは息を詰めた。
『俺トハ仲良クシテクレナイノカヨォォ〜…リカ〜』
「うっ…そ、そんなことないよ…(可愛い…)」
『抜ケガケシテンジャネェゾーNO.5!仲良クスンノハ俺ダーッ!!』
『俺モ!』
『俺モ!』
『好キダー!』
『パイオツ!』
目の前にぎゅむっと勢揃いしたピストルズたちは可愛いけど興奮していて怖かった。
「ブ、ブチャラティ…!」
「…ミスタ、ピストルズを引っ込めろ」
「お、おお……」
ミスタが素直に従ったのは、自身の精神体だと言われるスタンドが暴走しそうで怖かったからだ。(『見ロヨアノケツ!』『パツンパツンダァーッ!』『プルップルダァァ!』『ヤッタアァァァ!!』)
銃を服の中に戻して静かになると、後にはさめざめとしたブチャラティとリカの視線が突き刺さるばかりだった。
「へへ…まぁ、悪かったな…騒がしくてよ」
「いいよ別に。素直な人は好きだよ」
「……そぉか。そんなに俺のことが好きか」
「?!」
「すまん、リカ」
顔色を悪くして助けを求められ、ブチャラティは本気で謝った。ミスタはどうかしている。ビンタされたショックでアホな何かが始まっている。そう思わずにはいられなかった。
ブチャラティに『仕事の合間に、一緒に街を散歩したい』と誘われていたからだ。学校が終わった後ここで待つように言われているのだ。
天気も良いし、ブチャラティと過ごすのはリカにとって居心地が良かった。今日は良い午後を過ごせそうだ。
「お待たせいたしました」
「ありがとうございまーす」
カフェの店員がテーブルに注文したアイスロイヤルミルクティを置く。
リラックスしていたリカはそれを横目に両手を空に向けて体を伸ばした。
それから喉を潤すためにグラスに手を伸ばしたら、後ろから飛んできた何かがリカより早くグラスに衝突し、グラリと背の高いそれが傾いた。
「「あっ!」」
声が重なる。
もう1人危機に気付いていたのはグラスに衝突した張本人だった。
仲間に殴られておもしろおかしくぶん投げられた小さなスタンド。NO.5がリカのテーブルの上で縮こまっている。
リカにはもちろん彼が見えた。しかし無害なそれよりも今まさに地面に向かって倒れゆくグラスに意識を集中させていた。
「〈darkness〉ッ!!」
それは一瞬のことで、頭を抱えていたNO.5が顔を上げるとグラスはたっぷりとドリンクを湛えたまま、テーブルの上に涼しげに鎮座している。リカが周囲の影を操りグラスと液体までもを受け止めて元に戻したのだ。
両手で頬杖を付き目下の小さなスタンドを眺める。どうにも悲しそうにうずくまっているので自然と声をかけていた。
「ねぇ…あなた泣いてるの?大丈夫?」
『………。』
「君のことよ」
『ウワァァ!』
ぽかんとしていたNO.5は頭をつんと指でつつかれて初めてリカが自分の存在を認識していることに気付いた。
『ミ、見エテイルノカ!俺ノコトガッ!!』
「うん。……それで、向こうから吹っ飛んできたあなたがグラスにぶつかって泣いてるように見えたんだけど…大丈夫?」
リカはそっと小さなスタンドの顔を覗き込んで、今度は指で優しく背中をさすった。NO.5は初めて触れた優しさにまたもや涙腺を崩壊させた。
人目もはばからず嗚咽をもらす(とはいえ周囲の人間には彼のことは見えないし聞こえないのだけれど)。
『アイツガァァ、イツモ俺ヲイジメテクルンダヨォォォ!スグニ殴ッテクルンダァ!俺ダッテ頑張ッテルノニィッ!!』
「……誰?」
『アイツダヨォォ!!NO.6ノヤツガァァ!ウワァァァン!!』
小さい体で信じられない量の涙を流すNO.5に若干引きつつ、リカは彼が指差す方を見た。特徴的な網目模様の帽子をかぶった、体格の良い青年が少し離れた席でソーセージとかの軽食を食べている。
(自分のスタンドをいじめるなんて、酷いやつね!)
ヘラヘラしているのを見ていたら、リカの中で正義感がメラメラと燃え上がってきた。
きっとスタンドを持っている故の万能感で調子に乗っているんだろう。ここはひとつ懲らしめてやろう。
リカはミルクティーを一気飲みしてから口元を拭うと席を立った。
「おいで。私がなんとかしてあげる」
『エッ?ナントカッテ……エッ?』
ツカツカ歩いて行くリカの後ろ頭を追いかけるNO.5。なびく彼女の髪は綺麗だったし、良い匂いがした。
そのことにNO.5だけではなくミスタも気付いた。なにせ誰もが振り返るような美女が正面から目の前まで近付いてきたのである。サラミが刺さったままのフォークを持ったまま上から下までマジマジ眺めてしまった。見れば見るほど不思議な雰囲気のある、吸い込まれそうな美人だ。
「ヘッ、ヘヘ……なんか今日は良い事ありそうな気がしてたんだよなぁ〜」
思わずニヤける顔を引き締めて、さっとフォークを皿に戻し咳払いをした。できる限りのキメ顔で無表情の美女を見上げる。
「座るかい?今日は客が多いからな…相席になるのも仕方ねぇよ」
実際ちらほら席は空いているのだが、すっかり逆ナンだと思い込んでいるミスタは意気揚々と隣の椅子を下げ始めた。
「…私、弱いものいじめする人キライなの」
「あ?」
一瞬外した視線を戻したときには、リカの細い手が大きく振りかぶっているところだった。
驚いている間もなくミスタの頬に平手がクリティカルヒットした。
ぶわしぃぃぃん!!と盛大に破裂音が炸裂したのも仕方のない事で、リカはダークネスを自分の腕から指まで薄いグローブのように纏わり付かせて攻撃力を上げていたのだ。
「ぶへぇッ!!?」
故にミスタは簡単に椅子から倒れて地面に転がった。一瞬何事かと他の客たちがどよめいたが、若い2人の揉め事に関わるべきではないと見て見ぬふりをしつつ距離を取るにとどまった。
リカは地面に伏せるミスタの真正面で仁王立ちして指を突きつけてやった。
「あんたねぇ!スタンドってゆーのは自分の分身なのよっ!そのスタンドをいじめるっていうのは、自分自身を傷つけてるのと一緒だわッ!!もっと自分を大事にしなさい!!」
「は?!……はぁぁ?!?」
「こんな小さくておしゃべりもできる可愛いスタンドを殴るなんて信じられない!泣いてるじゃないの!!最低っ!」
「なんっ、…つーか、スタンドって……あ!あーーっ!!NO.5!」
ジンジンする頬を抑えて混乱する頭をどうにか機能させていたミスタは、ようやくリカの肩のところに自分のスタンドの一体が浮いているのに気がついた。
『ナンダヨアイツーー!戻ッテコナイト思ッタラエロイ姉チャン引ッカケテキタゾーー!』
『ズッリーーー!!テメーチャッカリシテンジャネェゾォォ!』
『チャンスダゼミスタァァァ!!口説ケェェ!!』
「うるせーー!!てめーら俺がビンタされたの見てなかったのかよ!!」
倒れた椅子の陰にこれまた小さなスタンドがたくさん集まっているのにリカもようやく気付いた。たくさんいるとますます可愛い…。しかしそんなこと考えてる場合ではなく、スタンドは『1人につき一体』の思い込みがいまだに抜けていない自分に反省した。さらによくよく見ると、彼らの額に番号が振られている…。
反撃されるかも、というものではなく、嫌な予感が背中を駆け抜けた。
『ウェエ〜〜ン!違ウヨォォ。ソイツハ俺タチノ本体ノミスタダヨォォ!NO.6ハア・イ・ツ!!』
『ナンダヨテメェ〜ヤル気カァーコラァァ!』
NO.5がまたメソメソしている。威嚇してくる額に『6』のあるスタンドを見てリカはショックを受けた。
(ビンタしてしまった…!無実の人を急に……!!)
(間違いねぇ…!こいつ、ピストルズが見えてやがる……組織の人間か……?!)
「ご、ごめんなさいっ!!」
「お」
別のチームの奴が攻撃してきたのかもしれない。咄嗟にそう思い隠し持っている銃に手を伸ばしたミスタだったが、リカが急にしおらしくなって飛びついてきたので驚いた。
ジョースター家から『疑わしい奴はとりあえず殴る』精神を受け継いでいるリカはそれを猛烈に反省した。地面に倒れ込んでいるミスタのそばに膝をつき、頭の下に腕を回して彼を支える。座り込むリカの上半身に密着してミスタは怒りや疑いを一瞬で忘れ去った。
「勘違いで引っ叩いてごめんなさい!あなたがスタンドをいじめてるのかと思ったの。あの子泣いてたから……。スタンド同士で喧嘩してるのもどうかと思うけど、とにかくあなたのせいじゃなかった…!本当、ごめんね…すごく痛いでしょう?私強いから…」
(うおおおお?!!近けぇぇ!!)
膝枕のような体勢で上から覗き込まれ、ミスタは緊張で固まった。柔らかい感触に触れているそこがじんじんと熱い。上には不安げにこちらを覗き込む美女。肌は陶器のように滑らかで、良い匂いがする。
(さ、触っちまう……!少しでも顔を上げたら、…唇がッ!!)
『イッケェェーーーッ!!ミスタアァァ!!!』
分身であるミスタのスタンドたちが大興奮している。それはまさしくミスタの心の叫びでもあった。もはや出会い頭にビンタされたのも遠い記憶。今のミスタは目の前の美女と午後を楽しむことしか考えていなかった。
「腫れなかったらいいんだけど……」
手のひらにダークネスを貼り付けて、リカはミスタの頬を冷やそうとした。それでますます距離が縮まるものだから、ミスタの唇が前のめりになってしまうのも仕方のないことである。
「おいっ!てめーら何してやがるッ!店に迷惑かけてんじゃあねーぞッ!!」
その怒声にミスタの顔は反射で一瞬の内に引き締まった。
つかつかと歩幅を広くしてやってきたのはブチャラティだ。鼻歌混じりに良い気分でリカを迎えにきたのに、店に着いたとたん客に助けを求められてしまった。若いカップルが揉めて暴力沙汰になっていると。
しかし近付いてみるとそこにいるのは見知った顔の2人だった。
「!リカ…に、ミスタ?……なんでお前たちが」
「ブチャラティ!」
リカは彼の顔を見た途端安心して瞳を輝かせた。抱き寄せていたミスタをぱっと離して立ち上がると、助けを求めてブチャラティの胸元に身を寄せた。
ミスタは突然のことにごつんと頭を床に打ち、ブチャラティは2人が何故こんなにも密着していたのか理解できず、ふつふつと苛立ちを募らせていた。
「どうしようブチャラティ!私…あの人がスタンドをいじめてると思って、怒って殴ってしまったの。怪我させちゃったわ。どうしよう…!」
「落ち着けリカ。あいつが怪我をしてるって?どこをどういうふうに?…俺には公衆の面前で鼻の下伸ばしてる間抜けにしか見えなかった」
「気をつけろブチャラティ!そいつただのかわい子ちゃんじゃねぇ!!スタンド使いだッ!!」
「ああ…そうだとも。お前が喚かなくてもリカのことはよーく知っている」
「はぁ?!なんだよ、知り合いか?……もしかしてブチャラティ、まさかあんたの」
痛む後頭部をさすりながらミスタが思わず口にしたのは、ブチャラティが極自然にリカの肩を抱き寄せて庇うように身を寄せていたからである。
「……2人とも仲良くしろよ。これからは同じチームの仲間なんだから」
「え?」
「えっ?」
ブチャラティは冷静だった。冷静に目の前の2人は思っていることが顔に出るタイプなんだなと確信した。
ミスタは横目でリカをチラチラ盗み見ながらにやにやが止まらないし、リカは眉間に皺をよせて眉を八の字にしておろおろしている。
「なんだよぉ〜ブチャラティ!もっと早く紹介しろよ!なんかよぉ〜…今日は良いことあるような気がしてたんだ…これってやっぱりぃー、運命ってやつー?」
「い、嫌だ…ブチャラティ……だってこの人、スタンドが6匹もいる上にみんなしゃべるしスタンド同士でケンカしてたのよ。絶対変な人だわ。変な人だからスタンドもなんか変わってるのよ。絶対そう!仲良くなれない気がする」
「変な人だぁ?出会い頭にビンタしてきたお前が言うなよな……ま、おかげで距離があっという間に縮まったわけだし良しとするか」
「そうか?俺には離れていってるようにしか見えないが…」
正直な感想を述べたブチャラティにミスタはその肩を叩きながら爆笑している。
ミスタの陽気さに急には合わせられず、リカは落ち着かなかった。でも、よく見たら笑っているのはミスタ1人でブチャラティも真顔だったのでほっとした。
ふと斜め下を見たら、彼のスタンドの1人…泣き虫のNO.5がやっぱり涙目でこっちを見ている。うるうるの瞳の上目遣いにリカは息を詰めた。
『俺トハ仲良クシテクレナイノカヨォォ〜…リカ〜』
「うっ…そ、そんなことないよ…(可愛い…)」
『抜ケガケシテンジャネェゾーNO.5!仲良クスンノハ俺ダーッ!!』
『俺モ!』
『俺モ!』
『好キダー!』
『パイオツ!』
目の前にぎゅむっと勢揃いしたピストルズたちは可愛いけど興奮していて怖かった。
「ブ、ブチャラティ…!」
「…ミスタ、ピストルズを引っ込めろ」
「お、おお……」
ミスタが素直に従ったのは、自身の精神体だと言われるスタンドが暴走しそうで怖かったからだ。(『見ロヨアノケツ!』『パツンパツンダァーッ!』『プルップルダァァ!』『ヤッタアァァァ!!』)
銃を服の中に戻して静かになると、後にはさめざめとしたブチャラティとリカの視線が突き刺さるばかりだった。
「へへ…まぁ、悪かったな…騒がしくてよ」
「いいよ別に。素直な人は好きだよ」
「……そぉか。そんなに俺のことが好きか」
「?!」
「すまん、リカ」
顔色を悪くして助けを求められ、ブチャラティは本気で謝った。ミスタはどうかしている。ビンタされたショックでアホな何かが始まっている。そう思わずにはいられなかった。