Love the darkness -5-
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『あっちで喧嘩があって、女の子が襲われている』。
ブチャラティはそう聞いて教えられた路地裏に駆け込んだ。
しかし目の前に飛び込んできたのは、泣いている2人の少年たちと、その場で何かを見下ろし立ちすくんでいる少女。そして、見下ろされているのが地面に倒れたチンピラ2人だった。
「?!……??」
想像と違う光景に混乱していると、少女がくるりとめそめそしている少年たちを振り向いた。
「ほら、もう泣かないで。こうなるってことがわからなかったのね」
「うっうっ……ありがとう」
手に握りしめた紙幣数枚を少年の胸に押し付ける。伸びているチンピラの存在をないものにするような、優しい存在だった。
「今は、暗闇の中にいるように感じているのかもしれない。でも、どんな夜にも星は輝いてる…その光を見上げて生きていくのよ。きっとその道が正しくて、あなたの人生を誇れるものにしてくれる」
少年たちは泣きながらもしっかり頷いてその場を去った。
離れたところから聞いていたブチャラティにも少女の言葉は素直に心に沁みて納得できた。
おそらく自分より年下のか弱そうな少女だが、彼女には妙な凄みがある。
一体何者なのだろう。
自然と足が路地の奥に向かった。
「これ…君がやったのか?」
チンピラを挟んで声をかけると、また少女が振り向いた。思わずどきりとするような猫っぽい顔立ちと、しなやかな四肢をしている。薄い水色のロングヘアーは染めているのだろうか。
「……。」
少女は上から下までブチャラティを眺めると、思い出したようにチンピラをちらりと見た。
そして、去っていく少年たちの背中を指差した。
「…あの子たち……殴られていたの。麻薬を買うお金が足りないからって」
「!」
「だから私は、『麻薬は返すからお金を返して』って言ったの。それで……こうなった」
「こう、とは?もう一度聞くが…こいつを倒したのは君なのか?」
ブチャラティは狼狽えていた。
この街には子供に麻薬を売る奴らがいて、それを少女が助けている。本来なら街を守るのは自分の役目で、しかし自分の所属する組織自身が麻薬を売り捌いて広めているのだ。
「……あなたもしかして、ブローノ・ブチャラティ?」
じっとこっちを見ていた少女がはっと目を大きくしたので、その瞳の光にブチャラティは一瞬見惚れた。気を引き締めるために姿勢を正す。
「そうだが…何故俺を知っているんだ」
「みんな言ってるから。ブチャラティが守ってくれるって」
「………。」
「この街はギャングが守ってるんでしょ?」
「ああ…そうだよ」
「これ見て」
ブチャラティの言葉を聞いているのかいないのか、少女は無慈悲に転がっているチンピラを跨いでブチャラティのすぐ近くまでやってきた。甘い香りがする。
「これは…」
少女が差し出した手のひらには、よく知るパッショーネのバッジが4つ乗っていた。
ポルポの入団試験を合格した者のみに与えられる、組織の一員であることを証明するバッジだ。
それを今、いつの間に手の中に握りしめていたのだろう。
そう疑問が思い浮かんだが、視線を鋭くした少女にブチャラティは何も聞けなかった。
「ボディチェックをしたのよ。子供達を泣かせるやつらはみんな持ってた。どうして同じバッジを?麻薬を売ってるやつらはみんな仲間なの?」
「……。」
「そしてこれは…あなたがいる組織のものなんじゃないの?」
「…そうだ…綺麗事だけじゃあ街は守れないからな」
「……私はね」
ぐっとブチャラティの目の前で握り込んだ華奢な拳から、パキリとバッジが破壊される音がする。
少女は怒っていた。美人が怒ると怖いとはよく言ったものだ。
「善良なふりしたクズがいることなら良く知ってるの。街の人たちの信頼を裏切って子供にまで麻薬を広めるのが、あなたの組織の守り方?」
「……。」
「あなたもそうなの?」
「違う!俺は…」
反射的に否定したが言い訳はできなかった。
悔しいことにブチャラティには組織の現状をどうすることもできない。
苦虫をかみつぶす想いで少女を見た。
「いや……そう思われても、仕方がないな。確かに俺の組織には麻薬を売ってる奴らもいる…嘆かわしいことだが子供にまで…」
「ギャングだもんね」
「だが俺は決して…麻薬には手を出さない。自分もやらないし、まして子供に売り付け薬漬けにするようなゲスなことは絶対に」
「……。」
「俺はこの街を守りたいと思っている…だが確かに、君の言うとおり善良なふりをした組織で働く人間だ。…今も、本来なら仲間を張っ倒しバッジを奪った君を捕まえて上に報告しなきゃならないんだ」
「本来ならってことは、私を捕まえたりはしないってこと?」
少女が意外そうに瞬きを繰り返し、ブチャラティはその様に少し空気が変わったのを感じとる。そして子供達を守った少女に感謝と尊敬の念を抱いた。
「しないさ。むしろ礼を言わなきゃならない。君は俺にできないことをやってくれた」
「…えらい人に怒られない?」
「君がこいつらをやったのを俺は見ていないからな」
「ああ、よかった!あなたが良い人で」
少女が初めて笑った。
ほっと安心したその表情にブチャラティも癒された。
「良い人って…そんな簡単にギャングを信じるのか?」
「ギャングは信じないけど、あなたのことは信じることにした。正しい道を進んでる人がわかるの。たくさん見てきたから」
「そうか……ありがとう」
「これ、あなたに返しておくわね」
受け取ったパッショーネのバッジ。少し手が触れ合い、信頼が生まれたのがわかった。
少女が力任せに握りしめたので少しばかり金属同士で削れている。
ブチャラティはそれをポケットに入れた。
「ところで…本当に、こいつら君1人で倒したのかい?」
「そうよ!見かけによらず強いからね〜私っ。あなたとも戦わなきゃいけないかと思った」
「戦う?…俺と?」
「2秒ぐらいで勝てるかな〜」
よろよろとシャドウボクシングを始める少女にブチャラティは思わず笑った。
スタンドを持つ自分と彼女じゃ勝負にならないと思ったからだ。
ブチャラティが笑うと嬉しそうに少女も笑った。
「それじゃあね、ギャングさん。頑張って。…あなたが街を守りたいっていうなら、私も手伝ってあげるから」
「待て。……君の名前は?」
「リカよ。リカ・ウィンチェスター」
「見かけない顔だが…アメリカ人か?」
「そう。語学留学中なの」
「充分しゃべれている気がするが…」
「っていうのは嘘で、ほんとは人生のバカンス中」
ふわふわと掴めない子だ。
ブチャラティはリカに興味が湧いてくる自分を否定しなかった。
その場から背を向けて明るい大通りの方を指差す。
「君のこともっと知りたいな。一緒にランチでもどうだ?奢るから」
「イタリアの人ってこうだよね!」
「?」
「Wow!」と大袈裟にリアクションするリカはとてもじゃないが先ほど怒っていたのと同じ人物には思えず、チャーミングだ。
リカが後ろをついてくるのを確認してから、ブチャラティは新鮮な気持ちでいっぱいだった。
ブチャラティはそう聞いて教えられた路地裏に駆け込んだ。
しかし目の前に飛び込んできたのは、泣いている2人の少年たちと、その場で何かを見下ろし立ちすくんでいる少女。そして、見下ろされているのが地面に倒れたチンピラ2人だった。
「?!……??」
想像と違う光景に混乱していると、少女がくるりとめそめそしている少年たちを振り向いた。
「ほら、もう泣かないで。こうなるってことがわからなかったのね」
「うっうっ……ありがとう」
手に握りしめた紙幣数枚を少年の胸に押し付ける。伸びているチンピラの存在をないものにするような、優しい存在だった。
「今は、暗闇の中にいるように感じているのかもしれない。でも、どんな夜にも星は輝いてる…その光を見上げて生きていくのよ。きっとその道が正しくて、あなたの人生を誇れるものにしてくれる」
少年たちは泣きながらもしっかり頷いてその場を去った。
離れたところから聞いていたブチャラティにも少女の言葉は素直に心に沁みて納得できた。
おそらく自分より年下のか弱そうな少女だが、彼女には妙な凄みがある。
一体何者なのだろう。
自然と足が路地の奥に向かった。
「これ…君がやったのか?」
チンピラを挟んで声をかけると、また少女が振り向いた。思わずどきりとするような猫っぽい顔立ちと、しなやかな四肢をしている。薄い水色のロングヘアーは染めているのだろうか。
「……。」
少女は上から下までブチャラティを眺めると、思い出したようにチンピラをちらりと見た。
そして、去っていく少年たちの背中を指差した。
「…あの子たち……殴られていたの。麻薬を買うお金が足りないからって」
「!」
「だから私は、『麻薬は返すからお金を返して』って言ったの。それで……こうなった」
「こう、とは?もう一度聞くが…こいつを倒したのは君なのか?」
ブチャラティは狼狽えていた。
この街には子供に麻薬を売る奴らがいて、それを少女が助けている。本来なら街を守るのは自分の役目で、しかし自分の所属する組織自身が麻薬を売り捌いて広めているのだ。
「……あなたもしかして、ブローノ・ブチャラティ?」
じっとこっちを見ていた少女がはっと目を大きくしたので、その瞳の光にブチャラティは一瞬見惚れた。気を引き締めるために姿勢を正す。
「そうだが…何故俺を知っているんだ」
「みんな言ってるから。ブチャラティが守ってくれるって」
「………。」
「この街はギャングが守ってるんでしょ?」
「ああ…そうだよ」
「これ見て」
ブチャラティの言葉を聞いているのかいないのか、少女は無慈悲に転がっているチンピラを跨いでブチャラティのすぐ近くまでやってきた。甘い香りがする。
「これは…」
少女が差し出した手のひらには、よく知るパッショーネのバッジが4つ乗っていた。
ポルポの入団試験を合格した者のみに与えられる、組織の一員であることを証明するバッジだ。
それを今、いつの間に手の中に握りしめていたのだろう。
そう疑問が思い浮かんだが、視線を鋭くした少女にブチャラティは何も聞けなかった。
「ボディチェックをしたのよ。子供達を泣かせるやつらはみんな持ってた。どうして同じバッジを?麻薬を売ってるやつらはみんな仲間なの?」
「……。」
「そしてこれは…あなたがいる組織のものなんじゃないの?」
「…そうだ…綺麗事だけじゃあ街は守れないからな」
「……私はね」
ぐっとブチャラティの目の前で握り込んだ華奢な拳から、パキリとバッジが破壊される音がする。
少女は怒っていた。美人が怒ると怖いとはよく言ったものだ。
「善良なふりしたクズがいることなら良く知ってるの。街の人たちの信頼を裏切って子供にまで麻薬を広めるのが、あなたの組織の守り方?」
「……。」
「あなたもそうなの?」
「違う!俺は…」
反射的に否定したが言い訳はできなかった。
悔しいことにブチャラティには組織の現状をどうすることもできない。
苦虫をかみつぶす想いで少女を見た。
「いや……そう思われても、仕方がないな。確かに俺の組織には麻薬を売ってる奴らもいる…嘆かわしいことだが子供にまで…」
「ギャングだもんね」
「だが俺は決して…麻薬には手を出さない。自分もやらないし、まして子供に売り付け薬漬けにするようなゲスなことは絶対に」
「……。」
「俺はこの街を守りたいと思っている…だが確かに、君の言うとおり善良なふりをした組織で働く人間だ。…今も、本来なら仲間を張っ倒しバッジを奪った君を捕まえて上に報告しなきゃならないんだ」
「本来ならってことは、私を捕まえたりはしないってこと?」
少女が意外そうに瞬きを繰り返し、ブチャラティはその様に少し空気が変わったのを感じとる。そして子供達を守った少女に感謝と尊敬の念を抱いた。
「しないさ。むしろ礼を言わなきゃならない。君は俺にできないことをやってくれた」
「…えらい人に怒られない?」
「君がこいつらをやったのを俺は見ていないからな」
「ああ、よかった!あなたが良い人で」
少女が初めて笑った。
ほっと安心したその表情にブチャラティも癒された。
「良い人って…そんな簡単にギャングを信じるのか?」
「ギャングは信じないけど、あなたのことは信じることにした。正しい道を進んでる人がわかるの。たくさん見てきたから」
「そうか……ありがとう」
「これ、あなたに返しておくわね」
受け取ったパッショーネのバッジ。少し手が触れ合い、信頼が生まれたのがわかった。
少女が力任せに握りしめたので少しばかり金属同士で削れている。
ブチャラティはそれをポケットに入れた。
「ところで…本当に、こいつら君1人で倒したのかい?」
「そうよ!見かけによらず強いからね〜私っ。あなたとも戦わなきゃいけないかと思った」
「戦う?…俺と?」
「2秒ぐらいで勝てるかな〜」
よろよろとシャドウボクシングを始める少女にブチャラティは思わず笑った。
スタンドを持つ自分と彼女じゃ勝負にならないと思ったからだ。
ブチャラティが笑うと嬉しそうに少女も笑った。
「それじゃあね、ギャングさん。頑張って。…あなたが街を守りたいっていうなら、私も手伝ってあげるから」
「待て。……君の名前は?」
「リカよ。リカ・ウィンチェスター」
「見かけない顔だが…アメリカ人か?」
「そう。語学留学中なの」
「充分しゃべれている気がするが…」
「っていうのは嘘で、ほんとは人生のバカンス中」
ふわふわと掴めない子だ。
ブチャラティはリカに興味が湧いてくる自分を否定しなかった。
その場から背を向けて明るい大通りの方を指差す。
「君のこともっと知りたいな。一緒にランチでもどうだ?奢るから」
「イタリアの人ってこうだよね!」
「?」
「Wow!」と大袈裟にリアクションするリカはとてもじゃないが先ほど怒っていたのと同じ人物には思えず、チャーミングだ。
リカが後ろをついてくるのを確認してから、ブチャラティは新鮮な気持ちでいっぱいだった。
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