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船の部屋で過ごす夜が思ったより蒸し暑くて、寝付くことができなかった。
私は1人甲板に出て、座って夜空を眺める。
船がさざなみを割る音以外は、鳥もいないし静かだった。満点の星空を見ていたら、キラキラって輝く音が聞こえてくるみたい。
風が通るし部屋よりだいぶ涼しい。気持ちが良くてその場に寝転んだ。そのままずりずりと背中で移動して、船首の柵スレスレまでやってきた。
波の音と船の揺れで、このままここで眠ってしまいそう。
「……やれやれ。こんなところにいたとはな」
目をつぶる前に低い声が小さく聞こえた。
閉じかけていた瞼を上げて声の方を見たら、出入り口のドアを開けて承太郎が立っている。
私が体を起こす前にすぐに歩いて隣にやってきた。仰向けで寝てる私を見下ろして、まるで巨人みたいに大きい。
「月が隠れちゃった」
承太郎の背中に邪魔されて、視界が少し暗くなった。それがおかしくて笑ったけど、承太郎は相変わらず険しい顔をしている。
「…星、綺麗だよ。」
怒られそうな予感がして誤魔化すために空を指差した。承太郎は私を見ていた。
「1人になるな。助けてやれねぇ」
「ここ海の上だよ」
「……。」
肩をすくませる承太郎。
海上で敵のスタンドに襲われた私たちにはなんの説得力もなかった。
「暑くて寝れなかったんだもん」
「窓を開けておくんだな」
「はぁい」
承太郎は私がここにいるのが気に入らないみたい。急につまんなくなっちゃった。
私はこの空間から離れるのが名残惜しくて一度目を閉じた。無理矢理引っ張られる前に自分で起きなきゃあね。
でもその前に体に影が出来た。
目を開けたら承太郎が隣に座っていた。驚いてじっと見ていたら、私と同じように仰向けに寝転んでしまった。
「…確かに、星がよく見えるな」
「………そうなの。」
まさか付き合ってくれるとは思っていなかったので驚いた。
こんなに近くにいるの、初めてかも。
その行動が不思議でマジマジ見つめてしまったけど、承太郎はゆっくり息をしながら空を見つめている。
私は承太郎の瞳の中でたくさんの星がきらきら輝いているのを見た。吸い込まれそうでどきどきした。分かるわけないのにそれがバレてしまうんじゃないかと思って、私は慌てて承太郎の真似して空を見上げた。
そして、どうして承太郎がここにやってきたのかを考えた。こんなところにいた、と言っていたということは、もしかして私を探していたのかな。…そんなわけないか。
「…寝れなかったの?承太郎」
「………まぁな。」
結局当たり障りのないことを聞いたら、曖昧な返事が返ってきた。
私は承太郎を元気付けたかった。
眠れないということは、何か原因があるんだろう。
旅やママのことが不安なんだろうと思った。だって私がそうだから。
でも、承太郎は強いし頭も切れるし頼れる仲間だっているし…強いし(2回目)、私が出来ることなんてなさそう。
でも良いこと思いついたよ。
「ねぇ、見て。」
私はくるりと寝返りを打つと、今度はうつ伏せになって肘をつき、胸から上だけ背中をそらせて起き上がった。
「?」
今度は承太郎が不思議そうにしてたけど、私の真似してうつ伏せにしてくれた。
生まれたときからそうだったのよ。
どんなに不安で絶望して落ち込んでたって、暗闇は私の味方だった。
「ダークネス」
柵から手を出して海にかざすと、ただの真っ暗闇だったそれはダークネスに帯状に吸収されてどんどん丸く集まっていく。
空中にいくつかの真っ黒なボールが出来上がるころには、暗闇の海にぽっかり穴が空いたみたいに、そこだけ水族館みたいに綺麗な青い世界が映し出されていた。
海の暗いところを吸い取って、明るくしただけなんだけど……まるで光り輝く別世界みたいに綺麗に見える。揺れる珊瑚礁も泳ぐ魚たちも空が息をして泳いでいるみたいだった。
それは背中の満点の星空に匹敵するほどで。
「……ここまでとはな……」
承太郎はマジマジと明るい海を見つめて驚いていた。
ぽつりと聞こえてきた言葉が嬉しくて誇らしくて、私は自分が作った水族館に夢中になった。
ゆらゆら揺れる青い世界と次々現れるたくさんの生き物を、私たちはすぐ近くで並んで観察した。
「ねぇ、きれいだね。」
次はみんなでこの光景が見れますように。
海面に手をかざしたまま、祈るように承太郎に声をかけた。
「……ああ。」
耳に直接低い声が響いた気がして、私はやっと海から承太郎に視線を向けた。至近距離で目が合った。
承太郎は私のが映ったみたいに穏やかに微笑んでいる。
承太郎は海じゃなくて私を見ていた。いつからか分からないけど、とにかく私を見ていた。
どうしてそんなに優しい目をしているんだろう。
「……眠たくなってきた?」
「そりゃあお前の方だろ」
「そろそろやめる?」
「…そうだな。」
名残惜しいけどダークネスを解除する。解放された闇が海に帰っていく。
段々光が消えていく中で、承太郎は少し笑って私の目元を指でなぞった。ごつごつしてるけど、壊れ物に触れるみたいに繊細な触れ方。
「海なら、いつでも見れる」
瞳を覗き込むようにされてまた距離が縮まった。
目を閉じてもう一度開けたら、周りの風景は穏やかな夜にすっかり戻っていた。
頭上では満点の星空が輝いている。
「行くか」
先に立ち上がった承太郎が差し出した手を取った。温かくて安心してぎゅっと握り込む。承太郎の力はもっと強かった。
「それにしてもいろんな魚がいるもんだな。……図鑑でも買ってみるか。」
「私も欲しい!」
そんなことを話しながら船の中に戻った。
やっぱり蒸し暑かった。
