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なんだか涼しくなってきたなぁと思いながら、リカは1人でテレビを見ていた。
友達と遊びに行くには遅いし、承太郎が帰ってくるには早い時間。
なんとなーく壁にかかっているカレンダーを見て、急に飛び上がった。
「えっ、10月?!10月だった!!!」
そしてテレビをつけっぱなしのまま、すぐに台所に駆け込んだ。
「ホリーさん、デパート行こうっ!!」
「???」
リカに背を向けていたホリーが、野菜片手に不思議そうに振り向いた。
もちろん可愛い娘であるリカからの頼みを断るわけがなく、ホリーはすぐにお抱えのタクシーを呼びつけるとデパートに繰り出した。
ちなみに承太郎が帰る前に2人で家を出たので、あと少しで帰ってくる承太郎はもぬけの空の家でリカがいないことにそわそわとすることになる。
「なんで、なんで日本はこんなに静かなの?!」
子供服の売り場で高級ブランドのクローゼットを漁るリカ。
あれもダメこれもダメ。
にこにこと背中を見守るホリーと、リカの必死な様子に少しだけ苦笑いしている店員を他所に、あっちこっちからそれらしきものをかき集めてきた。
例えば、もこもこのカチューシャと尻尾をつけた猫ちゃん風。
「きゃあああ!可愛いわぁぁ〜!!『にゃん』って言ってぇええ!」
マントみたいなロングポンチョのドラキュラ風。
「いつでも襲ってぇぇえ!!」
白いマフラーをぐるぐるに巻いた、ミイラ男風。
「マフラーじゃなくて私があっためてあげたぁぁああい!!!」
楽しくなってきて止まらないリカのファッションショーをホリーが助長する。
所詮彼女もジョースター家の1人。リカへの愛が無限大なのである。今まさに鼻から血が出てきそうなくらいにはリカにメロメロになっていた。
「うん、決めたっ。これにする!」
悩みに悩んだコスプレセットを目の前で広げてみせるリカに、ホリーはただただ拍手を送ったのだった。
(そして他にもたくさん買い物をして帰った。承太郎が呆れていた。)
それから数日が経ち。
承太郎が学校帰りに考えていることといったら、「そろそろインナーを着ないと寒いなこりゃ」という平和そのものの普通のことだった。
もう11月か。冷えてくるのも当たり前だな。
そーいえばリカのやつこの間えらく服を買って来ていたな。どれもこれも足が出るようなやつだったがそんなの何枚あったって一緒だろうが。ちょっとは隠そうって気がねぇのかよ。見てるこっちが寒いわ。何枚かこっそり破いといてやろうか。そしてズボンをはかせるんだ。そうすりゃあのクソガキにちょっかいかけられることも減るだろう。最近足も長くなってきやがって、もしめくられてパンツでも見えようもんなら俺のスタープラチナが何をするかわからねぇ。
「…しかし、気に入ってるのを破いたら怒るだろうからな……それはそれでうっとおしいぜ…」
最終的にスカートを破る変態的な独り言を漏らしながらドアを開けて玄関に入ると、目の前に話題のリカがいた。
「Trick or Treat!!」
流暢な発音で何かを叫んだリカが、ライオンのような、両手を顔の横で「がおー!」とさせるポーズで待ち構えている。
しかし承太郎の時を止めた(スタープラチナは使っていない)のは、そのポーズだけではなかった。
「Trick or Treat!」
もう一度、がおー!と承太郎に迫るリカ。
ハロウィンの衣装にリカが選んだ服装は、小悪魔風セットである。
黒いタイトなミニスカワンピに編みタイツ、ヒールのある黒いブーツ、手作りの黒い角と矢印みたいな細くて長い尻尾。それらを身に纏い、ホリーに頼んでネイルとお化粧もしてばっちり決まっている。
そんなおしゃまな小悪魔が、今まさに承太郎の心臓を止めようとしていた。
「………は?」
「お菓子ちょうだい!!」
「何を言ってんのかわからねぇ」
「なんでわからないの!今日ハロウィンだよ!?」
「…??」
そのハロウィンが分からない承太郎には好きな子が何故かセクシーなコスプレをして自分に迫ってきていることしか分からない。
念の為一度時間を止めてマジマジと目の前のリカを眺めまわしたが、やはり可愛いこと以外はさっぱり分からなかった。
ふぅふぅと呼吸を整えてから平静を装う。
「…おいリカ…てめぇ、土足で家に上がるんじゃねぇ」
「えっ」
「なんだ、そのハロウィンってのは」
「…なんだ、知らないの」
楽しそうな空気が一変、すんと勢いを無くしたリカに少し気が引けたが、一度かっこつけた手前そのまま廊下に上がってリビングに向かう。
「ガキのくせに大人の真似なんかしやがって」
「そんなのしてない。ハロウィンだから、モンスターにならないと、連れてかれちゃうんだよ」
リカはぽいぽいとブーツを脱ぎ捨てながら、後ろをとことこ着いてきた。うねうねしっぽが揺れて大変可愛い。承太郎は気付かれないようににやりとしている。
2人で廊下を歩きながらハロウィンのなんたるかを簡単に聞いた。
「そういや、ガキの頃おふくろがなんか騒いでいたな。ハロウィンか」
「だからお菓子ちょうだい。くれないとイタズラするからね!」
「どういう二択だよ」
部屋に入り、どっかりとあぐらをかく承太郎。リカはハロウィンの認知度の低さに腕を組み、むすっと承太郎を睨み下ろしている。下から見る小悪魔もまた良い。承太郎の財布の紐も緩くなるというものである。
「ったく、仕方ねぇな……」
お菓子なんて持ち歩く習慣のない承太郎はとにかくリカの機嫌を直すために課金することにした。これで菓子でもなんでも買いな。というか一緒に出かけるか。
そう言う前に中身を確認しようとズボンのポケットから財布を取り出して、パカっと開いた。
しかしその行動が、承太郎の脳みそもパカっと開かせてしまった。
「……そういや、イタズラってのはどういうやつかな」
「……え?」
きょとんと組んでいた腕を解いたリカに承太郎の方がイタズラ心を芽生えさせている。
「いや、よく考えたら菓子なんざ持たねぇし、買えるほど金もなかったなと思ってよ」
「…お菓子くれたらイタズラしないよ」
財布を閉じてしまった承太郎にリカは不安を覚えていた。それを取り出した瞬間、正直もうお小遣いをもらうことしか考えていなかったのだ。
「さっきお前言っていたよなぁ?なんだったかな、もう一度言ってみてくれねぇか。ハロウィンの決めゼリフなんだろ」
「Trick or Treat?」
「イタズラにするぜ」
「嘘でしょ!?」
「さて、何をしてくれるのかな」
ふふんと余裕の微笑みを浮かべている承太郎にリカは追い詰められていた。まさかハロウィンにお菓子(またはそれに準ずるもの)をもらえないなんて思っていなかったのである。何故かイタズラされる気満々の承太郎を前に段々いたたまれなくなってきた。
かくなる上は攻撃するしかない。
「…えーーーいっ!!!」
「うっ!」
苦し紛れにあぐらの承太郎の上にどーん!と乗ってやった。飛びついた際に悪魔の角が頬に突き刺さり、承太郎に多少のダメージを与えることに成功した。それでもしっかりリカの体を抱き止めて捕まえた承太郎の執念の勝利である。
「ケーキ食べたいっ!!」
結局おいしい甘いものを食べることしか考えていなかったリカは、まともにイタズラできなかった恥ずかしさを誤魔化すために両手を上に伸ばしてから、さらに承太郎に飛びついた。悔しい顔を見られたくなかったのだ。
「こりゃいいな」
承太郎は全部分かって笑っているし、リカの細い体を抱き込んで長くて柔らかい髪に顔を埋めた。
「おいしい〜〜っ!毎日ハロウィンでもいいのになー」
その後無事に2人でデパートのケーキ屋さんに出向いた。さすがに悪魔の格好は辞めさせたものの、ミニスカワンピは絶対着ていくと言って譲らないリカ。
目の前で嬉しそうにケーキを頬張る彼女はワンピースの上から承太郎の上着を羽織っている。
「勘弁してくれ。財布が保たねぇ」
コーヒー片手にそれを眺めつつ、保たないのは財布じゃなくて心臓の方だなと妙に納得した承太郎であった。
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