Love the darkness -3-
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「…リカ。……リカ、起きなさい」
病室のベッドで目を覚ましたら、まるで旅が始まったばかりみたいに錯覚した。
優しさと厳格さが混ざる表情のジョセフは、すっかりいつもどおりの帽子をかぶった格好で私を見下ろしていた。
「さっさと支度しな」
その後ろで無粋にしている承太郎も、すっかり綺麗になったいつもの学生服姿に戻っている。
あくびをしながら起き上がった私は、両手を上げて背筋を伸ばしながら、この旅が終わってしまうのを感じていた。
「……ダンスでもするか?ん?」
「え……嫌……」
嬉しそうに私の伸びた両手を掴んでゆらゆらさせるジョセフを無視してベッドから降りた。
項垂れるジョセフを承太郎が不憫なものを見る目で見ていた。
あれよあれよと促されて2人と一緒にスピードワゴン財団の車に乗った。
「……どこ行くの?」
「まぁ……後始末をつけにな」
「?」
承太郎は帽子を目深にかぶって教えてくれなかった。
「ここらで良いじゃろう……おい、停めてくれ」
「???」
わけわかんないままエジプト砂漠の最中で車を降りた。
財団のスタッフの人たちがトランクから降ろした袋を見て、ようやくなんでこんなところに来たのかに勘づく。
「ディオ」
袋の中に収まっているであろうディオの体に自然と駆け寄っていた。でも、触れる前に承太郎の腕が通せんぼしてきたので立ち止まった。
砂の上に袋が置かれてジッパーが開き、中にも太陽の光が差し込む。
これで、ディオは完全に…魂も体も、この世界から消えてなくなる。
なんだかすごく切なかった。
私は優しく肩を制する承太郎の手をどけようとしたけど、強い力で引き離せない。
後ろからジョセフも近付いてきたので、私がディオの姿を見ることはもう叶わないんだってわかった。
「……リカ…お前の……ウィンチェスターの一族は特別な家系じゃ…波紋の一族と同じく人ならざる者たちを相手に戦っていた…ジョースター家の古くからの友人だった」
ディオが眠る袋から煙が立ち登り始める。
「わしの祖父ジョナサン・ジョースター、ディオ、そして……ウィンチェスターの少年が共に過ごした時代があった。彼はジョナサンとディオに大きな影響を与えたようだ…若くして病気で亡くなっているが…」
ジョセフが語るのを聞きながら、私はディオの煙が消えていくのをなすすべなく見ていた。そして、彼との会話を思い出していた。
約束ってなんだったの?
望んでいた世界ってどんなところ?
私は無意識に肩にある承太郎の手を握りしめていた。私より強い力で握り返してくれた。
「承太郎…お前もリカに初めて会ったとき感じただろう。何ものにも変え難い特別な感情を…それはわしの祖父ジョナサンが、共に過ごしたウィンチェスターの少年に抱いていたものと同じ想い……そしておそらく、ディオも…」
ふわりと最後の煙が消えてしまって、ディオが本当にいなくなったんだってことを実感した。
私が生まれるずっと前から続いてきた奇妙な関係性は、きっととっても複雑で深いものだったんだろう。幻覚だろうけど、最後に見たディオと私の遠い家族の顔はとても純粋で嬉しそうだった。それを思い出したら涙が浮かんで、承太郎の手にこぼれた瞬間後ろから余計に引き寄せられた。
「だが、それももう終わりだぜ…そいつの魂は、…ディオの元に返ったんだからな」
「ああ、そうだ…リカが己を犠牲にして、彼の魂をディオに返した……しかし、2人が再会するまでに多くの人がディオに貸したものは…もう返ってはこない…」
「……。」
「だが…その彼らのおかげで、わしらは今…生きている。全く奇妙じゃが…この結果は、リカの魂の中にいた彼のおかげでもある…」
神妙な空気の中でみんなが押し黙っていた。
そんな空気のまま、私たちは病院に戻った。
動けるようになったのりくんとポルナレフを交えて併設されているカフェでランチをすることにした。
「うまっ!なんだようまいじゃねーか!病院食も最初からこのカフェの料理にしてくれりゃいいのによぉー!」
「病み上がりによく食べますね…」
がつがつパスタを頬張るポルナレフと呆れてるのりくんを見ていたら、自然と笑みが浮かんでしまう。
「どーしたリカ?このポルナレフのハンサム顔に見惚れたかぁ?」
「違うけど、なんか嬉しくて」
にこにこしてたら何故かみんなは動揺してるみたいに目を泳がせた。
そっか。さっきまでみんな、国に帰る話をしていたから…。旅も終わりだし、当然だよね。
でもやっぱり寂しいものは寂しくて顔が曇る。
「…オホン、それで…リカ。お前はどーするんじゃ」
「え?」
改まってジョセフに声をかけられた。一瞬何の話をされたのかわからなくて言葉を失う。承太郎は私の横で見るからに顔をしかめてジョセフを睨み付けていた。
「ウィンチェスターの一族は今も健在…アメリカやイギリス、ドイツなどで人智を超えた存在を相手に活動しておる。特別な力を持ったお前が活躍できるところはたくさんあるんじゃよ」
「…そうなんだ……」
私って案外、天涯孤独ってわけでもないのね。
密かに感激していたら、私とジョセフを遮るように承太郎が手を出してきた。
「おいおい待ちなクソジジィ。今更どこの馬の骨とも知れねぇやつらにこいつを渡しちまうってのか。てめぇ、責任感ってもんはねぇのかよ」
「いや、だから…ウィンチェスターの……」
「おい、花京院。ジジィの言うことをどう思う?」
「大事なのはリカの意思なのでは…」
「なんだと?…てめぇ、見損なったぜ花京院」
「君の意見と違ってごめん」
「いや、だいたいなぁ、日本よりアメリカの方が教育も進んどるし、この子の未来のためには良いと思うんじゃが」
「少なくとも日本の方が平和だぜ」
「アメリカのエンタメは最高だぞ!」
「リカも日本が好きだって言っていたしな…」
「お前!そんなの本気にしとるのか!?」
なんだかみんな(主におじいちゃんと孫が)盛り上がってきた。
私は平和を実感しながら1人でのんびりデザートのパフェを食べる。甘くておいしい。おいしくて勝手に足がテーブルの下でぶらぶらした。こつんと足が当たったら、正面にいたポルナレフがこそっと身を乗り出してきた。
「おい…リカ!どうすんだよこの状況……じーさんと孫が乱闘になっちまうぞ!」
ポルナレフは咎めるような口調とは反対にえらく楽しそうだった。
でも、確かに狭いカフェの中でかなり目立っている…。なんだか恥ずかしくなってきて、私は急いでチョコバナナをもぐもぐして飲み込んだ。
「私、行かない」
しん、と静まり返るテーブル。なんなのみんな。大人のくせに子供みたいなんだから。
「知らない人のところには行かない。日本に帰る」
ますます時が止まったようになってしまった。誰かがごくりと生唾を飲んだ音がする。
何?なんで急にこんな緊張感に包まれなきゃいけないの?
誰もしゃべらないって何。まだ私、何か言わなきゃいけない?迷っていたら承太郎と目が合って、キラキラしているグリーンの瞳に捕まったら…言葉が口をついて出た。
「承太郎と離れたくないの」
がしゃん、とやけに響く硬そうな音。承太郎が飲んでいた水のコップをテーブルに倒した。
めったに起こらない失敗に驚いて、承太郎相手だしつっこみ入れられない雰囲気…。
「………水、こぼれてるけど」
「………!!」
のりくんが指さす通り、承太郎の太もものところまで水がしたたって濡れている。
けど承太郎はそんなの構うことなく、両手を組んで完全にそこに顔を埋めてしまった。ほんと何してるんだろ、さっきから…??
「…………水、こぼれてるけど…」
さすがにのりくんも扱いに困ってるみたいで、それしか言えないみたいにさっきとまったく同じセリフを繰り返すだけだった。