Love the darkness -3-
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(どうですお嬢さん……ひとつ私と賭けをしませんか?あの少年のシュートが決まるかどうか……)
(いや〜無理でしょ〜〜。あんな小さい子があの太っちょ抜けるわけないし?)
(フフ…では私は決まる方に賭けましょう。なんなら魂を賭けて…)
(おおげさ!でも、魂賭けてもゴールしないと思う!)
丘の広場にいたにこにこ楽しそうなおじさんとおしゃべりしてた。
承太郎と離れて1人でいたら、ちょっとのびのびできちゃう自分がいた。きっといつでも一緒にいすぎて息が詰まってたんだね。
(……戻ったら、謝った方がいいよね……)
心配してくれてるんだって、わかってるんだけどな。
「ほら、始まりましたよ」
おじさんに指さされて少年たちのサッカーのなりゆきを見守ってたら、ゴールを守ってた太っちょの子は何故か飛んでくるボールと反対方向に飛び退いた。
1番小さな子の弱々しいシュートがゴールの中に転がった。
そうしたら、体の中までがっしり掴まれたみたいに動けなくなって、私の意識はそこで途切れた。
なんで最後に喧嘩なんてしちゃったのかな。視界が真っ暗になる直前、私はやっぱり承太郎のことを考えていた。
「………目を覚ましたか。相変わらず鈍い奴だな」
「寝顔を勝手に見ないで。お金取るよ」
ベッドの上で目を開けたら、すぐ目の前に綺麗な顔があったので反射的に言い返した。まるで勝手に口がしゃべったみたいだった。
「ふふ」と意地悪そうに唇の端を歪めて、曲げていた体を起こしたその人。それが誰か悟った瞬間、背中に汗が噴き出した。
「やはり……妹ではなく、貴様の方だったな」
しみじみと呟きながら私を見ているのは……ディオだ。
ジョセフの念写した写真では暗くて顔なんてよく分からなかったけど、こうして目の前にいる今、私はこの人がディオだって確信していた。
「まったく…とんだ約束を取り付けてくれたものだ…。つくづくジョースターの血統には邪魔をさせられる…しかしこれで、あとは承太郎とジョセフを始末しさえすれば……お前もそうして待ったかいがあったというものだろう」
「私…何も待ってないんだけど」
ベッドの上で後ずさる私を見下ろしながら、ディオは意地悪そうに喉を鳴らしている。
私には何故か彼が嬉しそうに見えた。
邪悪な色気を感じて気味が悪いのに。どうしてか……ジョセフや承太郎といるときみたいにほっとしてる自分がいた。それがすごく怖かった。まるでディオに会えたのが嬉しいみたいに錯覚したから。
「始末なんてさせないから!2人も!みんなのこともッ!!」
混乱する感情をはねつけるように、部屋の影を集めてダークネスで攻撃態勢に入った。手を伸ばしたら、刃となったダークネスがディオに向かっていく。
でもそれらは届かなかった。攻撃はディオに届く寸前で露さんして煙みたいに消えていった。
何が起きたかわからなくて、ダークネスが私の言うことを聞かないなんて絶望した。今戦わなくてどうするっていうの!
「…やめておけ。お前が俺を攻撃したくとも、お前の魂がそれを拒否しているのだ」
持っていた本を片手でパタンと閉じると、ディオは近くの椅子をさらに引き寄せてベッド脇に座ってきた。すごく気軽な感じに。少なくとも命を狙い合う敵同士の距離じゃあ絶対ない。
じっと見てくるディオは隙だらけで、自然と私も少し警戒をといてしまった。
「た、魂……??」
「そうだ。今は無自覚でもこのディオと過ごせばその内馴染んでくるだろう。お前の魂はジョースターではなく……この俺のものなのだからな」
あれ……なんかこの人………やばくない?
急に魂がどうのこうの、あげくに俺のものだとか……。
不気味すぎて真顔で冷や汗をかいてる私を見つめながら、やっぱりディオは意地悪そうに、でもちょっと嬉しそうににやりとしている。
声も動作も全部がセクシーで、すらりとした腕を伸ばすと指で私の顎から唇の端をなぞった。
殺されると思って怖くて動けなかった。
「…お前がこうして俺の前に現れたのなら、俺の方も約束を守らねばならん。連れて行ってやろうじゃあないか。お前が望んだ世界に……」
「あの……本当に、何を言ってるのかわからない。…誰かと、勘違いしているんじゃないの…?」
「ふ…ぬけぬけと良く言う。おのずとわかるようになるだろう。このディオと共にあればな」
「共にって……ちょっと…無理だと思う。だってあなた、見るからに性格悪そうだし…」
またすらすらと口が勝手にしゃべったみたいだった。初対面の化け物を怒らせる気まんまんらしいセリフに絶望した。
ピクリとディオの片眉が吊り上がる。
「ははははは!やはり間違いないな。お前は何ひとつ変わっておらぬわ」
(やだもうほんと怖い!!)
私とあなたは何ひとつ噛み合っておらぬが。
それはそれはきれいな笑顔のディオにぞわぞわ鳥肌を立てていたら、ふと彼が小脇に抱えてる本が目に入った。
ーーーーーー『Winchester's journal』
表紙には筆記体でそう書かれてある。
ウィンチェスターズジャーナル……ウィンチェスター………私の姓も、ウィンチェスターだ。
その本はなんなの?
そう聞こうとしたとたん頭が痛んだ。頭と、胸の奥深くが軋んだ。
「………妹は、どこなの……ッ」
「ああ……双子だと聞いたので魂もふたつに分かれているのではと思ったが……余計な心配だったようだ。お前と相対して確信したぞ。この俺がお前を間違うことなどあるものか……あの妹は用済みだな」
さっきから戦う気持ちはあるのにダークネスがかけらも出てこない。それどころか目の前の家族の仇に縋り付きたい気持ちが止まらなくて、胸の痛みが恐怖なのか切なさなのかわからないまま大きくなってきた。
(でも…、違う)
私が飛び込みたいのはこんな奴じゃなくて承太郎の胸の中だ。ぎゅって包まれたら安心する。不安定な心がゆっくり、どきどきして温かくなるんだよ。絶対に間違えないから。
約束したんだもん。死ぬまで一緒にいるって。
「ッ…、妹を、返して!…承太郎のママを返して!!」
必死に声を絞り出したら吐き気がした。
すぐにディオの大きな手が私の首を掴んだからだった。
なんとか息はできるけど、苦しくて涙が浮いてくる。
「不憫なやつよ……なまじ人への未練があるのでそうしてジョースターに肩入れする…お前の本来の願いはすでにこのディオが聞いているぞ…!何故そうして…抵抗するのだ…!」
「ぅ……ぐ……ッ」
ダークネスはやっぱり出てこない。
苦しむ私をディオは間近からじろじろ見ている。
「ふむ………やはり良い」
(変態!!!)
意識が遠のいていく中、コンコンと部屋のドアが外からノックされた音が聞こえた。
「ディオ様」
「………。」
「……ディオ様?」
「……。」
「ディ、ディオ様……」
さらにもう一度名前を呼ばれて、ディオはやっと私を離してくれた。もはや気絶するしかなかった。