Love the darkness -3-
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「ねぇ〜なんか!ジョセフとアヴドゥル、来るの遅すぎない?」
「おっせーよなぁ〜。朝シャンでもしてんのかなぁ〜??」
ホテルの近くで私たちは別室だったジョセフとアヴドゥルが来るのを待っていた。ポルナレフと2人で今朝は豪勢に行くぜ!と勝手に決めていたので、みんなで一緒に出かける約束をしていたのだ。ぼけっとその場にしゃがみ込んでる私たちの近くで、承太郎も暇なのか地面の石ころを蹴っている。
「お腹すいた!お腹すきすぎたからさぁ!お店の下見行こうよ!!朝だからあっちこっちから良い匂いするっ!」
「おっ、いいねぇ〜。先に店を決めとこうぜッ!ついでにほんとに美味い店なのか味見といくかぁ!」
「デザートあるとこにしようっ」
「コーヒーを挽きたての豆で淹れてくれるとこにしようっ」
あっさごはん♪あっさごはん♪とノリノリで歩き出す私とポルナレフ。来てない2人のことはもう忘れている。
一度ホテルを見上げてから、承太郎も「やれやれだぜ」とついてきた。
なのにいつの間にかポルナレフはいなくなっていた。間違いなく「敵が現れた」って言い残して…。
「攻撃を受けたと見て間違いねぇだろう…とにかく探すぜ」
「う、うん!」
なんて承太郎と話してたのも束の間、背後から嫌な気配がして振り向いた。細道から不自然に影が伸びてきている。速い。
「くっ!」
とっさにジャンプして避けたけど、少しだけ影を踏んでしまった気がする。すすす、と戻っていく道の中に男が佇んでいた。
「…ポルナレフを探しているのかい?えらいねぇぇ〜〜〜」
気持ち悪いグラサンと気持ち悪い髪型の不気味なおじさんだった。
咄嗟に戦えるように構えて承太郎を呼ぼうとしたけど、すぐにその名前は出てこなくなった。
「…?!…???えっと…あ、あんた何っ?」
近づいてくるその男がどんどん大きくなる。
私の服と靴が少しぶかっとしてきて、何が起きたのかわからないまま私はそのおじさんに抱え上げられた。
「はなしてっ!」
「こんな可愛い女の子を痛めつけるチャンスなんて滅多にないんだがなぁ〜〜…しかし、ディオ様の命令とあれば仕方ねぇ…暴れるなよぉ。無事に連れてこいって命令なんだ」
「?!」
ディオ様…ディオ……って、なんだっけ?
すごく大事なことのような気がするのに、なんで思い出せないのっ?!
おじさんは私を抱えたまますぐに小道に逃げ込んだ。建物の窓に映った姿を見て、私は自分が小さくなってしまったことに気付いた。7歳とかそのぐらい……ということは!わかったわ!こいつがポル……私の仲間をどこかにやったのね!はやく…はやくえ〜っと、もう1人の!仲間に知らせなきゃ!てゆーかこいつを倒さなきゃ!
「〈darkness〉ッ!!」
「!ほぉ〜…そいつがお前のスタンドか……なんだか俺のと似てるなぁ。同じ影のスタンド同士、仲良くしようぜぇ」
「うぐぐぐ…っ!」
ダークネスは思ったように発動しなかった。動きも遅いし影は大して集まってこない。そして変態おじさんに首を絞められてすぐに掻き消えてしまった。必死で息をしてる私を間近で眺めて、おじさんは恍惚としている。
「へっへっへっへ……可愛いねぇ〜〜」
(ぎゃああああ!!?)
ベロンとほっぺたを舐め上げられて声にならない悲鳴を上げる。心が助けを求めてあのお兄さんの姿を思い出すけど、名前も、誰なのかもわからない。でも、忘れたくない。私のこと特別に深いグリーンの瞳で見つめるあの人のこと。
その顔をまぶたに焼き付けようとぎゅっと目を閉じて苦しさに耐えた。
逃げた私の仲間を追いかけて誰かの家に侵入したおじさんは、それはもう酷かった。家の住人であるお姉さんを胎児にまで小さくして、3歳ぐらいにしか見えない私の仲間ももう少しで溺れ死ぬところまで追い詰めた。3歳のおもらしのおかげで慌てふためくおじさんの手から私も逃れ、その子と一緒に別の部屋に逃げ込んだ。
「えぇ〜〜もぉ〜どうしようどうしよう〜っ」
「そうだ!これ…!」
おじさんが扉を斧で叩き割っている隙に、男の子が壁の鏡を外して魚が泳ぐ水槽にそれを沈め始めた。彼が何をしようとしてるのかやっと気付いた私は、急いで男の子に近付いた。
「早く!お姉さんをこっちに!私があいつの気を引くからっ」
「でもっ、君もどこかに隠れないと…!」
「あいつ私には手出し出来ないんだって!ディオって人に連れてくるように命令されてるの!だから早くっ!」
「でも…なんでそこまで…!」
「あいつをやっつけないと!君のこと知らないけど、…私たち、仲間でしょ!?」
「!…う、うん…っ」
男の子が水槽の中に隠れた直後、バガァン!!と一際大きい音がしてドアが割れた。隙間からおじさんがベロベロと舌を出している。きっしょい。全身鳥肌が立った。
「うっ…いない!ポルナレフがいないぞっ!あのガキ…鉄格子を無理やり抜けて外に逃げたのかぁッ!?」
あの子ポルナレフっていうんだ…。
変態おじさんはポルナレフを探して部屋にあるものを次々に破壊していった。怖い。怖いけどおねえさんのことを守らなきゃ。キャミソールの中の小さな赤ちゃんをそっと抱きしめ直す。
ポルナレフが見つからないので、おじさんは気持ち悪い声色で私に擦り寄ってきた。
「可愛い可愛いおじょうちゃ〜ん?あのクソガキ、どこに隠れたか知ってるよなぁ〜??それとも!お前のスタンドで隠したのかぁぁ?!!さっさと教えろ!!さもなきゃディオ様に引き渡す前にイイコトしちゃうぞぉ〜〜あぁ〜ん??!」
「そ、その前に教えて……その、ディオって人は…なんで私を捕まえようとしてるの…?」
「なんで?……さぁな。あの方の考えることはわからんよ…ただ、お前がディオ様の昔の友人に似てるとかなんとか……とにかく大人しく来た方が身のためだぜぇ〜?あの方について行けば人生ラクショーだッ!」
何…?昔の友人に、似てる?
なんで友達に似てたら私を攫わなきゃいけないの…??
わけわかんなかったけど、それ以上考える賢さもなかった。とにかく今は、この変態おじさんをやっつけなきゃ。これ以上怖い目に遭いたくないよ。
「……人生ラクショー…かな?おじさん、2歳児に知恵比べで負けてるのに」
「な、なんだとぉ〜〜??!」
「ふっふっふっふっふ」
ついにポルナレフが水槽から姿を現した。水槽の魚が消えても鏡のカラクリがわかってないおじさん、馬鹿すぎ。
「いくら2歳のチャリオッツでも、顔を切り刻むことぐらいはできるよぉーーーんッッ!!」
「ギャアァァーーーーッ!!!」
飛び出したポルナレフとチャリオッツに顔を切り裂かれて、おじさんはパニックだ。「えらくない」と繰り返しながら部屋から逃げ出した。
「今だッ!〈darkness〉!!」
私は戦いの最中、ずっとダークネスの中に溜め続けていた影を一気に放出させた。7歳でスタンドの力が弱いので、ここぞという時のためにずっと力を蓄えていたのだ。
私の攻撃はおじさんの背中にクリティカルヒットした。2度目のギャアァァと共に窓をぶち割り2階から地面に落ちていく変態おじさん。さすがに動ける怪我じゃないでしょう!
「いぇーーいっ!!ざまぁみろー!ポルナレフ!早く来てっ!!」
「ま、待ってよ〜……あっ!お兄さん!誰だっけ!誰だっけ?!」
2人で窓から身を乗り出すと、私が必死に忘れまいと記憶を引き留めているあのお兄さんが訝しげに変態おじさんの様子を伺っていた。
「そいつ悪い奴なの!捕まえて!」
「?!まさか…お前、リカ…か…?」
「あっ!そいつの影に気をつけて!!」
「!!」
ポルナレフが慌てて声をかけたけど、変態おじさんの影がお兄さんに触れてしまった。跳んで避けたけど遅かったみたい。着地と同時に小さくなっていくお兄さんに私たちは絶望した。
「…やれやれ。子供だからってなめんなよ…」
勝利宣言する変態おじさんの顔に、小さな拳が叩き込まれるまで。
「あ!殴った!生身の子供の拳で……」
「う、嘘でしょ…」
目の前の光景に思わずポルナレフと顔を見合わせた。もう一度下を見たら、間違いなく小さなお兄さんが変態おじさんをぼこぼこに殴り倒していた。この人…子供の時からこんな強かったのか…怖。
「わぁーーーいっ!やったぁー!すごいすごぉーいっ!!」
胎児のおねえさんを元通りバスルームに優しく置いてから、私たちは急いで家から飛び出した。
「あなたならなんとかしてくれると思ったの!ありがとうっ!!」
「どういうことだ…?一体、このスタンドは……??」
「こいつのすたんどにさわるとこどもになっちゃうんだ」
すぐにお兄さんにハグした私7歳と、困惑しているお兄さん7歳と、しっかり者のポルナレフ2歳。
「「………。」」
私とお兄さんは咄嗟に見つめ合った。
あれ……なんか………すっごくタイプ…かも…??変態おじさんをやっつける姿もかっこよかったけど、普通に見た目が……こんなイケメンな7歳いる?!お兄さんはぱっと視線を逸らして帽子をぐっと深くかぶった。
「やれやれ……今度はこっちの姿を夢に見るようになるぜ……」
「何?夢?」
「スタンド能力ならこいつを倒したから解除されるはずだな」
「そのはずだけど……なんともないね」
ポルナレフの言葉にみんなでおじさんを見た。完全に地面の上で伸びているように見える。なのに体が戻らないってことは……どういうこと?
「おいおい…まずいぜ。早く元に戻らねぇと…記憶がぼんやりしてきた」
「そんなことある?まさか一生効果があるスタンド攻撃とか…」
「こいつまだいしきがあるんじゃない?!」
「なるほど。朦朧としてるだけかもな。……もっぺん殴っとくか」
「あ!ダメ!人が来たよ!」
「はやくかくれて!ぼくたちもつれていかれちゃう!」
「やばいやばい!」
3人で2、3本道を縫って路地に隠れた。知らない子たちと知らない場所でこうして膝を抱えてるしかないなんて。
街のざわめきを薄暗い路地裏で聞いてたら、どんどん悲しくなってきた。
「うっうっ……どうしよう…!どこなのここ……おうちに帰りたい…っ」
泣いたってどうにもならないし、赤ちゃんポルナレフを私が守ってあげなきゃいけないのに。
不安と寂しさで涙が滲んだ。
「リカ」
横から手を握られる。その温かさは隣に寄り添うお兄さんのものだった。
「…あれだけのダメージだ。スタンド能力を維持するのは不可能だぜ。そのうち元に戻るから安心しな」
「でも……これからどうしたらいいの?知ってる人誰もいないのに…なんで私、こんなところに……」
「いいかリカ。俺もだんだんお前のことを忘れ始めてる。それでも、絶対にお前を離すことはしねぇぜ。だからお前も俺から離れるな」
間近で見つめてくるお兄さんは子供とは思えない強い光をたたえた瞳で私を見つめてる。私はこの人のこと知らないけど、このグリーンの瞳を知ってる。
頼れるものがそれしかなくて、私はぐっと泣くのを堪えて深く頷いた。
「絶対、離さないでね」
「ああ」
「おうちに帰れなかったら、ずっとそばにいてくれる?」
「ああ。ずっと一緒だ」
「死ぬまでここにいなきゃいけなくなっても…?」
「ああ、死ぬまで一緒にいる」
お兄さんは照れてるのか下をじっと見てるけど、繋いだ手の力が強くなったので本気なんだって伝わってきた。
彼がいてくれるだけで安心感が全然違う。ちょっと気持ちが慰められて笑う余裕ができた。
「これからどうしよう…ポルナレフに服も着せなきゃ…」
タオル一丁のポルナレフの頭を撫でたら、無邪気にえへへと笑ってくれた。それに釣られて笑顔になってたら、すっとお兄さんが私の前で片膝をついた。プリンセスの手の甲にキスする王子様みたいだった。
「大人になったら結婚しよう」
「!?え??」
「初めて会った子なのに……こんな気持ちになるのは初めてなんだ…今まで生きてきた中で…」
どうやらお兄さんもついに記憶が飛んだらしい。上目遣いにどんどん迫ってくる。
「どうせ2人きりなんだったら、その方がいいと思うんだけど…どうかな」
そして私も、悲劇のヒロイン的に異邦の地で雰囲気に酔っていた。お兄さんが超タイプのイケメンすぎるせいでもある。
「うぅ〜ん……う〜ん……うん…いいよぉ、別に…ずっと一緒に…いるんでしょ…?」
「約束だよ」
子供にあるまじき色気でにっと笑うと、お兄さんは背伸びしてこっちに近付いた。それから私の両頬を両手で挟むと、ちゅっと音を立てて小鳥みたいな可愛いキスをした。
「他の奴と仲良くしないでね」
「わか、りました…」
柔らかい感触の残る唇を押さえる。お兄さんはさっさと立ち上がって路地から大通りの様子を伺っていた。
「とりあえずケーサツかな……おうちどこ?」
「テキサス」
「僕のお母さんもアメリカに住んでたんだよ。でも今は日本にいる。世界中繋がってるんだから、きっと帰れるよ」
「うん…ありがとう」
そんなやりとりをしていたら、元の姿に戻った。ポルナレフがちっちゃいタオル一丁なのが妙にシュールだった。