Love the darkness -3-
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「わん!わんわんわぉぉわん」
「ええ?私は嫌だよぉ〜。だってさぁ、こんなとこのトイレって絶対あれじゃん。まともなわけないもん…イギーついてってあげてよ…」
「わんわんわわん」
「ええぇ〜〜〜〜……」
イギーに引きずられてジョセフのトイレに付き合うことになった。
前回の戦いでおったポルナレフと承太郎の怪我が落ち着くまで、数日この町のホテルに泊まることになっている。
(トイレなんてホテルまで我慢しとけばいいのにぃ〜)
なんで男所帯なのにわざわざ私がおじいちゃんのトイレの付き添いを…。
イギーに引きずられてく私を見送りながら、うぷぷと吹き出してたポルナレフもアヴドゥルも酷い。
追いついたらジョセフはもうトイレに入るところだった。ドアが閉まったのを見届けて、辺りの岩のそばにしゃがみ込む。
「わふん」
イギーが首を傾げて岩を見つめていた。
なんだろうと思って覗き込んだら、なんとただの岩にしか見えないそれにコンセントがくっついている。
「あっ!ダメよイギー!危ないから!」
イギーがコンセントにふがふがしてたから、なんでこんなとこに?とか考える前に手のひらをイギーの鼻とコンセントの間に差し入れて通せんぼした。そのとたん、バリィと手から全身が痺れて驚いた。コンセントに触れてしまったのだ。
「いたぁっ!?」
「わぉん!」
ぎょっとして飛びのくイギーを軽く睨みながら、痺れた手を振る。
「ほら、危ないんだよ。電気が通ってるから」
「Oh, my god!!」
ジョセフがズボンを上げながら、慌ててトイレから出てきた。
「これならその辺の岩陰でしても変わらんわい!ホテルまで我慢しよ……ん?なんだ、リカもきとったのか」
罰の悪そうなイギーと並んでる私を見つけてジョセフは不思議そうだ。それからぱちぱち瞬きしながら自分の背後を指差した。
「あー……すごく快適なトイレじゃったよ。リカもちょっとしておいで」
「絶対嫌!!」
「いや、ほんと衝撃的じゃから。エコなサンドウォシュレットで……とにかく一回見てきてほしい!かっさかさのウンコもあるよ」
「ねぇ〜〜、もぉー!うふっ。何馬鹿なこと言ってんのぉ〜?ぷくく…っ」
ジョセフってほんとお茶目で好きだなぁー。
えへへと笑ってるジョセフに「やめてよ〜」なんて言いながら、さっきのコンセントのことを思い出した。
「ねぇ、これ見てジョセフ。コンセントがあるの。電気も通ってるみたい」
「むむっ?こんなところにぃ〜?そんなわけないじゃろぉ電線もないのに……ってビリッときたぁぁーーーッッ!!!」
私の隣にしゃがんだジョセフはすぐにコンセントに触れた。犬のイギーの方がよっぽど注意深かったように思える。
「……わぉん」
後ろに倒れたジョセフを見ながらイギーもちょっと引いている。私は急いでジョセフの背中を支えてあげた。
「大丈夫?!」
「あ、ああ……びっくりしたわい。まさか本当に電気が通っておるとは……地中を電線が通っておるのか…??」
「…トイレ掃除の人が使うんじゃない?」
「どうだかなぁ〜〜…ほんとにわけがわからん所だ…」
みんなで小首を傾げてたら、待ちかねたアヴドゥルが声をかけてきた。シュールよのぉと立ち上がったジョセフの腕にしがみつく私の足元をイギーがうろつく。帽子をかぶり直す姿を覗き込んだ。
「ほんとに大丈夫?……義手は?」
ジョセフは私を見下ろすと、本当に嬉しそうに、優しく微笑んだ。そっと頭を撫でてくれる手は、義手でもとても温かい。
「ああ。何も問題ないよ……お前は本当に優しい子だなぁ」
年齢を感じさせない綺麗なブルーの瞳にドギマギしてしまった。照れてしまってしばらくジョセフの顔が見れなかった。
「ねーねー見て!今日はなんだかおかしいの」
「おかしいって、何がぁ?」
ホテルに行く前にみんなでご飯を食べてたら、ジョセフが義手の調子が悪い話をしていた。やっぱり感電したせいなんじゃ…と思ったけど、ジョセフは油が切れたせいだって言う。
そして私もなんだかおかしかった。
手を止めたポルナレフにさらに訴える。
「見ててね……こうして座ってたらね……」
お皿を前にシャキッと背筋を伸ばすも、少ししたら私の体はぐにゃ〜っとジョセフの方にもたれかかった。ジョセフの肩と胸にぴったりくっついてしまう。
「ほら!」
それを見てポルナレフは呆れたように目と口を半開きにした。
「なぁーにが『ほら!』だ!じいさんと孫の仲良しこよしを見せられとるだけじゃねーか」
「えぇ?違うんだってばぁ!ほら、見ててね」
再びしゃきっと背筋をまっすぐ伸ばす。それでもやっぱり少ししたらジョセフにぴったりくっついてしまうのだ。やりたくてやってるわけじゃない。なんだか勝手にそうなっちゃうの。
さっきのやりとりもあった手前、たまにはいいかと思ってついでにジョセフに横から抱きついた。
「こうしてるとすごく楽なの。勝手にこうなっちゃうんだよ」
しーんとなる中でジョセフがわなわなと震えている。
「…うぅっ……リカ……!!お前はなんてっ、なんてきゃわゆいんじゃッッ!!」
そして抱きしめ返された。この旅が始まって1番の抱擁である。ちょっと…いやけっこう苦しい。その上髭ぐりぐりされて痛かった。
「気付いてやれんで悪かった!この旅が始まって以来、ゆっくり甘えさせてやる時間が取れなんだ……どっかの誰かさんのせいで2人の時間がなくて寂しかったよのぉ〜」
「おいクソジジィ。どっかの誰かってのは誰のことだ?」
「へーん!やはりわし以外の奴らでは役不足よ!…リカ〜。今日は2人でゆっくりしようなぁ」
「そういうわけじゃ…ないんだけど……」
でも、確かにこんなにジョセフに甘やかされるのは久々かも。いつも心配はしてくれてるけど。
嬉しそうなジョセフを見てたら無碍にはできないし…甘んじてぐりぐり頬擦りされる私を見て、承太郎は「けっ」って顔をそらした。
「えぇっ?!またぁ〜〜??速いよ承太郎〜」
ジョセフは宣言通り私との時間をたっぷり作ってくれたけど、夜は寝付くのが早かった。
アヴドゥルに促されて自分の部屋に戻る……と見せかけて、承太郎とポルナレフの部屋にお邪魔した。アヴドゥルは私が女の子だってことをちゃんと大事にしてくれていて、夜ウロウロするのを良く思わないから秘密。
「もう一回やろっ」
ゴロゴロしてる承太郎とベッドでトランプをやっていた。鏡の前で髪をいじってるポルナレフに「またかよぉ〜良く飽きねーなぁ」って笑われた。それこっちのセリフなんだけど…。
旅が始まってから承太郎が教えてくれた“ぶたのしっぽ”っていうゲームが簡単で、手が触れ合うのも楽しくて、負けても全然気にならなかった。承太郎も文句言いつつ何回でも付き合ってくれるし。
「何度やっても一緒だぜ。お前の反応がどんどん鈍くなっているからな」
「そんなことない。承太郎が強すぎるんだよ…ふあぁ」
「……ほれ見ろ。眠たいんだろーが」
「全然眠くないよ」
「………今夜はこっちで寝るか」
器用に寝転んだままカードをシャッフルしながら、承太郎が何気なく聞いてくる。
それに反応したのは目をこする私じゃなくて鏡の前のポルナレフだった。
「だぁぁ、コラッ!承太郎!それはさすがに……まずいってぇ〜〜…お前この間もジョースターさんにこっぴどく叱られていたじゃねーかッ!」
「さて…何の話かな」
「ほれリカ。そろそろ部屋に戻りな。お前だって傷が完治してるわけじゃねぇんだ…寝れるときにゆっくり寝て休まねーと、ひょっとすると最後のホテルかも……しれねぇぞぉ〜〜??」
「えっ」
た、確かに…。ちゃんとしたホテルに泊まれるのは最後かもしれない…。
これまでの野宿を思い出してこの状況がいかに幸せかを実感した。
「も、戻る!戻りますぅ!戻ってベッドと仲良くしなきゃっ!」
「はっはっは」
慌てる私にポルナレフは楽しそうに笑った。
「朝は起こしに行ってやるから、一緒に豪勢な朝飯と行こーぜ!さ・い・ご・のっ!」
「ねぇ〜〜ポルナレフ!不吉だってぇ。やめてよぉ〜!」
「はっはっはっは」
「……最後か…確かにな…」
承太郎は妙にしみじみつぶやいている。
「ま、ポルナレフの言うとおりだぜ…子供は寝るのが仕事だとかいうしな」
「子供扱いしないでよ」
むっとして承太郎の方を見たら、承太郎は斜め下を見て私よりよっぽどむすっと口をへの字にしてる。
ぴんぴんと髪が引っ張られているので良く良く見たら、ベッドに垂れてる私の髪を承太郎が一生懸命こよりにしている最中だった。
まるで不貞腐れた子供が地面に落書きしてるみたいに。
(…そんなにいじったら、絡まっちゃう……)
それを言うのは悪い気がした。
なんとなくだけど、承太郎はきっと、私に自分の部屋に戻ってほしくないんだろうなって思ったから。髪の毛が引っ張られるのが、まるで引き止められてるみたいに感じて。
だって承太郎、私が見てるのに気付きもしないで一生懸命触ってるんだもん。
(……かわいい…。)
その感想が自然に思い浮かんだ瞬間、私の中で何かがブワァ、と溢れた。
なんだか、承太郎に何でもしてあげたい気持ち。すごく恥ずかしいけどとっても幸せな気分。
両膝を抱えて座っていた私はますます小さくなって、膝で顔が半分隠れるくらいになってしまった。
「……やっぱり一緒に寝ようかな」
「!」
ぱっとこっちを見た承太郎と思いっきり目が合った。え…やめてよ!今顔熱いし絶対赤くなってるのに!
そしたらほんとに一瞬だけど、承太郎も目元がぱっと赤みを帯びた気がして驚いた。すぐに帽子を深く被り直してそっぽを向いてしまう。
オホンオホンと咳払いをして誤魔化してる。そうとしか思えなかった。
「そうかい。…なら別に、…好きにしな」
「うん。好きにする」
「立派なベッドで助かったぜ」
「うん。私奥ね」
「寒いなら毛布がもう一枚ある」
「ううん、いらない。承太郎あったかいから」
いそいそと承太郎の反対に回り込んでお布団に潜り込む。ベッドは気持ち良いし承太郎が隣で見ていてくれるし、安心感すごくて最高だね。
承太郎が肘を立てて頭を乗せてる、その脇のところにおさまった。
「…おやすみなさい。承太郎」
「ジジィより早く起きねーとな」
ふ、と笑った顔が嬉しそうだったので、私も嬉しい。
その幸せな心地のまま両目を閉じた。閉じたはずだった。
「いやいやいやいや待て待て待て待てぇーーい!!!!2人の世界に入るな!!承太郎!何さっさと反対向いてやがる!リカにいたってはもはや見えねぇんだよお前の背中で!!部屋に戻れと言っただろーがッッ!」
ポルナレフが急におっきい声を出したからびくってなって目を開けた。承太郎はそれなりに大きな舌打ちをしてちらりとポルナレフを振り返る。
それから改めて布団をかぶって私を腕に閉じ込めた。
「…今夜は腹の傷が痛むぜ。寝れるときにゆっくり寝て休まねーとな」
「おやすみポルナレフ」
「あっ……無視ってことね?もう泣くよ?俺……」
知らねーかんなぁ!とプンスカしてるポルナレフに、私たちはお布団に包まれた中でくすくす笑った。承太郎とくっついてたら、やっぱりすぐに眠ってしまった。