Love the darkness -3-
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アスワンの街でカフェのケーキ盗み食いして逃げたイギーを追いかけていた。
「も〜〜どこ行っちゃったのぉ、イギ〜〜」
全然追いつけなくて、ついに息を切らして立ち止まる。
もはや途中からイギーが見えなくなってるのに一生懸命進行方向に向かって1人で走っていた。
さすが犬だなぁと思いつつ顔を上げたら、後ろにいたはずのみんなもいなくなっていた。
「あ、あれぇ?なんでいないの…」
結構必死だったから、途中ではぐれたのに気付かなかったのかな…。
イギーと私がみんなを巻いてしまったのかもしれない。人混みとか路地とか通ってけっこうトリッキーな動きをしていたし。
「どうしよ…」
私は病院に行けさえすれば合流できそうだけど(みんなものりくんの様子を見に行くって言ってたし)、イギーはそんなこと分かってるわけない。このまま放っておいたら本当に迷子になっちゃうかも。ケーキ食べただけで異邦の地に置き去りなんてかわいそう。
とにかくイギーを見つけないと。
そう思ってまた駆け出そうとしたら、ぶつかってくるぐらいの勢いで男の人が目の前を塞いできた。私的にはおじさんだと思うけど、お兄さんって呼ばないと怒りそうな感じの。
ふと気付いたら同じようなのがあと3人ほどいる。
「お嬢ちゃんさぁ〜、さっきから慌ててどうかしたのかい?迷子になったとか〜?」
「…迷子じゃない。おじ…お兄さん、犬を見なかった?白と黒のハチワレの、小さい犬」
「犬ぅ?この広いアスワンで犬を探してるのか!そりゃあ1人で大変だぁ〜」
「見てないならいいの」
なるべく目を合わせないように避けようとしたら、また目の前にささっと移動して通せんぼされた。
「いやいや、俺は見てねぇけど、俺の仲間なら見たって奴がいるかもしれないぜ?」
気付いたら周りの取り巻きたちもにやにやして私を見ていた。なんかすごい嫌なんですけど…。
「とりあえずその辺でお茶でもしながら話そうや。迷子の扱いには慣れてるからよぉ〜任せとけってぇ。優しくするぜぇ」
ゲヘヘヘヘへって笑い声からして全然任せる気にはならなかった。嫌な予感がぞわぞわ背中を走ったので無意識に一歩後ろに下がる。
「…お茶はしない。知らない人についていっちゃダメって言われてるし……お兄さんも、女の子をなぐさめるなら薔薇のひとつでも持ってないと」
「はぁ?薔薇ぁ??」
「何モタモタしてんだ。さっさと連れて行こうぜ!」
「とんでもねぇ上玉だぞぉ!俺が先にいただくからなッ!!」
スタンドがあるからって余裕こきすぎた。予感はしてたけどヤバい人たちじゃーん!
一般人にはスタンドは使わない方針だけど、この場合は例外だね。だってこのままじゃイギーじゃなくて私が永遠にいなくなっちゃう。
「いいやっ!俺だねーッ!!」
1番近くにいた人ががしっと私の手首を捕まえてきた。生理的に無理すぎて反射的に体が固まってしまった。
そのまま抱えて連れて行かれる感じがしたので、本当にヤバいと思って少し遅れてダークネスを発動させようとした。
けどその前に、別の手がおじさんの手首を掴み上げて私から引き離してくれた。
「…やれやれ。見つけたと思ったらこれだ」
承太郎だった。とんでもなく汚いものに触ったみたいな嫌そうな顔をしている。
ヒィヒィ痛がってるおじさんの腕をさらに捻り上げながら反対の手で私を引き寄せた。
「俺の連れだぜ。もしかして、迷子と勘違いして保護してくれようとしてたのか?そうならこの手を放してやるが…、そうじゃないならこのまま警察に突き出すしかねぇな」
「ヒ、ヒィィィイ!!」
1番でっかいおじさんが承太郎に秒で圧倒されたので、仲間たちの狼狽えようは半端なかった。
承太郎がぽいっと放り投げるように手を離したら、みんな一目散に逃げていった。スタープラチナに殴られなかっただけよかったね。ざまぁみろー!
「やれやれだぜ」
逃げていくおじさんたちに舌を突き出していた私を見て承太郎は呆れたように顔をしかめている。
「まともに相手してんじゃねぇぞ。薔薇なんか常に持ってる奴がいるかよ」
「聞いてたの」
スタープラチナのおかげかなぁ。承太郎ってやっぱり地獄耳。
「聞こえてきたんだ。ありゃ完全に喧嘩を売っていたぜ」
「だって」
困ってて落ち込んでる女の子にあんな下心丸出しで近付いてくるなんてサイテー。
黙ってお花を差し出してくれる人の方がよっぽどかっこいいでしょ?
あの時承太郎が突然くれた薔薇。ほんとに嬉しくて、悲しいのも寂しいのもしばらく忘れることができたんだもん。それに比べたらさっきの人たちは…男以前に人の風上にもおけないわ。
「だって承太郎は持ってたじゃない」
「……フン。」
にやりとして帽子のツバをぎゅっと深くした承太郎は、なんだか勝ち誇って見えた。
「イギーは?」
「さぁな。じじぃどもから付かず離れずうろちょろしてやがる。ふざけた犬だぜ」
「えーっ。いるならいいけど、私完全におちょくられたー!一生懸命追いかけてたのに!」
「ん?追いかけてたのか……?俺には勝手に1人でどっか行ったように見えたがな」
「え?!う、嘘でしょ……?!」
「………。」
ジト目の承太郎としばらく見つめ合う。
どうやらイギーを追いかけたつもりで私だけ違う道を突っ走って行ってしまったらしい。
それなら、承太郎は私に追いついたんじゃなくて、わざわざ探してくれたってことじゃん。
事実を知ってがっくり肩を落とした。
「……ごめん…」
「………。じじいとポルナレフは車で病院に行くそうだ。俺たちも行くぜ」
「はぁーい」
フォローなしなのも承太郎の優しさ…と思わないとやってられない。
それから私たちは街の様子をのんびり眺めながら徒歩で病院へ向かった。
てっきりタクシーを拾うのかと思っていたから、前を歩く承太郎に最初は疑問符を浮かべてたけど…こんなに落ち着いて散歩なんてあんまり出来ないから、旅行に来たみたいで楽しい。
「人生初の海外ではるばるエジプトまで来たんだ。こういう時ぐらい観光しとかねぇとな」
承太郎も同じような考えだったみたいで、思わず笑っちゃった。
いやいや、ほんとはるばるだもんね。
あらゆる乗り物に乗っていろんな国経由してダイビングとかラクダとか…命の危険がなかったらめちゃくちゃ壮大な大旅行だよ。
「新手のスタンド使いに襲われなかったらいいけど…」
「どーせ来るときゃ来るんだ。気にしてても仕方ねぇ」
(鋼の心臓…)
高校生の精神力じゃないよー。
そう言って笑ってたら、道沿いにお店が並んでる通りに入った。
「あっそうだ!のりくんとアヴドゥルにお見舞い買って行こうかなぁ」
そう言いながら屋台を眺めてたら、民芸品みたいなのがたくさん置いてあるカラフルな屋台が目についた。
つぎはぎでいろんな布を使った動物のお人形が、キーホルダーからクッションサイズのものまでぎゅうぎゅうに並んでる。
走ってお店の前まで突撃した私の後を承太郎もやれやれって感じでついてきてくれた。
「かっわいい!」
「いらっしゃいー。お嬢ちゃんもずいぶん可愛いねぇ〜。ここにあるのは全部幸運のお守りだよ〜サービスするよ〜」
「花京院とアヴドゥルの趣味には見えねぇな」
「いいじゃん別にー。ちょっと見たいだけ」
まじまじ人形を眺める。絵本のキャラクターみたいで個性的でほんと可愛いんだけど…!
「ほらほら、これとかホリーさん喜びそうだよ!」
「そんなもんで喜ぶ年かよ」
ホリーさんのこと思い出したら、早く帰って明るくて元気な姿が見たくなった。承太郎も突っぱねてるけど少し笑ってたので、ホリーさんのこと思い出してるに違いない。
(エジプトだから…やっぱりゾウ?とかだよね〜)
そう思いながら、私はさっきから綺麗なスパンコールで刺繍されたクジラっぽいお人形のキーホルダーが気になって仕方なかった。
まるでそのクジラに呼ばれたみたいに自然と手に取って惚れ惚れ眺める。
「……これ…可愛いなぁ…!ほんとに可愛い」
「…そりゃイルカか?」
「いやクジラでしょ?イルカはこっちじゃない?」
「じゃあこっちは?」
「………シャチ?」
「…いまいちわかんねぇな」
2人でぶつぶつ言ってたらお店の人に笑われた。
「あっはっは!お嬢ちゃんが正解だよ〜。そんなに分かりにくかったら、1つの値段でもうひとつ付けてあげるよ〜!」
「えっ、ほんとですか?」
思わず身を乗り出したら、承太郎に肩を掴んで止められた。
「そろそろ行くぜ。俺はこういうのに詳しくないからな…ぼったくられるのはごめんだぜ」
「…。」
「じじいとポルナレフももう病院についてるころだ」
言いながら時計を確認する承太郎。
確かに、いつ敵に襲われるかも分からないし、出来るだけ早くみんな揃ってたほうがいいよね。
名残惜しかったけど、私はクジラのキーホルダーをそっと元の場所に戻した。行かないでって言ってるみたいにクジラのスパンコールがきらきら輝いた。
「…早く行ってあげなきゃ、のりくんとアヴドゥルが寂しがっちゃうね」
キーホルダーの代わりに承太郎の手をぎゅっと握ってその場から背を向けた。
どんどん離れていくお店が名残惜しくてちらりと振り返る。遠くからでもクジラがどこにいるのかすぐに見つけることができた。
「……。」
「……リカ」
「………。」
「リカ!」
「えっ、な、何?」
「てめー無視してんじゃねぇぞ」
「ごめん…何?」
ぐい、と私の手を引いた承太郎を見上げたら、ため息ついてちょっと困ってるみたいな、悔しいみたいな顔してた。
「そんなにあれが欲しいのかよ」
顎でさっきのお店の方を指されて私はちょっと悩んだ。そりゃあすっごく欲しかったけど、今更だだをこねても子供みたいだし…。がっついたらまた承太郎にからかわれそうだし…。
でもやっぱり諦めがつかなくて、なんかキーホルダー欲しいなんて認めるの子供っぽくて恥ずかしいんだけど…でもほんとあの子に惚れちゃったから、嘘つけないよ。
「………欲しい…、かも…」
あー言っちゃったー。
ぶわって頭まで熱くなってきたから絶対顔とか赤くなってるよ。
「でも、いらない。…旅先でキーホルダーとか、子供っぽいから」
私は小さな声で言い訳しながら、慌てて承太郎の腕を両手で抱きしめて顔を隠した。承太郎は歩くのをやめてすっかり動きを止めている。
不思議に思って顔を上げたら、承太郎と目が合った。相変わらずの深い深い瞳を少し細めて私をじっと見つめている。そのグリーンの中には照れているのかしょんぼり眉の私がいた。
承太郎はやんわり私の手を解くとすぐに踵を返してさっきのお店に戻っていった。
驚いて呆気に取られていたら、承太郎はお店の人と二言三言話してからポケットからお財布を出した。
さっさと戻ってきたその指にはもちろん、キーホルダーが2つぶら下がっている。
「ほれ。お前は充分子供だろーが」
ぽい、と手のひらに小さなクジラとイルカを乗せられて、私は落とさないように両手で2つを包み込んだ。そっと開いたら、それはもうキラキラ宝石のように輝いて見える。
「やっぱり、すっごく可愛い!」
嬉しすぎて思わずぴょんと飛んだ私を見て、承太郎がちょっと笑いを吹き出した。またにやりと勝ち誇ったみたいに微笑んでいる。
ぎゅっと握りしめた宝物に頬擦りしながらにこにこ承太郎に笑顔を向けた。
「ありがとう承太郎!」
それから、もともと承太郎は私を探しにきてくれて、悪いおじさんたちから守ってくれたことを思い出した。本当にいつも…落ち込んだ時も必ずそばにいてくれて…なんでだろう。不思議だった。承太郎のそばにいると、1番安心することができる。安心して、目を閉じることが。
「あのね…本当に…、いつもありがとう」
「別に…そこまで感謝されるようなことはしてねーぜ」
なんか色々思い出したら私って承太郎に助けられてばっかりかも…。
急に何かお返ししなきゃと義務感に襲われた私は、ちょうど手の中に2つキーホルダーがあるのを思い出した。
私の推しはクジラなので、イルカの方を承太郎のズボンのポケットに突っ込んだ。
「これお守りだって言ってたから…。ひとつ承太郎にあげる」
「はぁ?いるかよこんな『いかにも』なキーホルダー……」
「一生大切にしてよね」
承太郎はぱっと目を大きくして私を見下ろした。離れた私の手はすぐに大きな承太郎の手に掴まれて、再びポケットの中に突っ込まれた。
「…まぁ、お守りってんなら呪われても困るしな。一応持っておくか」
イルカごと私の手をにぎにぎしてくるから、スパンコールやビジューが刺さってちょっと痛いぐらいだった。
「へぇ〜〜〜。…で、いくらだったんだよそのキーホルダー」
合流してからさっそくクジラを自慢したら、ポルナレフはそれはもう楽しそうににやにやしながら承太郎に詰め寄った。
値段を言ったらジョセフも一緒になって言葉を失っていた。
やっぱりぼられていたらしい。
「も〜〜どこ行っちゃったのぉ、イギ〜〜」
全然追いつけなくて、ついに息を切らして立ち止まる。
もはや途中からイギーが見えなくなってるのに一生懸命進行方向に向かって1人で走っていた。
さすが犬だなぁと思いつつ顔を上げたら、後ろにいたはずのみんなもいなくなっていた。
「あ、あれぇ?なんでいないの…」
結構必死だったから、途中ではぐれたのに気付かなかったのかな…。
イギーと私がみんなを巻いてしまったのかもしれない。人混みとか路地とか通ってけっこうトリッキーな動きをしていたし。
「どうしよ…」
私は病院に行けさえすれば合流できそうだけど(みんなものりくんの様子を見に行くって言ってたし)、イギーはそんなこと分かってるわけない。このまま放っておいたら本当に迷子になっちゃうかも。ケーキ食べただけで異邦の地に置き去りなんてかわいそう。
とにかくイギーを見つけないと。
そう思ってまた駆け出そうとしたら、ぶつかってくるぐらいの勢いで男の人が目の前を塞いできた。私的にはおじさんだと思うけど、お兄さんって呼ばないと怒りそうな感じの。
ふと気付いたら同じようなのがあと3人ほどいる。
「お嬢ちゃんさぁ〜、さっきから慌ててどうかしたのかい?迷子になったとか〜?」
「…迷子じゃない。おじ…お兄さん、犬を見なかった?白と黒のハチワレの、小さい犬」
「犬ぅ?この広いアスワンで犬を探してるのか!そりゃあ1人で大変だぁ〜」
「見てないならいいの」
なるべく目を合わせないように避けようとしたら、また目の前にささっと移動して通せんぼされた。
「いやいや、俺は見てねぇけど、俺の仲間なら見たって奴がいるかもしれないぜ?」
気付いたら周りの取り巻きたちもにやにやして私を見ていた。なんかすごい嫌なんですけど…。
「とりあえずその辺でお茶でもしながら話そうや。迷子の扱いには慣れてるからよぉ〜任せとけってぇ。優しくするぜぇ」
ゲヘヘヘヘへって笑い声からして全然任せる気にはならなかった。嫌な予感がぞわぞわ背中を走ったので無意識に一歩後ろに下がる。
「…お茶はしない。知らない人についていっちゃダメって言われてるし……お兄さんも、女の子をなぐさめるなら薔薇のひとつでも持ってないと」
「はぁ?薔薇ぁ??」
「何モタモタしてんだ。さっさと連れて行こうぜ!」
「とんでもねぇ上玉だぞぉ!俺が先にいただくからなッ!!」
スタンドがあるからって余裕こきすぎた。予感はしてたけどヤバい人たちじゃーん!
一般人にはスタンドは使わない方針だけど、この場合は例外だね。だってこのままじゃイギーじゃなくて私が永遠にいなくなっちゃう。
「いいやっ!俺だねーッ!!」
1番近くにいた人ががしっと私の手首を捕まえてきた。生理的に無理すぎて反射的に体が固まってしまった。
そのまま抱えて連れて行かれる感じがしたので、本当にヤバいと思って少し遅れてダークネスを発動させようとした。
けどその前に、別の手がおじさんの手首を掴み上げて私から引き離してくれた。
「…やれやれ。見つけたと思ったらこれだ」
承太郎だった。とんでもなく汚いものに触ったみたいな嫌そうな顔をしている。
ヒィヒィ痛がってるおじさんの腕をさらに捻り上げながら反対の手で私を引き寄せた。
「俺の連れだぜ。もしかして、迷子と勘違いして保護してくれようとしてたのか?そうならこの手を放してやるが…、そうじゃないならこのまま警察に突き出すしかねぇな」
「ヒ、ヒィィィイ!!」
1番でっかいおじさんが承太郎に秒で圧倒されたので、仲間たちの狼狽えようは半端なかった。
承太郎がぽいっと放り投げるように手を離したら、みんな一目散に逃げていった。スタープラチナに殴られなかっただけよかったね。ざまぁみろー!
「やれやれだぜ」
逃げていくおじさんたちに舌を突き出していた私を見て承太郎は呆れたように顔をしかめている。
「まともに相手してんじゃねぇぞ。薔薇なんか常に持ってる奴がいるかよ」
「聞いてたの」
スタープラチナのおかげかなぁ。承太郎ってやっぱり地獄耳。
「聞こえてきたんだ。ありゃ完全に喧嘩を売っていたぜ」
「だって」
困ってて落ち込んでる女の子にあんな下心丸出しで近付いてくるなんてサイテー。
黙ってお花を差し出してくれる人の方がよっぽどかっこいいでしょ?
あの時承太郎が突然くれた薔薇。ほんとに嬉しくて、悲しいのも寂しいのもしばらく忘れることができたんだもん。それに比べたらさっきの人たちは…男以前に人の風上にもおけないわ。
「だって承太郎は持ってたじゃない」
「……フン。」
にやりとして帽子のツバをぎゅっと深くした承太郎は、なんだか勝ち誇って見えた。
「イギーは?」
「さぁな。じじぃどもから付かず離れずうろちょろしてやがる。ふざけた犬だぜ」
「えーっ。いるならいいけど、私完全におちょくられたー!一生懸命追いかけてたのに!」
「ん?追いかけてたのか……?俺には勝手に1人でどっか行ったように見えたがな」
「え?!う、嘘でしょ……?!」
「………。」
ジト目の承太郎としばらく見つめ合う。
どうやらイギーを追いかけたつもりで私だけ違う道を突っ走って行ってしまったらしい。
それなら、承太郎は私に追いついたんじゃなくて、わざわざ探してくれたってことじゃん。
事実を知ってがっくり肩を落とした。
「……ごめん…」
「………。じじいとポルナレフは車で病院に行くそうだ。俺たちも行くぜ」
「はぁーい」
フォローなしなのも承太郎の優しさ…と思わないとやってられない。
それから私たちは街の様子をのんびり眺めながら徒歩で病院へ向かった。
てっきりタクシーを拾うのかと思っていたから、前を歩く承太郎に最初は疑問符を浮かべてたけど…こんなに落ち着いて散歩なんてあんまり出来ないから、旅行に来たみたいで楽しい。
「人生初の海外ではるばるエジプトまで来たんだ。こういう時ぐらい観光しとかねぇとな」
承太郎も同じような考えだったみたいで、思わず笑っちゃった。
いやいや、ほんとはるばるだもんね。
あらゆる乗り物に乗っていろんな国経由してダイビングとかラクダとか…命の危険がなかったらめちゃくちゃ壮大な大旅行だよ。
「新手のスタンド使いに襲われなかったらいいけど…」
「どーせ来るときゃ来るんだ。気にしてても仕方ねぇ」
(鋼の心臓…)
高校生の精神力じゃないよー。
そう言って笑ってたら、道沿いにお店が並んでる通りに入った。
「あっそうだ!のりくんとアヴドゥルにお見舞い買って行こうかなぁ」
そう言いながら屋台を眺めてたら、民芸品みたいなのがたくさん置いてあるカラフルな屋台が目についた。
つぎはぎでいろんな布を使った動物のお人形が、キーホルダーからクッションサイズのものまでぎゅうぎゅうに並んでる。
走ってお店の前まで突撃した私の後を承太郎もやれやれって感じでついてきてくれた。
「かっわいい!」
「いらっしゃいー。お嬢ちゃんもずいぶん可愛いねぇ〜。ここにあるのは全部幸運のお守りだよ〜サービスするよ〜」
「花京院とアヴドゥルの趣味には見えねぇな」
「いいじゃん別にー。ちょっと見たいだけ」
まじまじ人形を眺める。絵本のキャラクターみたいで個性的でほんと可愛いんだけど…!
「ほらほら、これとかホリーさん喜びそうだよ!」
「そんなもんで喜ぶ年かよ」
ホリーさんのこと思い出したら、早く帰って明るくて元気な姿が見たくなった。承太郎も突っぱねてるけど少し笑ってたので、ホリーさんのこと思い出してるに違いない。
(エジプトだから…やっぱりゾウ?とかだよね〜)
そう思いながら、私はさっきから綺麗なスパンコールで刺繍されたクジラっぽいお人形のキーホルダーが気になって仕方なかった。
まるでそのクジラに呼ばれたみたいに自然と手に取って惚れ惚れ眺める。
「……これ…可愛いなぁ…!ほんとに可愛い」
「…そりゃイルカか?」
「いやクジラでしょ?イルカはこっちじゃない?」
「じゃあこっちは?」
「………シャチ?」
「…いまいちわかんねぇな」
2人でぶつぶつ言ってたらお店の人に笑われた。
「あっはっは!お嬢ちゃんが正解だよ〜。そんなに分かりにくかったら、1つの値段でもうひとつ付けてあげるよ〜!」
「えっ、ほんとですか?」
思わず身を乗り出したら、承太郎に肩を掴んで止められた。
「そろそろ行くぜ。俺はこういうのに詳しくないからな…ぼったくられるのはごめんだぜ」
「…。」
「じじいとポルナレフももう病院についてるころだ」
言いながら時計を確認する承太郎。
確かに、いつ敵に襲われるかも分からないし、出来るだけ早くみんな揃ってたほうがいいよね。
名残惜しかったけど、私はクジラのキーホルダーをそっと元の場所に戻した。行かないでって言ってるみたいにクジラのスパンコールがきらきら輝いた。
「…早く行ってあげなきゃ、のりくんとアヴドゥルが寂しがっちゃうね」
キーホルダーの代わりに承太郎の手をぎゅっと握ってその場から背を向けた。
どんどん離れていくお店が名残惜しくてちらりと振り返る。遠くからでもクジラがどこにいるのかすぐに見つけることができた。
「……。」
「……リカ」
「………。」
「リカ!」
「えっ、な、何?」
「てめー無視してんじゃねぇぞ」
「ごめん…何?」
ぐい、と私の手を引いた承太郎を見上げたら、ため息ついてちょっと困ってるみたいな、悔しいみたいな顔してた。
「そんなにあれが欲しいのかよ」
顎でさっきのお店の方を指されて私はちょっと悩んだ。そりゃあすっごく欲しかったけど、今更だだをこねても子供みたいだし…。がっついたらまた承太郎にからかわれそうだし…。
でもやっぱり諦めがつかなくて、なんかキーホルダー欲しいなんて認めるの子供っぽくて恥ずかしいんだけど…でもほんとあの子に惚れちゃったから、嘘つけないよ。
「………欲しい…、かも…」
あー言っちゃったー。
ぶわって頭まで熱くなってきたから絶対顔とか赤くなってるよ。
「でも、いらない。…旅先でキーホルダーとか、子供っぽいから」
私は小さな声で言い訳しながら、慌てて承太郎の腕を両手で抱きしめて顔を隠した。承太郎は歩くのをやめてすっかり動きを止めている。
不思議に思って顔を上げたら、承太郎と目が合った。相変わらずの深い深い瞳を少し細めて私をじっと見つめている。そのグリーンの中には照れているのかしょんぼり眉の私がいた。
承太郎はやんわり私の手を解くとすぐに踵を返してさっきのお店に戻っていった。
驚いて呆気に取られていたら、承太郎はお店の人と二言三言話してからポケットからお財布を出した。
さっさと戻ってきたその指にはもちろん、キーホルダーが2つぶら下がっている。
「ほれ。お前は充分子供だろーが」
ぽい、と手のひらに小さなクジラとイルカを乗せられて、私は落とさないように両手で2つを包み込んだ。そっと開いたら、それはもうキラキラ宝石のように輝いて見える。
「やっぱり、すっごく可愛い!」
嬉しすぎて思わずぴょんと飛んだ私を見て、承太郎がちょっと笑いを吹き出した。またにやりと勝ち誇ったみたいに微笑んでいる。
ぎゅっと握りしめた宝物に頬擦りしながらにこにこ承太郎に笑顔を向けた。
「ありがとう承太郎!」
それから、もともと承太郎は私を探しにきてくれて、悪いおじさんたちから守ってくれたことを思い出した。本当にいつも…落ち込んだ時も必ずそばにいてくれて…なんでだろう。不思議だった。承太郎のそばにいると、1番安心することができる。安心して、目を閉じることが。
「あのね…本当に…、いつもありがとう」
「別に…そこまで感謝されるようなことはしてねーぜ」
なんか色々思い出したら私って承太郎に助けられてばっかりかも…。
急に何かお返ししなきゃと義務感に襲われた私は、ちょうど手の中に2つキーホルダーがあるのを思い出した。
私の推しはクジラなので、イルカの方を承太郎のズボンのポケットに突っ込んだ。
「これお守りだって言ってたから…。ひとつ承太郎にあげる」
「はぁ?いるかよこんな『いかにも』なキーホルダー……」
「一生大切にしてよね」
承太郎はぱっと目を大きくして私を見下ろした。離れた私の手はすぐに大きな承太郎の手に掴まれて、再びポケットの中に突っ込まれた。
「…まぁ、お守りってんなら呪われても困るしな。一応持っておくか」
イルカごと私の手をにぎにぎしてくるから、スパンコールやビジューが刺さってちょっと痛いぐらいだった。
「へぇ〜〜〜。…で、いくらだったんだよそのキーホルダー」
合流してからさっそくクジラを自慢したら、ポルナレフはそれはもう楽しそうににやにやしながら承太郎に詰め寄った。
値段を言ったらジョセフも一緒になって言葉を失っていた。
やっぱりぼられていたらしい。