Love the darkness -3-
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あの日の光景を夢に見た。
リビングが血まみれでママとパパが引き裂かれて死んでいた。
目を覚まして息ができてる気がしなくて、怖くてパニックで走って部屋から出て行った。
あのときのむせかえるような血の匂いも蘇ってきて、吐きそうだったから慌てて給湯室の前で立ち止まって水を一気飲みした。
ガタガタ手が震えてたから並んでるコップをドミノみたいに倒して床に落とした。
ガシャーン!って割れちゃったけど全然耳に残らなかった。
「?!おいリカ!」
背中に声がかかった瞬間、ここはアメリカの家じゃなくて、ディオを倒す旅の途中のホテルだってことを思い出した。
全身の力が抜けてその場に腰を落とす。
強い力で引っ張られて斜めに倒れ、体は痛くなかった。誰かの体が受け止めてくれてたから。
「やれやれ…。ガラスの上に倒れる奴があるかよ」
ふぅー、と長いため息をつかれて人の温かさに少し我に帰った。
承太郎がいなかったらきっと怪我をしていたに違いない。思わずぎゅうと承太郎の服の袖を握りしめた。
「あり、がと……ございます…」
「こんな時間に何してやがる」
「……変な夢見て」
「そうだろうな。じゃなけりゃ今の奇行の説明がつかねぇ」
「…そんな変だった?」
「ああ。かなりキテたぜ」
「……見つかんない方が良かった」
むすっとしてつぶやいたらちょっと笑われた。
安心したら、じゃあ承太郎はこんな時間に何してたんだろうって思考が回った。
素直に聞いてみたら承太郎は顔を歪めてから視線をそらした。
「………天気良いんでな。…星を見てた」
「承太郎って意外とロマンチストだよね」
「うるせー」
舌打ちする承太郎を振り返って見上げてたら、もしかして承太郎も眠れなかったのかなって感じた。もしかしたら私と同じで怖い夢を見たのかも。それで起きちゃって星なんか眺めてたのかも。
だって、ホリーさんの命のタイムリミットがどんどん近付いてるんだもん。怖いよね。不安だよね。…ママがいなくなるなんて考えられないよね…。
気持ちがリンクしたみたいに感じて泣きそうになったので、また前を向いて承太郎から顔が見えないようにした。
「…承太郎には、私と同じ想いはさせないから」
「!」
ディオを倒してホリーさんを助ける。自分の家族を助けられなかったんだからせめて、私を救ってくれたジョセフの家族には、私と同じ運命を辿らせない。絶対に。
ぐっと体の前に回ってる腕に力がこもったので、体の震えが強制的に止まった。
「…てめぇ、…そんなことより自分の心配を…っ」
(なんか怒ってる?)
低くて絞り出すような声にびくつくと、承太郎はあっという間に私を肩に抱えて立ち上がった。
「わわわわわっ……」
ずんずんと進んでいくその歩みは早くて、もはや何かのアトラクションみたい。
私が走ってきた廊下と階段をあっという間に戻って、抵抗する暇なんてなかった。
それから承太郎は私の部屋の前をスルーして(通りざまに開けっぱなしだったドアをバァン!と蹴って閉めていた)、何部屋か離れた自分の部屋に帰った。
ぽい、と放られたのはベッドの上だったのでスプリングが軋んだだけで痛みはない。
体を起こそうとしたら隣に承太郎がどっかり寝転んできたのでバランスを崩してまた彼の方に倒れ込んだ。
「寝ろ」
「寝かしつける人の態度じゃないよ!」
頭をぐいぐい枕に押し付けられながら必死に抵抗を試みる。うぅ…なんてでかい手なんだ…ほっぺがつぶれるぅ……!
「ディオを倒すんだろうが」
「……。」
「寝れないんじゃ話にならねー」
承太郎は私を離すと不貞腐れたように寝返りを打って私に背中を向けた。
私はぺたんと横に座ったまま頬杖ついてつんとしてる頭を見つめる。
あれ…もしかして、慰めてくれてるんだろうか…?元気出せよってこと?
「…お前、この旅が終わったらどうするんだ」
「え?」
「じじぃといても退屈だろ」
「そんなことないけど」
「おふくろはお前を帰らせないだろうぜ。たぶん、お前がいた方が早く元気になりそうだ」
「そう?」
短い間だったけど、私を娘みたいって可愛がってくれたホリーさんの笑顔を思い出した。こんなに落ち込んでる私まで笑顔にしてくれるんだから、ホリーさんは本当に良いママだと思う。
承太郎は背中を向けたままだけど、空気が柔らかくなった気がする。
「しばらくうちにいりゃあいい。日本が好きだって言ってただろ…ついでにじじぃもそろそろ隠居させてやらなきゃな」
「ふふっ」
ジョセフに隠居って全然似合わないな。
思わず吹き出したら承太郎がちらりとこっちに顔を向けた。目が合ったらほっとしたようにグリーンの瞳を細めてからまた私の方に転がってきた。
「俺は寝るぜ。戻りたいなら勝手に部屋に戻りな」
「ううん。ここが良い」
承太郎の匂いがするし、あったかいし落ち着くもん。
承太郎の胸のところに擦り寄って頭を収めた。髪の毛絡みそうだけどいいか。頬杖ついてるのと反対の手を伸ばして、承太郎が髪の先まで手ぐしで軽く解いてくれた。
見上げたらすぐ近くに承太郎の顔がある。相変わらずその瞳にすっぽり映ってる私は目をとろんとさせてて眠そうだ。触れてるところが全部、本当に熱いぐらいにあったかい。どくんどくんって心臓の鼓動も伝わってきて、それに意識を集中してたら目を開けてるのが難しくなってきた。
「リカ」
「…んー……?」
「ふ」
過酷な旅の中でもこうして笑ってくれると嬉しい。旅が終わったら、承太郎がもっとたくさん笑えてますように。
「…部屋に、ポスター……貼らせてね…」
「は?」
「サインもらったの……、トム、クルーズ…」
「…きついなそりゃ」
「大好き」
「……。」
完全に目を閉じた。
額に柔らかい感触がした。
「じょじょじょじょ承太郎!!部屋に!リカが!!リカがいないんじゃっ…!?ってうおぉぉぉおぉ?!?!」
「うるせーな朝っぱらから。じじぃは無駄に早起きでうっとおしいぜ」
「なんっ!!貴様承太郎ーッ!!なんでリカがここで寝とるんだッ!!?今すぐ離れろぉぉおぉ!!!」
ジョセフは朝早くからずいぶんテンションが高かった。
2人で説教くらいながら「絶対隠居なんかしないじゃん…」って承太郎に愚痴ったら、承太郎も眠いのかさすがにげんなりしてた。