第25章 戦いに終止符を(前編)
セラ
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世界の命運を賭けた最終決戦の幕が、静かに上がろうとしている。生きものの魂が冥府の王に寄ってないがしろにされている最悪な状況を打破する。そして、その状況に纏わり誰かが流す悲しみの涙を止めるために私達パルテナ軍は諸悪の根源に挑む。今は、最後のコンディションを整えている真っ最中だ。と言うのも、征戦する迄に何時間かの間隔があってその間に緊張感を保ち、士気を高めている。この時間もまた私達には必要だと思う。考えてみたら、ピット君もパルテナ様もこの時間をどう過ごしているのか分からない。しかし、戦いに備えているのだろうとは大方予想が付く。私……は、平和を齎せるように両手を組み瞼を閉じて祈りを捧げている。この戦い、どう結末していくのか。誰にも分からないが、これだけは断言できる。どうあっても負けられない。これは言わば決意だろう。決意にも似た思いが、自身の祈りに反映されている。他にも色々すべきだったのだろうが、例えば身体を動かしてみたりもあったのは確か。けれど、私は精神統一も兼ねてこの場所に存在し、今も尚瞼を閉じている。正直な所、前回のオリハルコン製に不屈の精神を全て奪われた。少しだけでも良い。気をしっかり持たなくては、恐らくこの戦いを刮目し立ち向かう等とは到底無理だろう。そうならないように、厭そうなるまいと気を鎮めているのだ。戦闘中に気を失っては元も子もない。祈りつつも口角を引き攣らせている私。その姿は幸いにも、誰の目にも留まらない。……精神を集中させよう。清らかな祈りを主に捧げようではないか。
「……セラちゃん?」
『……!あ、ピット君……。』
「……。」
『?どうしたの?』
「い、いや!なんでもないよ!(見惚れていたなんて、言えそうもないな……。)」
様々な思いがついつい胸中を過り、眉間の皺を深くさせたが平然とした表情へ戻る。邪念が入り混じっていては、主に祈りを捧げても届かないだろう。気を取り直し、全ての邪念を払い再度祈る。かれこれ、何時間こうしていただろう。もうそろそろ出陣の刻を迎えたか。それを証拠に自身の名を呼ぶ彼の声が耳を掠めた。名を呼ばれたのは、祈りを捧げていた主パルテナ様から命が下ったから。自身から向かって左側に彼、ピット君が立ち尽くしていた。名を呼ばれ振り向くと、心做しか彼の顔面はほんのり赤く染まっている。それでいて呆然としているのだ。首を傾げ、問い掛けてみるが慌てふためきながら両手を左右に振っている。言葉と行動、更に仕草が見事に合致しない。されど、この場面で追求したとしても納得の行く返答はされないだろう。適当な返事を返していたら、興味が逸れたと思ったのか彼が陰ながら胸を撫で下ろしているのが垣間見えた。
『もしかして出陣命令?』
「いや。もうすこし、時間があるよ。」
『じゃあなに?あっ!もしかして、お腹すいちゃった?』
「セラちゃん……。たらふく食べたし、準備万端だよ。」
『あはは。そうだよね。』
ピット君が私を呼んだ理由は只一つ。出陣命令だ。何も直接来なくとも呼び掛けたら必ずゲートへ歩みを進めるのに、ピット君はわざわざこの場へ来てくれた。手間を取ってまで。首を捻るなと言われるのが難しい相談だ。彼が私の元へ来る理由が一つも該当しないのだから、この行動は不自然ではない。寧ろ不自然なのはピット君だ。心を込めて作った手作り料理をイカロス達同様たらふく食べていたし、いつでも出陣出来る状況下にある彼がこの場に来る目的は一体何なのだろう。それに今、最終決戦の前だからか妙にピリピリしているのだ。何か言葉を繋げようとしている?両手を握りしめて口を開こうとする彼。彼が何を切り出すのか、言葉を待つ私。私達は今、互いに見つめ合っている状態にある。
「……セラちゃん。」
『なぁに?』
「この戦いが終わったら、キミに伝えなければならないことがあるんだ。」
『うん。……いまじゃ、ダメなの?』
「集中できなくなるし、ゆっくり考えてほしいから。すべてを終えたあとで伝えるよ。」
彼の口から告げられた“伝えなければならないこと”。余りにも意味深な言葉に腑に落ちなかったのだが、いつになく真剣な表情のピット君に対して言葉に詰まる。気の利いた返答でもすべきなのだが、これと言って思い浮かんではくれずに了承の意である首を縦に頷く他方法が見つからなかった。ピット君は一体何を告げようとしているのだろう。まさかとは思うが私に対して直隠しにしておいた懺悔の告白だろうか。天使にはそもそも懺悔すべき告白があるのだろうか。清廉潔白なのに……恐らく、だが。伝えるだけ伝えてこの場を離れるピット君の背中を見送りつつ、何か自分に思い当たる節があるかどうかを必死に思い起こすのだった。
「……セラちゃん?」
『……!あ、ピット君……。』
「……。」
『?どうしたの?』
「い、いや!なんでもないよ!(見惚れていたなんて、言えそうもないな……。)」
様々な思いがついつい胸中を過り、眉間の皺を深くさせたが平然とした表情へ戻る。邪念が入り混じっていては、主に祈りを捧げても届かないだろう。気を取り直し、全ての邪念を払い再度祈る。かれこれ、何時間こうしていただろう。もうそろそろ出陣の刻を迎えたか。それを証拠に自身の名を呼ぶ彼の声が耳を掠めた。名を呼ばれたのは、祈りを捧げていた主パルテナ様から命が下ったから。自身から向かって左側に彼、ピット君が立ち尽くしていた。名を呼ばれ振り向くと、心做しか彼の顔面はほんのり赤く染まっている。それでいて呆然としているのだ。首を傾げ、問い掛けてみるが慌てふためきながら両手を左右に振っている。言葉と行動、更に仕草が見事に合致しない。されど、この場面で追求したとしても納得の行く返答はされないだろう。適当な返事を返していたら、興味が逸れたと思ったのか彼が陰ながら胸を撫で下ろしているのが垣間見えた。
『もしかして出陣命令?』
「いや。もうすこし、時間があるよ。」
『じゃあなに?あっ!もしかして、お腹すいちゃった?』
「セラちゃん……。たらふく食べたし、準備万端だよ。」
『あはは。そうだよね。』
ピット君が私を呼んだ理由は只一つ。出陣命令だ。何も直接来なくとも呼び掛けたら必ずゲートへ歩みを進めるのに、ピット君はわざわざこの場へ来てくれた。手間を取ってまで。首を捻るなと言われるのが難しい相談だ。彼が私の元へ来る理由が一つも該当しないのだから、この行動は不自然ではない。寧ろ不自然なのはピット君だ。心を込めて作った手作り料理をイカロス達同様たらふく食べていたし、いつでも出陣出来る状況下にある彼がこの場に来る目的は一体何なのだろう。それに今、最終決戦の前だからか妙にピリピリしているのだ。何か言葉を繋げようとしている?両手を握りしめて口を開こうとする彼。彼が何を切り出すのか、言葉を待つ私。私達は今、互いに見つめ合っている状態にある。
「……セラちゃん。」
『なぁに?』
「この戦いが終わったら、キミに伝えなければならないことがあるんだ。」
『うん。……いまじゃ、ダメなの?』
「集中できなくなるし、ゆっくり考えてほしいから。すべてを終えたあとで伝えるよ。」
彼の口から告げられた“伝えなければならないこと”。余りにも意味深な言葉に腑に落ちなかったのだが、いつになく真剣な表情のピット君に対して言葉に詰まる。気の利いた返答でもすべきなのだが、これと言って思い浮かんではくれずに了承の意である首を縦に頷く他方法が見つからなかった。ピット君は一体何を告げようとしているのだろう。まさかとは思うが私に対して直隠しにしておいた懺悔の告白だろうか。天使にはそもそも懺悔すべき告白があるのだろうか。清廉潔白なのに……恐らく、だが。伝えるだけ伝えてこの場を離れるピット君の背中を見送りつつ、何か自分に思い当たる節があるかどうかを必死に思い起こすのだった。
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