第24章 三つの試練(後編)
セラ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼の機嫌が損なう前に、距離を取るべきなのかもしれない。だが私の思いとは裏腹に、ディントスはどんどん距離を詰めて来る。離れようにも両手をぎゅっと握られているために、距離を置けず成されるがまま。ピット君の表情は今、恐怖で窺いたくもない。だが何故、彼の表情に険しさが増しているのかは分からずにいる。ディントスは、横目でチラリとピット君を盗み見ては一言呟いた。
「やはりな。」
『えっ……?やはりって?……ピット君!悪いんだけど先に行っててくれる?』
「な……!なに言ってるんだよ!セラちゃん!」
『かならず、追いつくから。ね?』
「……!」
魔の前でディントスを見つめ、思った。この人には何か考えがあって行動しているのではないか、と。そう思ったから、ピット君には先に行っててもらう選択をする。無論、いつものように共に行くものだと思っていたピット君は険しい表情から如何にも納得できない表情へと変化させていたが、自身の言葉に対し諦めてくれたのか円形のフィールドから上へせり上がり上昇して行く彼。私はその姿を静かに見守っていた。
本来ならば、二人で試練を乗り越えていただろう。言わずもがなそのつもりでいるが、ディントスの言葉が気になってしまったのが理由である。ピット君は、円形のフィールドから階段を上ろうとしていた。ディントスが映像を通して、彼の様子を窺っている。
「ここは?!」
「階段が伸びてますね。」
「先ずはひとつめの試練じゃ。3つの護りを順に越えてゆくのじゃ。」
『ピット君、がんばって!』
階段の行く先々に魔物達が待ち構えている。その魔物達からの攻撃を的確に回避しながら、順々に攻撃を加えて浄化に繋げているピット君。さすがと言わんばかりだ。幾多の激戦を繰り広げて来ただけのことはある。何よりも手際が良い。私に至ってはどうだろう。ずっと、彼の隣で戦って来た。戦いの中で何度も危険な目に遭遇したが、そんな時はピット君が必死に反撃し守ってくれた……だからこそ、私はこうして戦えている。何もかも彼のお陰だ。思えば、自分で危機を乗り越え立ち向かって行った記憶が殆んどない。これでは、何のために戦って来たのか分かったものではないじゃないか。自身の表情に自然と影が落ちて行く。これでは遠回しに試練を受ける資格がないと言われても仕方がない。
「おぬしがどう思おうが勝ってじゃが、おぬしはすでに試練をパスしているのじゃよ。」
『……えっ?いま、なんて?』
「おぬしは試練を受ける必要はないと言ったのじゃ。すでにその素質をもっているからの。」
『そう、なの?』
「おぬしのそのやさしさがだれかを救っているのは断言できる。そのやさしさと慈悲を忘れなければ、だいじょうぶだろうて。」
『……ありがとう。ディントス。』
「そのやさしさついでに協力してほしいのじゃが……。」
自分を助けられないのに、誰かを助けられる訳がない。これではハデスに苦しめられている生物達を救うのは不可能だ。自分の不甲斐なさに悔しさが込み上がり、下唇を噛みしめる。だが、ディントスから思いも寄らない言葉が出て来て目を大きく見開いてしまった。
私が既に試練をパスしている。驚くなと言われるのが無理な話だ。ピット君は今も尚、試練を受けているのに私にはその必要がない、だなんて。それでは平等性に欠ける。ディントスが止めたとしても、私はピット君と共に試練を受けるだろう。しかし、ディントスから出た協力とは一体。私は彼にどんな協力を求められるのだろう。どんな言葉が空中に飛び交うのか。次の言葉を待っていれば、彼から想像もしないお願いが耳に届いた。
「ピットと……対戦してほしいのじゃ。」
・・・セラちゃんが非常に気がかりであったが、彼女のあの笑顔を見てしまったら素直に首を縦に頷くしか方法が見つからなかった。ここは彼女を信じて、先に進むしかない。ディントスめ。セラちゃんをどうするつもりだ。僕の中には確かに沸々と怒りが込み上がっている。
「各軍の敵が入り交じっていますが あまり気にせず進みましょう。」
「かつてない光景ですね……。」
試練の真っ最中であるし、野暮な行動は出来ないがセラちゃんになにかしようものなら全力で止めにかかるつもりだ。試練は大事だし、ハデスを打ち倒すのに必要不可欠だが彼女に危機が迫るのであれば容赦は出来ない。しかし、パルテナ様からそんな発言もない。つまりはセラちゃんの無事を意味する。何やら話し込んでいたみたいだが、何の話か迄は聞こえなかった。
「いかにもな扉がロック解除されました。」
「いかにも突撃!」
冥府軍、自然軍だけに留まらずオーラム軍迄出現して来る戦況。三軍の敵がこちらに向かって来る違和感を覚えながらも階段から上がる度返り討ちにしている。ペースは順調だ。ディントスが作り上げたコピーだからか、一筋縄ではいかなくなっているが通用しない訳でもない。当然、攻撃は届いている。
「やはりな。」
『えっ……?やはりって?……ピット君!悪いんだけど先に行っててくれる?』
「な……!なに言ってるんだよ!セラちゃん!」
『かならず、追いつくから。ね?』
「……!」
魔の前でディントスを見つめ、思った。この人には何か考えがあって行動しているのではないか、と。そう思ったから、ピット君には先に行っててもらう選択をする。無論、いつものように共に行くものだと思っていたピット君は険しい表情から如何にも納得できない表情へと変化させていたが、自身の言葉に対し諦めてくれたのか円形のフィールドから上へせり上がり上昇して行く彼。私はその姿を静かに見守っていた。
本来ならば、二人で試練を乗り越えていただろう。言わずもがなそのつもりでいるが、ディントスの言葉が気になってしまったのが理由である。ピット君は、円形のフィールドから階段を上ろうとしていた。ディントスが映像を通して、彼の様子を窺っている。
「ここは?!」
「階段が伸びてますね。」
「先ずはひとつめの試練じゃ。3つの護りを順に越えてゆくのじゃ。」
『ピット君、がんばって!』
階段の行く先々に魔物達が待ち構えている。その魔物達からの攻撃を的確に回避しながら、順々に攻撃を加えて浄化に繋げているピット君。さすがと言わんばかりだ。幾多の激戦を繰り広げて来ただけのことはある。何よりも手際が良い。私に至ってはどうだろう。ずっと、彼の隣で戦って来た。戦いの中で何度も危険な目に遭遇したが、そんな時はピット君が必死に反撃し守ってくれた……だからこそ、私はこうして戦えている。何もかも彼のお陰だ。思えば、自分で危機を乗り越え立ち向かって行った記憶が殆んどない。これでは、何のために戦って来たのか分かったものではないじゃないか。自身の表情に自然と影が落ちて行く。これでは遠回しに試練を受ける資格がないと言われても仕方がない。
「おぬしがどう思おうが勝ってじゃが、おぬしはすでに試練をパスしているのじゃよ。」
『……えっ?いま、なんて?』
「おぬしは試練を受ける必要はないと言ったのじゃ。すでにその素質をもっているからの。」
『そう、なの?』
「おぬしのそのやさしさがだれかを救っているのは断言できる。そのやさしさと慈悲を忘れなければ、だいじょうぶだろうて。」
『……ありがとう。ディントス。』
「そのやさしさついでに協力してほしいのじゃが……。」
自分を助けられないのに、誰かを助けられる訳がない。これではハデスに苦しめられている生物達を救うのは不可能だ。自分の不甲斐なさに悔しさが込み上がり、下唇を噛みしめる。だが、ディントスから思いも寄らない言葉が出て来て目を大きく見開いてしまった。
私が既に試練をパスしている。驚くなと言われるのが無理な話だ。ピット君は今も尚、試練を受けているのに私にはその必要がない、だなんて。それでは平等性に欠ける。ディントスが止めたとしても、私はピット君と共に試練を受けるだろう。しかし、ディントスから出た協力とは一体。私は彼にどんな協力を求められるのだろう。どんな言葉が空中に飛び交うのか。次の言葉を待っていれば、彼から想像もしないお願いが耳に届いた。
「ピットと……対戦してほしいのじゃ。」
・・・セラちゃんが非常に気がかりであったが、彼女のあの笑顔を見てしまったら素直に首を縦に頷くしか方法が見つからなかった。ここは彼女を信じて、先に進むしかない。ディントスめ。セラちゃんをどうするつもりだ。僕の中には確かに沸々と怒りが込み上がっている。
「各軍の敵が入り交じっていますが あまり気にせず進みましょう。」
「かつてない光景ですね……。」
試練の真っ最中であるし、野暮な行動は出来ないがセラちゃんになにかしようものなら全力で止めにかかるつもりだ。試練は大事だし、ハデスを打ち倒すのに必要不可欠だが彼女に危機が迫るのであれば容赦は出来ない。しかし、パルテナ様からそんな発言もない。つまりはセラちゃんの無事を意味する。何やら話し込んでいたみたいだが、何の話か迄は聞こえなかった。
「いかにもな扉がロック解除されました。」
「いかにも突撃!」
冥府軍、自然軍だけに留まらずオーラム軍迄出現して来る戦況。三軍の敵がこちらに向かって来る違和感を覚えながらも階段から上がる度返り討ちにしている。ペースは順調だ。ディントスが作り上げたコピーだからか、一筋縄ではいかなくなっているが通用しない訳でもない。当然、攻撃は届いている。