押し寄せてくる不安を撥ね退けて辿り着いた先は、ボスが待ち受ける大きな広間。バトルフィールドではなく、冥府軍の象徴とも言える模様が道上に幾つも散りばめられている。怪しくもあるがきっと歩みを進めなければ、何が待ち受けているのかも見通せない。至極当然であるが。真上を見つめても冥府軍のマークが幾つも浮遊している。此処は一体……。なぁんて思っていたら、突然の揺れ。衝撃で身体がふらつきそうになってしまうが、危機一髪でピット君がふらついた身体を両腕で支えてくれた。礼を述べて離れようとするのだが、彼はなかなか離してくれる様子がない。

「あらら。ナチュレちゃんが攻めて来たよ。お茶でもふるまわないとなぁ。あ、ちょっと失礼するよ。」
「……。自然軍が攻めている割には静かだなぁ。やっぱりココ、別次元なのかなぁ。」
『でもたしかにさっきは揺れたよね。』

衝撃につい驚いてしまうが、両サイドに映像が映し出され、見てみたらナチュレちゃんがハデスへ自然軍を差し向けている場面だった。もしかして今、ハデスの巨体にナチュレちゃんが攻撃を仕掛けている。だとするのならば、もう少し衝撃がある筈。それもない。それともハデスにはダメージがないのか。何故か名残惜しくしていた彼が、態勢を整えてピット君と共に真っ直ぐ再度歩き始める。ナチュレちゃんも頑張ってくれているのに、何も行動を起こさないのは天使の名誉に傷がつくってものだ。
抗おう。最大限に抗ってやろう。それが、一番の最善策に思える。



「これは……ハデスの心臓？」
『これが……？』
「『逃げた？！』」

……漸く真っ直ぐ突き進んだ先に、両眼に捉えた心臓の形状した何か。ばったり遭遇したそれは、私達に見つかるなり慌てた様子で猛ダッシュを決め込み、逃走を計った。心臓に意志があるのか。どう見ても自分で行動を起こしたように見えた。それだけではなく、逃走を計った場所は何と目の前にスタート地点が窺える広大なラビリンスである。この中に心臓が逃げ込んだ、しかも自分の意思で。何となく頭痛がして来る感覚がする。気のせいなのかと言われればそれ迄だが、正直な心境を述べると現実逃避したくなってしまった。

「追いかけなきゃダメか！ハデスめ。とことん人を食ってるなぁ。心臓のくせに　おしりプリプリしてたもんなぁ。」
『夢ならばとっとと覚めてほしいぐらいだわ。』

どう転んでも優雅におしりをプリプリさせながら歩く心臓。どういった性能なのか、まだ未知の状態だから攻撃を仕掛けてみないと何とも言えない。だなんて思っていたのだが、どうやら状況と敵を甘く見過ぎていたようなのだ。理由の詳細を述べるが、ピット君がハデスの心臓へ向けて打撃連続コンボを叩き出していたのだが攻撃されて腹を立てたのか急に怒り出し突進を食らわせに来たのだ。さすがのピット君も予測不可能であったために、大いにダメージを喰らってしまう。意外な攻撃方法を目の当たりにして目を見開いている私達に更なる追討ちをかける。何と、心臓は私達の目の前で自分の分身を産み出したのだ。能力が無知で何とも言えなかったのだが、まさかの短気で分身産みだとは思わなかったのだ。あの分身はどうすればいいのだろう。まるで攻略が見えて来ない。心臓を前に攻略をどうすべきなのか、必死に頭を働かせている。けれど、ピット君は別の事柄に心を奪われている様子だ。それでも身体は勝手に動いているらしい。条件反射なのか。

「魂が喰われても、魔物を作るのに使われたとしても……。生命のサイクルが正しく回ればいいのかな。例えば転生するとか。」
『うぅん……。それでもハデスは魂をないがしろにしているし、それを許すワケにはいかないよ！』
「そうだね。ハデスと冥府軍は魂をひとりじめするために暴走している！自分たちの力をつけるために戦いを重ね正しい循環を乱している！」
『ナチュレちゃんが言う自然と人間の関係に近いのかもしれないわ。』
「しかし、ハデスはその力で地上界　天界にも毒牙をむいている！やはり、ハデスは倒さなければならないんだ！！僕とセラちゃんとパルテナ様だけにしか冥府の神は止められないんだ！！」
『うん。そうだね。』
「って、ふたりで決意を新たにしているところだけれど。今相手にしているのは　あのケツプリ星人だとは。」
『見栄えから勝手に決めてるけどホントにアレ、ハデスの心臓なのかなぁ。』