グラインドレールの先に終わりが見えて来た。レールの先に待ち構えているのは、足場の上で陣取っている細胞達。どうやら、私達を体内に送り込んだ張本人。一瞬でも一時でも忘れてしまったが、ああ見えてハデスも神様でありグラインドレールを敷く中の一人に値するのだ。性格や日頃の行いは別としても、能力は著しく高いと言える。そう考えれば考える程、腹立たしい。理不尽だと言われてしまいそうだが、腹部の中に溜まった怒りを目の前で陣取っている細胞達へぶつけている。見た所足場の上で陣取っている細胞達を倒せば、やはり先へ進めてしまう寸法だ。これもまたお決まりのパターン。

「ここにレールを敷く理由は無いだろう？！敵に塩を送っているつもりか？！」
「ピットくんはのんきだなぁ。この先にゴールがあるなんて誰が決めたんだい？」
「うッ……。」
『やっぱり……そうなんだ……。』
「ウソウソ。あんまり深く考えないほうがいいね。ま、ちょっとのイジワルはさせてもらいますがね！」

けれどそんなお決まりのパターンでも、しっかり乗り越えなければ先に進めるものも進めない。足場に着地した途端、神器を駆使してダッシュ射撃を開始するピット君。私は、と言うと後ろダッシュ射撃で敵の攻撃をうまく躱しつつ、攻撃を決めて浄化に繋ぐ。段々動きに機敏さが出て来て、内心嬉しく思う。戦闘で培われた何かが、次の戦闘で活かされる。それが難しい時だってあるのに、糧になっていると実感している……。この調子でどんどん行こう。そんな考えを脳裏にちらつかせ、足場から更に敷かれているグラインドレールに乗り込む。ハデスの“イジワル”とは一体何なのだろう。とかなんとか思っていたら直ぐ目の前に障害物と分かれ道が。障害物は簡単に取っ払うのが可能だが、肝心の分かれ道が果たしてどちらなのか。二本並行しているグラインドレールを比較してみれば、一目瞭然であった。右側に敷かれたレールの先は、途中で途切れているのが視界に映る。これは、明らかに左側へ進むのが正しいルートみたいだ。ハデスの“イジワル”とは、この手のものだった。厭、ハデスがこれだけに留めておくだろうか。他にも幾つか手を考えていて、私達を翻弄するのではないか。聞けば、真っ当なゴールも存在しないと言う。深く考えたくはないが、不安の波が押し寄せてくるのは最早止められない。私達は、本当に此処から出られるのだろうか。左側から乗っかったグラインドレールが運んでくれたのは段差のある岩場であった。どうやら、そこからまたグラインドレールに乗り込むのだそうだ。通常運転だと言わんばかりに襲撃して来る細胞達であったが、運良く下へ歩き出していたために敵であると人気出来なかったのか、またしても戦闘に発展すると思われたがうまく難を逃れた。

「線路は続くか……。」
『どこまでも……。』

岩場から真っ直ぐ伸びているグラインドレール。余りにも直進的に伸びているものだから、このまま強大な敵……つまりボスとの戦闘へと流れて行くのではないか。それすら大いに有り得る。彼の言う“イジワル”は未だ続行しているのだろう。何が起きてもおかしくはない状況下だ。せめてどう転んでも驚かないように冷静な態度で臨もうと思う。
グラインドレールが私達天使を運んでくれたのは、天井の見えない何処かの空間だった。何処か、と表現されてもこの中全体がハデスの体内なのだから道があって、足場があって、グラインドレールがあって。今眼に映るは、空間の中に細胞達が犇めいている。まるで自身が細胞にでもなったような感覚に陥ってしまう程だ。
神器を構えて、戦闘開始。だだっ広い今居る空間は、物陰に隠れて攻撃が治まったのを一気に叩く戦法にうってつけのフィールド……ではない。そんな小細工は要さず、正々堂々戦えの意なのだろうか。攻撃を喰らうまいと回避し、反撃しているがこちら側が有利に立っている気がする。みるみる内に浄化しているのだ。それはまぁ、スカッとする具合に。

「しかし、このままではピットくんとセラちゃんと戦えなくてさみちぃなぁ。……ンなんちゃってぇ！」
「うぉっ！！」
『きゃあっ！！』
「ハハハハハ。びっくりした？」
「不意打ちとは卑怯な。」

そんな時、ハデスの声が耳に届いたと同時にパンチして来る見覚えのある腕。あと数センチ、ずれが生じていたら危うくパンチを喰らっていた。一難は取り敢えず去ったが、どうやらこれで仕舞ではないらしい。それだけじゃないのだ。ピット君は気付かなかったみたいだが、私達目掛けてパンチしてくるのはつまり自虐行為そのもの。自分へ向けてパンチを繰り出している同等の意味だ。なんて強引な。そう迄して楽しみたいのか。異常な精神だ。それとも、痛覚がそもそもないのか。

「あ、ゴメンゴメン。じゃ、手当たり次第に食ってみるとしようか。いっただきまぁす！」
『きゃあぁッ！いったいなんなの？！』
「うわぁぁッ！なんたること！！敵や建造物ばかりでなく　死んだものの魂まで吸い込んでいるのか？！」
『なぁんですってぇ！』
「大好物。ゴハンが進むね。」
「魂を食う！それは転生させず、天にも召さず根絶するってことじゃないのか？！」