第22章 焼け落ちた羽根(前編)
セラ
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気付いたら世の中は既に朝を迎えていた。小鳥は囀り、私に朝を知らせてくれる。いつの間にか眠ってしまったみたいだ。両瞼をゆっくり開き、周囲を見渡し寝惚け眼で状況を一瞬で把握するのは出来なかったが、目の前に今も尚眠り続けているピット君を見つめ、あれは全て夢物語ではなかったのだと思い知る。ピット君の状態が気になってしまった私は、何も出来ないと分かっていながら彼が心配で付きっきり様子を見ていたのだ。もしかしたら、思わぬ時に目を覚ましてくれるのではないか。淡い期待を胸に抱いて。しかし、期待は見事に打ち砕かれ いつもの何気ない日常は決して訪れてはくれなかった。自身の表情に影が差す。
ピット君は、混沌の遣いから生まれた残骸に捕えられてしまったブラピ君を助けるために、使用限界の飛翔の奇跡を使ってしまう。ブラピ君を無事救出出来たものの、その引き換えにピット君は……二度と、目を覚まさなくなってしまったのだ。今回の出来事は、誰も……悪くない。強いて挙げるのならば、混沌の遣いが執念を燃やしてしまったからこの結果が生まれてしまった。やはり混沌の遣いをもっとぶん殴っておけば良かった。どうしてもこの気持ちは晴れず、綺麗に眠り続けているピット君の横顔を見つめている。こんな綺麗な顔をして眠っているのに、目を覚まさないだなんて俄に信じられない。実は、鼻を指で摘んだりしてみたら苦しさの余りがばっと彼が起き出すのではないか。妙な期待を抱きつつ、実行に移してみるけれど、望んだ展開に発展してくれなくて肩を落胆させる。昨日はあんなに元気だったのに。ピット君はもうずっと、このままなのだろうか。
……厭、弱気になってはいけないし、クヨクヨしていられない。必ず、彼が目を覚ます方法が見つかる筈。スクッと立ち上がり、気合いを入れてキッチンへと向かおうとすれば立ち上がった拍子に何かが床に落下した音を聞く。気がついて歩み寄り、拾い上げたのは……一枚の毛布だった。推察するに、誰かが眠る私の背中にかけてくれたようなのだ。パルテナ様かイカロスか……或いは。拾い上げた毛布をピット君にかけて、その場を離れる。
『ピット君、いってきます。』
必ずパルテナ様がその方法を見つけてくださる。そう信じて、私は私のするべき任務を全うしよう。キッチンへ歩みを進めた刹那、誰かに見つめられていたかの視線を感じて振り返るが周囲には誰も……居なかった。首を傾げ、再び歩き始める。いつもは気付いたりするけれど、今回は様々な思いが交差して気付かなかったのだ。ブラピ君が腕組みしつつ、物陰から私を温かく見守り毛布をかけてくれた張本人だったなんて……微塵も。
朝食を作り、食べ終えた私は神器の調子をチェックしては出陣するべくゲートに向かっていた。パルテナ様に命じられたから、それだけが理由ではない。言わば、これは自分の意思。ピット君を助けたい一心である。それだけではないのかもしれない。ピット君が不在の今、自分がしっかりしなくては。そんな、責任感に近い感情が生まれて来ている。ここだけの話にするが、朝食を食べている時笑いの絶えない場面にいつも発展するのだけれど今回は当然それもなくレシピも間違っていない、何の落ち度もない朝食が美味しく感じられなかった。パルテナ様、イカロス……ブラピ君もそれぞれ褒めてくれたのにうまく笑って答えられなかったのだ。心にぽっかり空いた穴は、簡単に塞がらない。きっと、この穴を塞げるのは彼だけなのだろう。
『セラ!いきます!』
パルテナ様が命じた通り、助走をつけてゲートから勢い良く飛び立った。彼女が出陣を命じる時は、決まって何か考えがあるから。もしかしたら、ピット君を目覚めさせる案を思いついたのかもしれない。そうと分かれば善は急げ。必ずこの任務を遂行してみせる。
ゲートから飛び立ち、視界に映した風景は暗雲が空を覆い、山々が連なり、その周囲は霞が掛かっている。まさに不気味と称しても差し支えない。そんな中でも魔物達は所構わず向かって来る。いつも通り魔物浄化に勤しんでいれば、後方から聞き慣れた声が耳を掠めた。何時間前も聞いた低い声。
「出るぞッ!」
『ブラピ君?!』
気になって後ろを振り返れば、猛スピードでこちらへ飛行して来る黒き誰か。その正体は言わずもがな。どういう風の吹き回しか、それとも何か思う所があったのか真意は不明であるが戦場に自ら赴いたのを見ると彼の機嫌が良かったのか。
然う斯うしている内にあっという間の時間差で、ブラピ君は私の飛行スピードに追いついてしまう。隣で飛行してくれている彼を見つめ微笑みを浮かべてみれば、直ぐに顔をプイッと背けられてしまった。その顔の色は何処か、赤い。
「ピットはいまも昏睡状態です。そこで考えました。ピットを助ける方法を。」
『あるんですね?!ピット君を助ける方法!』
「俺には関係ないだろう……。」
ピット君は、混沌の遣いから生まれた残骸に捕えられてしまったブラピ君を助けるために、使用限界の飛翔の奇跡を使ってしまう。ブラピ君を無事救出出来たものの、その引き換えにピット君は……二度と、目を覚まさなくなってしまったのだ。今回の出来事は、誰も……悪くない。強いて挙げるのならば、混沌の遣いが執念を燃やしてしまったからこの結果が生まれてしまった。やはり混沌の遣いをもっとぶん殴っておけば良かった。どうしてもこの気持ちは晴れず、綺麗に眠り続けているピット君の横顔を見つめている。こんな綺麗な顔をして眠っているのに、目を覚まさないだなんて俄に信じられない。実は、鼻を指で摘んだりしてみたら苦しさの余りがばっと彼が起き出すのではないか。妙な期待を抱きつつ、実行に移してみるけれど、望んだ展開に発展してくれなくて肩を落胆させる。昨日はあんなに元気だったのに。ピット君はもうずっと、このままなのだろうか。
……厭、弱気になってはいけないし、クヨクヨしていられない。必ず、彼が目を覚ます方法が見つかる筈。スクッと立ち上がり、気合いを入れてキッチンへと向かおうとすれば立ち上がった拍子に何かが床に落下した音を聞く。気がついて歩み寄り、拾い上げたのは……一枚の毛布だった。推察するに、誰かが眠る私の背中にかけてくれたようなのだ。パルテナ様かイカロスか……或いは。拾い上げた毛布をピット君にかけて、その場を離れる。
『ピット君、いってきます。』
必ずパルテナ様がその方法を見つけてくださる。そう信じて、私は私のするべき任務を全うしよう。キッチンへ歩みを進めた刹那、誰かに見つめられていたかの視線を感じて振り返るが周囲には誰も……居なかった。首を傾げ、再び歩き始める。いつもは気付いたりするけれど、今回は様々な思いが交差して気付かなかったのだ。ブラピ君が腕組みしつつ、物陰から私を温かく見守り毛布をかけてくれた張本人だったなんて……微塵も。
朝食を作り、食べ終えた私は神器の調子をチェックしては出陣するべくゲートに向かっていた。パルテナ様に命じられたから、それだけが理由ではない。言わば、これは自分の意思。ピット君を助けたい一心である。それだけではないのかもしれない。ピット君が不在の今、自分がしっかりしなくては。そんな、責任感に近い感情が生まれて来ている。ここだけの話にするが、朝食を食べている時笑いの絶えない場面にいつも発展するのだけれど今回は当然それもなくレシピも間違っていない、何の落ち度もない朝食が美味しく感じられなかった。パルテナ様、イカロス……ブラピ君もそれぞれ褒めてくれたのにうまく笑って答えられなかったのだ。心にぽっかり空いた穴は、簡単に塞がらない。きっと、この穴を塞げるのは彼だけなのだろう。
『セラ!いきます!』
パルテナ様が命じた通り、助走をつけてゲートから勢い良く飛び立った。彼女が出陣を命じる時は、決まって何か考えがあるから。もしかしたら、ピット君を目覚めさせる案を思いついたのかもしれない。そうと分かれば善は急げ。必ずこの任務を遂行してみせる。
ゲートから飛び立ち、視界に映した風景は暗雲が空を覆い、山々が連なり、その周囲は霞が掛かっている。まさに不気味と称しても差し支えない。そんな中でも魔物達は所構わず向かって来る。いつも通り魔物浄化に勤しんでいれば、後方から聞き慣れた声が耳を掠めた。何時間前も聞いた低い声。
「出るぞッ!」
『ブラピ君?!』
気になって後ろを振り返れば、猛スピードでこちらへ飛行して来る黒き誰か。その正体は言わずもがな。どういう風の吹き回しか、それとも何か思う所があったのか真意は不明であるが戦場に自ら赴いたのを見ると彼の機嫌が良かったのか。
然う斯うしている内にあっという間の時間差で、ブラピ君は私の飛行スピードに追いついてしまう。隣で飛行してくれている彼を見つめ微笑みを浮かべてみれば、直ぐに顔をプイッと背けられてしまった。その顔の色は何処か、赤い。
「ピットはいまも昏睡状態です。そこで考えました。ピットを助ける方法を。」
『あるんですね?!ピット君を助ける方法!』
「俺には関係ないだろう……。」
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