第20章 女神の魂(後編)
セラ
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ピット君に抱きかかえられるの、本日二度目だなんて考えながら地に足をつけゆっくり歩き始めた。下の階に落下しただけなのにより一層不気味さが増した気がする。これはこれで、おばけでも出そうな雰囲気だ。
ーー助けてぇ。
「『!』」
『今、なにか……聞こえなかった……?』
「牢屋から 聞こえたね。」
『えっ?!や、やめてよぉ。もーうッ、冗談でしょ?』
「いや。やっぱり聞こえるよ。」
『ピット君ったら。驚かそうとしたって、そうはいかないんだから。』
いる筈もないのだけれど、しんと静まり返っている物々しい雰囲気が尚更拍車をかけている。そんな折、何処からか声が聞こえた。誰かに助けを呼ぶ声。一気に体温が冷めていく感覚。まさかの物の怪の類いか。どっちにしたって、素通りしてしまいたい気持ちでいっぱいだ。けれど、ピット君は声がした方向へ……つまりは牢屋へと方向転換し、ゆっくり歩き始めてしまう。好奇心に支配されているのか。怖い者知らずとは彼のためにある言葉だと思う。彼が戻ってくる迄待っているのも難だから、仕方なく後を付いていくが足取りはいつもより重い。
ーー助けてくれぇ。ここから出してくれぇ。
『さっきよりもはっきり聞こえてくるんだけど……。』
牢屋へ接近するにつれ、声はどんどん大きくはっきり聞こえてくる。察するに、声の主は牢屋に閉じこまれており脱出不可能な状況に陥っているらしい。でなかったら、助けを求める声が聞こえて来る筈がない。実は、牢屋の中で不治の病にかかりやむなく命を落としてしまった誰かの霊魂が留まっているのならば正しい方向に導いてあげなければならない。天使としての使命もしっかり果たさなければ。怖じ気ついてなんていられないのだ。しかし、やはり不気味さだけは払拭できそうにない。
「ここだ。」
『あの〜誰かいますか?』
足取りは重く、牢屋の中を覗くなんてなかなか勇気がいる行動だ。万が一、恐ろしい怨念を抱く霊魂であったなら対処しようがない。実体のないものを神器で攻撃するのは、まず不可能だ。冥府の魔物ズリーが良い例である。ゆっくりゆっくり牢屋まで距離を詰め、ピット君の後ろから少々顔を覗かせ牢屋の中を見つめてみるが、中の様子は薄暗くよく見えない。
「その声はまさか……セラさんとピットさんでは?!」
『んっ?どうして私たちの名前を?』
「牢屋に知り合いなんていないけど。」
「ヤダなー。ピットさん、俺ですよ。俺!ファイターです!!」
「『ファイター君?!』」
ハデスの声に掻き消されてしまったが、聞き覚えのある何処か懐かしい声。私達の話し声に気付き、鉄格子から姿を現したのはファイター君であった。ファイター君と言えば、天界で行われるスポーツ“天使の降臨”出場メンバーであり、腕の立つ実力者だ。幾度もピット君率いる光チームを勝利に導いた張本人である。そんな彼が、何故牢屋に入れられているのだろう。パルテナ様を救出するのが先決だし、混沌の遣いを倒せばきっと牢屋の錠も自然に外れるだろうが、目の前のファイター君が鉄格子から手を出し、いつの間にか私の両手を握りしめている。とても逃げ出せる状態ではない。何故か、段々ピット君の表情が険しくなっていくのが見て取れる。それにファイター君自身どうして牢屋に入れられてしまったのか、話を聞いてもらいたい様子。どうあっても無視を決め込むのは難しい。
『はぁ……。ファイター君、なにがあったのか教えてくれる?』
「セラさん!俺の話を聞いてくれるなんて感激です!!ああ、どうやってこの思いを伝えればいいのか……。」
『いいから早く話して。』
「あっハイ。実は……」
彼の話を牢屋前で聞いてあげる流れに運ばれてしまった。正直、かなり不本意だ。こうしている間にもパルテナ様は今でも苦しんでおられるのに、もどかしい気持ちを抱く。ファイター君を放っておいて、パルテナ様救出遂行を再開したいのだがなかなかうまくいかず歯痒い思いを抱きつつ、私の心情等露知らず順を追って話し始めたのだった。
……三年前のある日、ファイター君は“天使の降臨”に参戦すべく鍛錬しようとエンジェランドに来てみたら草花は枯れ始め、綺麗な水も流れておらず美しかった光景はもう既に存在していなかった。余りにも変わり果てたエンジェランドに不審を抱いた彼は真っ先に私やピット君の姿を捜したそうだ。だが、何処にもいなかった。それもその筈。ピット君は指輪にされ、地上に。私は、力を使った衝撃で深い眠りに就いていたのだからこの状況を知る由もなかったのだ。私もピット君も不在。この時点でファイター君はただならぬ事態を予測していたらしい。
「褒めてください!セラさん!俺、エライでしょう!!」
『う、うん。そうだね。』
「そのぐらい気づくのは当然なんじゃないかな。キミは“天使の降臨”出場メンバーなんだから。」
最早話半分で聞いてあげているピット君。因みに私もそうだ。ピット君に至っては、明らかに態度で表している。面白くなさそうな表情と腕組み。一刻も早く、この場から立ち去りたいなんて考えているに違いない。私も彼と同意見。だが、ファイター君の話はまだまだ続きそうだ。何故なら、話は核心にすら触れていない。
ーー助けてぇ。
「『!』」
『今、なにか……聞こえなかった……?』
「牢屋から 聞こえたね。」
『えっ?!や、やめてよぉ。もーうッ、冗談でしょ?』
「いや。やっぱり聞こえるよ。」
『ピット君ったら。驚かそうとしたって、そうはいかないんだから。』
いる筈もないのだけれど、しんと静まり返っている物々しい雰囲気が尚更拍車をかけている。そんな折、何処からか声が聞こえた。誰かに助けを呼ぶ声。一気に体温が冷めていく感覚。まさかの物の怪の類いか。どっちにしたって、素通りしてしまいたい気持ちでいっぱいだ。けれど、ピット君は声がした方向へ……つまりは牢屋へと方向転換し、ゆっくり歩き始めてしまう。好奇心に支配されているのか。怖い者知らずとは彼のためにある言葉だと思う。彼が戻ってくる迄待っているのも難だから、仕方なく後を付いていくが足取りはいつもより重い。
ーー助けてくれぇ。ここから出してくれぇ。
『さっきよりもはっきり聞こえてくるんだけど……。』
牢屋へ接近するにつれ、声はどんどん大きくはっきり聞こえてくる。察するに、声の主は牢屋に閉じこまれており脱出不可能な状況に陥っているらしい。でなかったら、助けを求める声が聞こえて来る筈がない。実は、牢屋の中で不治の病にかかりやむなく命を落としてしまった誰かの霊魂が留まっているのならば正しい方向に導いてあげなければならない。天使としての使命もしっかり果たさなければ。怖じ気ついてなんていられないのだ。しかし、やはり不気味さだけは払拭できそうにない。
「ここだ。」
『あの〜誰かいますか?』
足取りは重く、牢屋の中を覗くなんてなかなか勇気がいる行動だ。万が一、恐ろしい怨念を抱く霊魂であったなら対処しようがない。実体のないものを神器で攻撃するのは、まず不可能だ。冥府の魔物ズリーが良い例である。ゆっくりゆっくり牢屋まで距離を詰め、ピット君の後ろから少々顔を覗かせ牢屋の中を見つめてみるが、中の様子は薄暗くよく見えない。
「その声はまさか……セラさんとピットさんでは?!」
『んっ?どうして私たちの名前を?』
「牢屋に知り合いなんていないけど。」
「ヤダなー。ピットさん、俺ですよ。俺!ファイターです!!」
「『ファイター君?!』」
ハデスの声に掻き消されてしまったが、聞き覚えのある何処か懐かしい声。私達の話し声に気付き、鉄格子から姿を現したのはファイター君であった。ファイター君と言えば、天界で行われるスポーツ“天使の降臨”出場メンバーであり、腕の立つ実力者だ。幾度もピット君率いる光チームを勝利に導いた張本人である。そんな彼が、何故牢屋に入れられているのだろう。パルテナ様を救出するのが先決だし、混沌の遣いを倒せばきっと牢屋の錠も自然に外れるだろうが、目の前のファイター君が鉄格子から手を出し、いつの間にか私の両手を握りしめている。とても逃げ出せる状態ではない。何故か、段々ピット君の表情が険しくなっていくのが見て取れる。それにファイター君自身どうして牢屋に入れられてしまったのか、話を聞いてもらいたい様子。どうあっても無視を決め込むのは難しい。
『はぁ……。ファイター君、なにがあったのか教えてくれる?』
「セラさん!俺の話を聞いてくれるなんて感激です!!ああ、どうやってこの思いを伝えればいいのか……。」
『いいから早く話して。』
「あっハイ。実は……」
彼の話を牢屋前で聞いてあげる流れに運ばれてしまった。正直、かなり不本意だ。こうしている間にもパルテナ様は今でも苦しんでおられるのに、もどかしい気持ちを抱く。ファイター君を放っておいて、パルテナ様救出遂行を再開したいのだがなかなかうまくいかず歯痒い思いを抱きつつ、私の心情等露知らず順を追って話し始めたのだった。
……三年前のある日、ファイター君は“天使の降臨”に参戦すべく鍛錬しようとエンジェランドに来てみたら草花は枯れ始め、綺麗な水も流れておらず美しかった光景はもう既に存在していなかった。余りにも変わり果てたエンジェランドに不審を抱いた彼は真っ先に私やピット君の姿を捜したそうだ。だが、何処にもいなかった。それもその筈。ピット君は指輪にされ、地上に。私は、力を使った衝撃で深い眠りに就いていたのだからこの状況を知る由もなかったのだ。私もピット君も不在。この時点でファイター君はただならぬ事態を予測していたらしい。
「褒めてください!セラさん!俺、エライでしょう!!」
『う、うん。そうだね。』
「そのぐらい気づくのは当然なんじゃないかな。キミは“天使の降臨”出場メンバーなんだから。」
最早話半分で聞いてあげているピット君。因みに私もそうだ。ピット君に至っては、明らかに態度で表している。面白くなさそうな表情と腕組み。一刻も早く、この場から立ち去りたいなんて考えているに違いない。私も彼と同意見。だが、ファイター君の話はまだまだ続きそうだ。何故なら、話は核心にすら触れていない。