第19章 光の戦車(後編)
セラ
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なんて解せないのだろう。怒り心頭に発するとはまさにこのこと。人差し指を洗車の主にビシッと突き、猛抗議してみるが空回りに終わる。酷い話だ。戦わずして、ピット君が必死に戦っている姿を見守るしか出来ないなんて。二人の愛以外は論外なのよ!とは言える筈もなく、肩をがっくり落とす。私だって、強くなった。誰かに守られるのではなく、誰かをこの手で守りたい。常日頃からその思いを胸に戦っているのに、それは時として私を蹴落としてしまう。
「セラちゃん。」
『……。』
「今回は、僕を応援していてくれないかな。それだけで僕は強くなれるんだ。」
『……分かったわ、ピット君。負けたら、承知しないから!』
「うん。いざ、参る!!」
旋毛(つむじ)を曲げて、戦車に乗り込んでやろうとも考えたのだけれど、その行為に及ぶ前にピット君から制止の声を上げられてしまう。彼自身自分の力で勝ちたいと願ったのか、私にその思いを口にする。納得出来た訳ではない。あわよくば、場外乱闘したって私は構わない。けれど何よりピット君が一番望んでいないだろう。私だって今迄戦ってきたのだ。第三者から水を差されたくはない気持ちは、痛い程良く分かる。必ず勝利すると約束したピット君は、目にも止まらぬ速さで戦車の主を追い掛けるかの如く“フラッシュ”と共に走り去って行った。レースが、たった今開幕する。
「押し込んだことはすまないけど パルテナ様のためにやるしかないんだ!」
「容赦無用。主君が為なら、我もこの手を汚すことに躊躇せぬ。」
「主君?ということは 仕えている人がいるということか?」
『戦車の主も、同じ気持ちなの?』
「屍山血河の戦により主を失い 数多の刻が流れた。かつては多くの戦友(とも)がいた。しかし、現世に残る光は“フラッシュ”と“シルバー”のみ。」
「馬の名前か。」
戦いは早くも白熱している。ピット君も戦車の主も手綱を引きながら、両者共々攻撃の数々を繰り出している。光の戦車に乗り込んでいるから錯覚しがちなのだが、どうやらレースの順位は関係がないらしい。攻撃を繰り出して、回避してどちらが先に倒れてしまうか……が勝敗を分ける。レースの順位が関係ないなら良いが、それでは圧倒的にこちらが不利であった。戦車の主の後ろを取るようにコースを走行するピット君。今は距離が然程離れていないから、互いに攻撃を喰らわせようとしている。剣で薙ぎ払う戦車の主に、彼は応じたり。回転切りしてきた所を、うまく躱して射撃を加えたりしている。ダメージを受けているかどうか、判断するのも難しい。手に汗握る戦いだ。
「我の身体もとうに滅した。魂も翳んでおる。天に誓って悔いは無いが神々とは無体な物よ。」
彼の人生はきっと壮絶だっただろう。想像するしかないが、口振りがそれ等を彷彿とさせる。数多の戦場を勝利の旗で治めていた時代。輝かしく眩かったに違いない。それとは相反に犠牲も多かっただろう。相当腕が立つ人物であるとピット君との戦いぶり、太刀捌きで伝わって来る。胸の前で両手を組み、戦いの行く末を見守る私。戦車の主が繰り出した紫色の雷が彼のダメージ蓄積を狙う。しかし、そんなので簡単にダメージを喰らうピット君ではない。フラッシュに軌道を逸らしてもらい、何とかダメージを受けなくて済む。だが、決してそれだけで仕舞ではない。次から次へと連射攻撃を繰り出し、彼の動揺を誘っている。これで何周しただろうか。幾ら天使の視力が良いからと言って、彗星のごとく走り去る戦車を目で追うのは苦労する。軽く二周はしているだろうか。っとその時、ピット君が戦車の主を追い越した。レースの順位は関係がないとは聞いていたが、テンションが高まる。視界は、ピット君と戦車の主に集中。戦車の主がピット君側に寄せてきて近距離攻撃を加えている模様。ピット君もこの攻撃に応え、反撃している。連続攻防が続く中、戦車の主が猛スピードでピット君を追い抜いて行く。このまま行けば、レースも戦闘にも勝利出来たかもしれないのに……と思わずにはいられない。
「天使よ。汝は何故(なにゆえ)に戦う。」
「知れたことを。パルテナ様のためだ。そして、パルテナ様が加護するセラちゃんや人類のためだ。」
『……私も……?』
「それは動機とは言えまい。」
「理由らしい理由なんているもんか!僕は僕がしたいことをしている。それがパルテナ様に仕え、セラちゃんを守ることなんだ!」
『……ピット君。ありがとう。』
「愚かな。余りにも愚かしい。だが、単純であるが故に強い。魂が響くようだ。」
三周目、あるいは四周目に到達したかと思われた最中、戦車の主はピット君に質疑する。彼は、キッパリ答えていた。真っ直ぐ真剣な面持ちで、パルテナ様や人類のため。そして、私を守るためである。と。嘘偽りのない曇りなき答え、この実直さにどれだけ救われたか分からない。
「セラちゃん。」
『……。』
「今回は、僕を応援していてくれないかな。それだけで僕は強くなれるんだ。」
『……分かったわ、ピット君。負けたら、承知しないから!』
「うん。いざ、参る!!」
旋毛(つむじ)を曲げて、戦車に乗り込んでやろうとも考えたのだけれど、その行為に及ぶ前にピット君から制止の声を上げられてしまう。彼自身自分の力で勝ちたいと願ったのか、私にその思いを口にする。納得出来た訳ではない。あわよくば、場外乱闘したって私は構わない。けれど何よりピット君が一番望んでいないだろう。私だって今迄戦ってきたのだ。第三者から水を差されたくはない気持ちは、痛い程良く分かる。必ず勝利すると約束したピット君は、目にも止まらぬ速さで戦車の主を追い掛けるかの如く“フラッシュ”と共に走り去って行った。レースが、たった今開幕する。
「押し込んだことはすまないけど パルテナ様のためにやるしかないんだ!」
「容赦無用。主君が為なら、我もこの手を汚すことに躊躇せぬ。」
「主君?ということは 仕えている人がいるということか?」
『戦車の主も、同じ気持ちなの?』
「屍山血河の戦により主を失い 数多の刻が流れた。かつては多くの戦友(とも)がいた。しかし、現世に残る光は“フラッシュ”と“シルバー”のみ。」
「馬の名前か。」
戦いは早くも白熱している。ピット君も戦車の主も手綱を引きながら、両者共々攻撃の数々を繰り出している。光の戦車に乗り込んでいるから錯覚しがちなのだが、どうやらレースの順位は関係がないらしい。攻撃を繰り出して、回避してどちらが先に倒れてしまうか……が勝敗を分ける。レースの順位が関係ないなら良いが、それでは圧倒的にこちらが不利であった。戦車の主の後ろを取るようにコースを走行するピット君。今は距離が然程離れていないから、互いに攻撃を喰らわせようとしている。剣で薙ぎ払う戦車の主に、彼は応じたり。回転切りしてきた所を、うまく躱して射撃を加えたりしている。ダメージを受けているかどうか、判断するのも難しい。手に汗握る戦いだ。
「我の身体もとうに滅した。魂も翳んでおる。天に誓って悔いは無いが神々とは無体な物よ。」
彼の人生はきっと壮絶だっただろう。想像するしかないが、口振りがそれ等を彷彿とさせる。数多の戦場を勝利の旗で治めていた時代。輝かしく眩かったに違いない。それとは相反に犠牲も多かっただろう。相当腕が立つ人物であるとピット君との戦いぶり、太刀捌きで伝わって来る。胸の前で両手を組み、戦いの行く末を見守る私。戦車の主が繰り出した紫色の雷が彼のダメージ蓄積を狙う。しかし、そんなので簡単にダメージを喰らうピット君ではない。フラッシュに軌道を逸らしてもらい、何とかダメージを受けなくて済む。だが、決してそれだけで仕舞ではない。次から次へと連射攻撃を繰り出し、彼の動揺を誘っている。これで何周しただろうか。幾ら天使の視力が良いからと言って、彗星のごとく走り去る戦車を目で追うのは苦労する。軽く二周はしているだろうか。っとその時、ピット君が戦車の主を追い越した。レースの順位は関係がないとは聞いていたが、テンションが高まる。視界は、ピット君と戦車の主に集中。戦車の主がピット君側に寄せてきて近距離攻撃を加えている模様。ピット君もこの攻撃に応え、反撃している。連続攻防が続く中、戦車の主が猛スピードでピット君を追い抜いて行く。このまま行けば、レースも戦闘にも勝利出来たかもしれないのに……と思わずにはいられない。
「天使よ。汝は何故(なにゆえ)に戦う。」
「知れたことを。パルテナ様のためだ。そして、パルテナ様が加護するセラちゃんや人類のためだ。」
『……私も……?』
「それは動機とは言えまい。」
「理由らしい理由なんているもんか!僕は僕がしたいことをしている。それがパルテナ様に仕え、セラちゃんを守ることなんだ!」
『……ピット君。ありがとう。』
「愚かな。余りにも愚かしい。だが、単純であるが故に強い。魂が響くようだ。」
三周目、あるいは四周目に到達したかと思われた最中、戦車の主はピット君に質疑する。彼は、キッパリ答えていた。真っ直ぐ真剣な面持ちで、パルテナ様や人類のため。そして、私を守るためである。と。嘘偽りのない曇りなき答え、この実直さにどれだけ救われたか分からない。