第19章 光の戦車(後編)
セラ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
心の底がふわっと温かくなり、喜びが満ち溢れるかのよう。この思いを耳にしておいて、彼が敗北する未来を望む筈がない。
全力で勝って。そして、必ずここに戻ってきて。
『ピット君!がんばってー!!』
「容赦はせぬぞ。天の使いよ!」
「望むところだ、戦車の主!!」
「疾風迅雷!!」
「縦横無尽!!」
その言葉を機に、二人のスピードがぐーんと加速する。彼は戦車の主に追い抜かれてしまったから、またしても後ろに引っ付いて攻撃を繰り出している模様。どちらも引けを取らない。だが、若干ピット君の分が悪いとも感じ取れる。
「動きが制限されているとは言え ダッシュも回避もできるようじゃ。しかとかわし、熱いダッシュ打撃を喰らわせてやるがよかろう。戦車の主にとっては、ホンキの戦いこそ本望なのじゃろうから。」
ピット君に見兼ねたナチュレちゃんが、彼に対してアドバイスをくれる。もう少し、なのだけれど攻撃には何処か決め手にかける気がした。もしかしたら、ピット君は戦車の主を倒すのに躊躇っている……?戦っている内に、友情に近い感情が芽生えてしまった?見守っていたから伝達されたのだろうけれど、論理では解き明かせない何かを二人が築き上げてしまっている気がするのは私だけではないみたいだ。だからこそ、ナチュレちゃんが助言してくれたのだろう。今迄、いなかったタイプだ。どうにかして、戦車の主をこの世に留めてあげられないだろうか。どことなく、気付いてしまった。戦車の主がこの戦いでこの世との繋がりを断ってしまうだろう、とは。どちらかが勝利し、どちらかが敗北してしまう。至ってシンプルなのは分かっていながら、本当にこれで良かったのか?もっと別の選択肢があったのではないか。つい、そんな風に考えてしまう私がいる。
五周目辺りに差し掛かった所だろうか。激しい攻防を繰り広げていた二人であったが、ピット君が更に強い打撃の一撃を喰らわせた。
「せいッ!」
「見事だ……!」
打撃攻撃を諸に喰らった戦車の主は攻撃に耐えきれず、そのまま戦車から転げ落ち倒れてしまった。ピット君が見事勝利を治めてくれた、のは良かったのだが戦車の主の魂が今にも消えてしまいそうに身体が薄くなるのが分かる。慌てて、戦車の主に駆け寄る天使二人。
『戦車の主!』
「大丈夫か!!」
「フフフフフ。汝の響きが伝わったぞ。汝なら光の戦車を見事乗りこなしてくれようぞ。」
息絶え絶えに戦車の主は、自身の思いを打ち明ける。ピット君に敗北して自身が消えそうになっているのに嬉しそうなのは、最後迄白熱した戦いを繰り広げられたからだろうか。きっと、それだけではないだろう。正しく真っ当に生きていた戦車の主だ。きっと、光の戦車を誰かに託せる日を心待ちにしていたのではないか。どちらもピット君が遂げてくれたからなのか、彼の表情から伝わって来る感情は“喜び”のみだったのだ。
「……名前!せめて名前を!!」
「老兵はただ去りゆくのみ。善き人生であった。フラッシュ、シルバー、そして未来を、頼んだぞ……。」
薄れゆく魂は、名前すら名乗らず静かに消え去ってしまった。正しく真っ当でそれでいて謙虚で。戦車の主が消えてしまった上空を見つめ、今日戦った一分一秒逃さず記憶として脳内に刻んでおこうと思う。きっと、戦車の主は戦友の元へいってしまったのだろう。戦友と再会出来たらいいな。きっとそこは、素晴らしき世界だろう。
「武人じゃったの。とりあえず帰還して 装備を調(ととの)えるのじゃ。」
ナチュレちゃんの声が耳に届いて、私達の身体は光に包まれ、忽ちナチュレちゃんの元へ回収されていった。光の戦車を勝ち取った私達は、エンジェランドにあるパルテナ様の神殿に突入すべく早々と準備を開始し、次の戦いに備え始める。光の戦車を勝ち取ったのはいいけれど、フラッシュ、シルバーは主なき今悲しみに暮れているのではないか?と様子を見に来てみたが思ったよりも大丈夫そうで安堵の溜息をついた。そのまま引き返すのも難だし、二頭の毛づくろいでもしようとブラシを取り出し撫でている。頭に浮かべるは、パルテナ様のことばかりだ。料理を得意としないパルテナ様、お腹を空かせていないだろうか。草花も枯れて、潤いもなかった。変わり果てたエンジェランドを思い浮かべると、心が痛む。
『!フラッシュ!シルバー!どうしたの?ふふっくすぐったいよ!』
悲愴な顔を浮かべていたからか、フラッシュとシルバーが突如顔を舐めてきたのだ。驚きの余り、二頭を見つめる。さすれば、尻尾をぶらぶらさせながらまた顔をひとなめされてしまう。これは、二頭なりの“元気を出せ”という意思表示だろうか。もしもそうであるならば、素直に嬉しい。元気づけてくれる優しさが痛く伝達され、悲しみなんて吹き飛んでしまったからだ。
『(きっと、なにもかも取り戻せるよね……?)』
フラッシュ、シルバーに身を寄せ、そんな考えに至らせていた。悩んでも、仕方がない。必ず、私達の主と住処を取り戻そう。そう、心に決めて。
「「(セラ(ちゃん)が愛しすぎる……!!)」」
まさか、物陰から不穏な視線を浴びていたなんて……これっぽっちも思わなかった。
(To be continued…...)
下書きの際、ページ数が膨大だったのもあってやっぱり、長かった。皆様、いかがだったでしょうか?書くのに、だいぶ時間がかかりました。戦車の主と、天使二人で戦わせる進行になるかと思いきや……ここは原作通りに行きましょうとあんな流れになりました。戦車の主もサシで勝負しそうですし、プライドが高そうだったので。9ページ目の中間あたりで戦車の主に人差し指をビシッと突きつけるシーンを設けましたが、あれは皆様もご存知“逆転裁判”からイメージを貰っています。ミステリー展開が好きな管理人、夢中でプレイした作品でもあるのです。爽快なんですよね、検察側へ証拠に隠された矛盾を突きつけるのが。それはともかく、異論を唱えるお転婆ヒロインでも戦うのではなくて、時に戦いの行く末を見守る側に立ってもいいのではないか?なぁんて思ったのが始まりです。(大きい声では言えませんが、MOTHER2のポーラからインスピレーションを貰ったような。)そこも含めて、楽しんで頂ければ幸いです。
ここまで読んで下さって、ありがとうございました!
by虹
全力で勝って。そして、必ずここに戻ってきて。
『ピット君!がんばってー!!』
「容赦はせぬぞ。天の使いよ!」
「望むところだ、戦車の主!!」
「疾風迅雷!!」
「縦横無尽!!」
その言葉を機に、二人のスピードがぐーんと加速する。彼は戦車の主に追い抜かれてしまったから、またしても後ろに引っ付いて攻撃を繰り出している模様。どちらも引けを取らない。だが、若干ピット君の分が悪いとも感じ取れる。
「動きが制限されているとは言え ダッシュも回避もできるようじゃ。しかとかわし、熱いダッシュ打撃を喰らわせてやるがよかろう。戦車の主にとっては、ホンキの戦いこそ本望なのじゃろうから。」
ピット君に見兼ねたナチュレちゃんが、彼に対してアドバイスをくれる。もう少し、なのだけれど攻撃には何処か決め手にかける気がした。もしかしたら、ピット君は戦車の主を倒すのに躊躇っている……?戦っている内に、友情に近い感情が芽生えてしまった?見守っていたから伝達されたのだろうけれど、論理では解き明かせない何かを二人が築き上げてしまっている気がするのは私だけではないみたいだ。だからこそ、ナチュレちゃんが助言してくれたのだろう。今迄、いなかったタイプだ。どうにかして、戦車の主をこの世に留めてあげられないだろうか。どことなく、気付いてしまった。戦車の主がこの戦いでこの世との繋がりを断ってしまうだろう、とは。どちらかが勝利し、どちらかが敗北してしまう。至ってシンプルなのは分かっていながら、本当にこれで良かったのか?もっと別の選択肢があったのではないか。つい、そんな風に考えてしまう私がいる。
五周目辺りに差し掛かった所だろうか。激しい攻防を繰り広げていた二人であったが、ピット君が更に強い打撃の一撃を喰らわせた。
「せいッ!」
「見事だ……!」
打撃攻撃を諸に喰らった戦車の主は攻撃に耐えきれず、そのまま戦車から転げ落ち倒れてしまった。ピット君が見事勝利を治めてくれた、のは良かったのだが戦車の主の魂が今にも消えてしまいそうに身体が薄くなるのが分かる。慌てて、戦車の主に駆け寄る天使二人。
『戦車の主!』
「大丈夫か!!」
「フフフフフ。汝の響きが伝わったぞ。汝なら光の戦車を見事乗りこなしてくれようぞ。」
息絶え絶えに戦車の主は、自身の思いを打ち明ける。ピット君に敗北して自身が消えそうになっているのに嬉しそうなのは、最後迄白熱した戦いを繰り広げられたからだろうか。きっと、それだけではないだろう。正しく真っ当に生きていた戦車の主だ。きっと、光の戦車を誰かに託せる日を心待ちにしていたのではないか。どちらもピット君が遂げてくれたからなのか、彼の表情から伝わって来る感情は“喜び”のみだったのだ。
「……名前!せめて名前を!!」
「老兵はただ去りゆくのみ。善き人生であった。フラッシュ、シルバー、そして未来を、頼んだぞ……。」
薄れゆく魂は、名前すら名乗らず静かに消え去ってしまった。正しく真っ当でそれでいて謙虚で。戦車の主が消えてしまった上空を見つめ、今日戦った一分一秒逃さず記憶として脳内に刻んでおこうと思う。きっと、戦車の主は戦友の元へいってしまったのだろう。戦友と再会出来たらいいな。きっとそこは、素晴らしき世界だろう。
「武人じゃったの。とりあえず帰還して 装備を調(ととの)えるのじゃ。」
ナチュレちゃんの声が耳に届いて、私達の身体は光に包まれ、忽ちナチュレちゃんの元へ回収されていった。光の戦車を勝ち取った私達は、エンジェランドにあるパルテナ様の神殿に突入すべく早々と準備を開始し、次の戦いに備え始める。光の戦車を勝ち取ったのはいいけれど、フラッシュ、シルバーは主なき今悲しみに暮れているのではないか?と様子を見に来てみたが思ったよりも大丈夫そうで安堵の溜息をついた。そのまま引き返すのも難だし、二頭の毛づくろいでもしようとブラシを取り出し撫でている。頭に浮かべるは、パルテナ様のことばかりだ。料理を得意としないパルテナ様、お腹を空かせていないだろうか。草花も枯れて、潤いもなかった。変わり果てたエンジェランドを思い浮かべると、心が痛む。
『!フラッシュ!シルバー!どうしたの?ふふっくすぐったいよ!』
悲愴な顔を浮かべていたからか、フラッシュとシルバーが突如顔を舐めてきたのだ。驚きの余り、二頭を見つめる。さすれば、尻尾をぶらぶらさせながらまた顔をひとなめされてしまう。これは、二頭なりの“元気を出せ”という意思表示だろうか。もしもそうであるならば、素直に嬉しい。元気づけてくれる優しさが痛く伝達され、悲しみなんて吹き飛んでしまったからだ。
『(きっと、なにもかも取り戻せるよね……?)』
フラッシュ、シルバーに身を寄せ、そんな考えに至らせていた。悩んでも、仕方がない。必ず、私達の主と住処を取り戻そう。そう、心に決めて。
「「(セラ(ちゃん)が愛しすぎる……!!)」」
まさか、物陰から不穏な視線を浴びていたなんて……これっぽっちも思わなかった。
(To be continued…...)
下書きの際、ページ数が膨大だったのもあってやっぱり、長かった。皆様、いかがだったでしょうか?書くのに、だいぶ時間がかかりました。戦車の主と、天使二人で戦わせる進行になるかと思いきや……ここは原作通りに行きましょうとあんな流れになりました。戦車の主もサシで勝負しそうですし、プライドが高そうだったので。9ページ目の中間あたりで戦車の主に人差し指をビシッと突きつけるシーンを設けましたが、あれは皆様もご存知“逆転裁判”からイメージを貰っています。ミステリー展開が好きな管理人、夢中でプレイした作品でもあるのです。爽快なんですよね、検察側へ証拠に隠された矛盾を突きつけるのが。それはともかく、異論を唱えるお転婆ヒロインでも戦うのではなくて、時に戦いの行く末を見守る側に立ってもいいのではないか?なぁんて思ったのが始まりです。(大きい声では言えませんが、MOTHER2のポーラからインスピレーションを貰ったような。)そこも含めて、楽しんで頂ければ幸いです。
ここまで読んで下さって、ありがとうございました!
by虹
10/10ページ