第18章 三年の歳月(前編)
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これまた豪快に室内へ入り込んで来た男の子。察するに、女の子の兄らしい。男の子は、豪快に室内に入ったかと思えば目にも止まらぬ速さで私の元へ駆け寄り、手を取った。聞くからに気障な言葉の羅列に、苦笑いを浮かべるしかない。そんな私を見兼ねたのか、女の子の母が男の子の耳を指で摘み自分へ引き寄せていた。さすがお母さん、強し。どういう反応を示せば良いのか分からずに、親子二人のやり取りを眺めている。女の子も含め目の前で楽しそうに談笑している親子を見つめ、自分がいた境遇を思い浮かべていた。大切でかけがえのない存在。
『そろそろ、帰らなくちゃ。』
「おねえちゃん、いっちゃうの?」
『うん。おねえちゃんにも帰る場所があるんだ。キミみたいにおにいちゃんがいて、おかあさんがいる温かい場所、みたいにね。』
「眠り姫!いますぐとは言わず、このままぼくのそばにいてください。」
『その“眠り姫”ってやめない?私にだって名前があるんだから!私の名前は……』
ー名乗ってはいけない。そこからなにも告げずに立ち去るのだ。
温かい家族を前にしたら、自分が帰るべき場所に帰りたくなってしまった。何故私が行き倒れていたのだとか、ずっと眠り続けていた挙げ句眠り姫なんてあだ名がついてしまった事情も詳しく知らずのままであったが大して気にも留めておらず、帰り支度を始める。女の子と男の子が名残惜しそうにこちらを見つめているが、困った顔でごまかす。そもそも私にだってちゃんとした名前があるんだからと口を開きかけた……迄は良いものの、脳内に直接警告を知らせる声が。こちらを執拗に呼ぶ声と同じであったから恐らくは同一人物。なのは分かったが、“名乗ってはダメ”って一体。訳も分からず、首を傾げる。見た所、声が聞こえているのは私だけ。同室にいる他三人は、私が何故名乗るのをやめたのか訝し気な表情を浮かべている。明らかにその人物は知っている、私の身の上も。こちらに引き起こった何かを。
こうしてはいられない。私はその人物に、色々聞かなかければならない任務が自然に課せられた。それ等を遂行しなければならないらしい。その前に温かく接してくれた目の前の家族に対して、最大の嘘をつかなければならないみたいだ。
『私の名前は……オリーブ。こう見えても、結構強いんだから!』
「……おねえちゃん、すてき……。」
「かわいい顔して……。見かけに寄らないねぇ。」
「ますます、虜になりました。」
『は、はは……。じゃあ、私行くね!いろいろありがとうございました!』
「あっ!おねえちゃん、待って!」
『……?』
信用するに値しないが、警告を無視するのも違う気がして脳内にふっと浮かんだ適当な名前を名乗る。これで、良かったのだろうか。初対面であり、人畜無害の人達がこちらに手を出すとも思えないが、言われた通りに実行する。親子三人は、私の偽名にさして怪しんだ様子もなく簡単に信じてくれた。ほっと安堵の溜息。私を助けてくれ、親切に接してくれた礼を再度述べると女の子は何かを思い出したらしく、早々と退室する。どうやら、私に渡したい物があるらしいのだ。女の子の母も兄も、こちらが視線を移せば理解している様子。思わずきょとん顔。
「あった!おねえちゃんのだいじなもの!」
『!これは……神器……。』
「おねえちゃんがたおれていたそばで見つけたの!ぜったいにだいじなものだって、きれいにしまってたんだよ!」
『……ありがとう。(これで、なにかあったときにすぐ戦える。)』
女の子が大急ぎで戻って来た。彼女が抱えていたのは、私達天使が戦闘する際に用いる愛用武器……神器。女の子が大事なものであると一瞬で理解し、綺麗に保管していたらしいのだ。有り難いことこの上ない。見ず知らずの天使に、そこ迄してくれる人間達も珍しいしとても貴重だ。こういう人々を助ける為に私は戦ってたんだなぁなんて思う。微笑みを纏い、親子三人に別れの挨拶をし建造物を後にした。眠っていたからまるで分からなかったが、親子三人が身を寄せていたのは決して自分達の家宅ではなく、教会であったのだと知ったのは建造物を後にした直後だった。知らなかったのだ、あの三人が家宅を離れ避難した先が教会であったとは微塵も。その教会が街のはずれにあり、避難場所にうってつけであったなんて。
『そろそろ、帰らなくちゃ。』
「おねえちゃん、いっちゃうの?」
『うん。おねえちゃんにも帰る場所があるんだ。キミみたいにおにいちゃんがいて、おかあさんがいる温かい場所、みたいにね。』
「眠り姫!いますぐとは言わず、このままぼくのそばにいてください。」
『その“眠り姫”ってやめない?私にだって名前があるんだから!私の名前は……』
ー名乗ってはいけない。そこからなにも告げずに立ち去るのだ。
温かい家族を前にしたら、自分が帰るべき場所に帰りたくなってしまった。何故私が行き倒れていたのだとか、ずっと眠り続けていた挙げ句眠り姫なんてあだ名がついてしまった事情も詳しく知らずのままであったが大して気にも留めておらず、帰り支度を始める。女の子と男の子が名残惜しそうにこちらを見つめているが、困った顔でごまかす。そもそも私にだってちゃんとした名前があるんだからと口を開きかけた……迄は良いものの、脳内に直接警告を知らせる声が。こちらを執拗に呼ぶ声と同じであったから恐らくは同一人物。なのは分かったが、“名乗ってはダメ”って一体。訳も分からず、首を傾げる。見た所、声が聞こえているのは私だけ。同室にいる他三人は、私が何故名乗るのをやめたのか訝し気な表情を浮かべている。明らかにその人物は知っている、私の身の上も。こちらに引き起こった何かを。
こうしてはいられない。私はその人物に、色々聞かなかければならない任務が自然に課せられた。それ等を遂行しなければならないらしい。その前に温かく接してくれた目の前の家族に対して、最大の嘘をつかなければならないみたいだ。
『私の名前は……オリーブ。こう見えても、結構強いんだから!』
「……おねえちゃん、すてき……。」
「かわいい顔して……。見かけに寄らないねぇ。」
「ますます、虜になりました。」
『は、はは……。じゃあ、私行くね!いろいろありがとうございました!』
「あっ!おねえちゃん、待って!」
『……?』
信用するに値しないが、警告を無視するのも違う気がして脳内にふっと浮かんだ適当な名前を名乗る。これで、良かったのだろうか。初対面であり、人畜無害の人達がこちらに手を出すとも思えないが、言われた通りに実行する。親子三人は、私の偽名にさして怪しんだ様子もなく簡単に信じてくれた。ほっと安堵の溜息。私を助けてくれ、親切に接してくれた礼を再度述べると女の子は何かを思い出したらしく、早々と退室する。どうやら、私に渡したい物があるらしいのだ。女の子の母も兄も、こちらが視線を移せば理解している様子。思わずきょとん顔。
「あった!おねえちゃんのだいじなもの!」
『!これは……神器……。』
「おねえちゃんがたおれていたそばで見つけたの!ぜったいにだいじなものだって、きれいにしまってたんだよ!」
『……ありがとう。(これで、なにかあったときにすぐ戦える。)』
女の子が大急ぎで戻って来た。彼女が抱えていたのは、私達天使が戦闘する際に用いる愛用武器……神器。女の子が大事なものであると一瞬で理解し、綺麗に保管していたらしいのだ。有り難いことこの上ない。見ず知らずの天使に、そこ迄してくれる人間達も珍しいしとても貴重だ。こういう人々を助ける為に私は戦ってたんだなぁなんて思う。微笑みを纏い、親子三人に別れの挨拶をし建造物を後にした。眠っていたからまるで分からなかったが、親子三人が身を寄せていたのは決して自分達の家宅ではなく、教会であったのだと知ったのは建造物を後にした直後だった。知らなかったのだ、あの三人が家宅を離れ避難した先が教会であったとは微塵も。その教会が街のはずれにあり、避難場所にうってつけであったなんて。