第18章 三年の歳月(前編)
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「うぅっ。だけどやりにくいなぁ。他人の鎧を無理やり着ているみたい。」
何もしないなんて性に合わないからこれで良かったと思うが、動かしづらい。少女の身動きも何処となくぎこちないのは、気のせいではないだろう。左右両手両足が同時に前へ出る異様な動作にならずに済んだのは不幸中の幸いであったが、自分の身体ではないとこうも動きに差が出て来てしまうのか。この少女を戦いに巻き込む気は毛頭ないけれど、この姿で戦うなんてなったら敗北は確定していただろう。危ない、危ない。
「あれは?!イカロス?!」
無理に動かしているのもあってか、街迄の距離が段々狭まって来た様に思う。お陰で外側から街の上空が垣間見える。天使の視力には及ばないが、この少女も目が良いらしい。前方の上空を見つめていれば、見覚えのあるシルエットが視界に飛び込んで来た。正直、信じられない光景だ。
「ということは、街に攻撃しているのはパルテナ軍?!」
人間達、街を守ろうと必死になって戦っていた筈のパルテナ軍が人間達に牙を剥き、攻撃を加えていたのだ。冥府軍、ではなくパルテナ軍が。少女の額から、冷や汗が一滴伝う。パルテナ様が人間達に危害を加えるとは到底思えないのだが、現にそれは引き起こっている。
「パルテナ様は、どうしたんだ?!とにかく急がなきゃ!」
街からは煙が立ち籠め、それでもイカロス達は攻撃をやめる気配はない。セラちゃんがこの光景を見たら、卒倒していただろう。彼女が何処にいるのか皆目見当がつかないが、パルテナ軍が人間達を攻撃しているのを目撃しなくて良かったと心の底から思う。彼女の性質や優しさに対して、これは非常に酷だ。
それは扨置き、一刻も早く街へ向かわなければ。自然に足が速度を上げる。思う存分、身体を動かせないのがもどかしい。早く街に行きたい気持ちが先走り、駆け出そうとした刹那バランスを崩し派手に転んでしまった。
「うわッ!」
とんだ失態だ。派手に転んでしまった少女の手から指輪はするりと抜け、地面の上をコロコロ転がる。
「しまった!マズイ!」
コロコロ転がる指輪は勢いがなくなり、その場に留まる羽目になる。明らかにマズイ。指輪を装着してくれる誰かがいなければコントロール出来ないし、身動きすら出来ない。声を張り上げるのは疎か、何も出来なくなってしまう。これじゃあ、何の解決にもならない。
「い、犬?!」
万事休す。かと思われたが指輪の僕の前に姿を現したのは、食べ物を探している斑模様の犬であった。指輪の匂いを嗅いだ何処かの犬は、何の躊躇いもなく指輪を口に銜え、そのまま駆け出した。
「だけどカラダは動かせるみたいだ。助かった……。」
先程の少女同様、指輪を身に着けている事実に変わりないからか指輪を通じて斑模様の犬をコントロールする。犬の姿では感情表現が難しそうだが、今僕は安堵している。分からないと思うけれど。
「とりあえず 街へ!!」
犬の身体で向かうのは、今も尚奇襲されている街。この姿で何か出来る、そんなうまい話が転がっている筈がない。だがもう、この四本足は止まらないし、誰にも止められない。
「思わず“ワン!”とか鳴いて指輪を落とさないようにしなきゃ。」
真っ直ぐ一本の道を早々と突き進む。少女の姿だと街へ辿り着くのも時間が浪費しそうだなんて思っていたが、犬である手前その不安は見事解消されそうだ。ぐんぐん風を切って、駆けて行くピット犬。徐々に、街への距離を狭めて行く。
「ううっ。クチを開いて呼吸出来ないと苦しいなぁ。犬って、ハッハッって呼吸することで体熱を逃がすんだっけ?」
口に指輪を銜えてだと、なかなかうまく呼吸が出来ない。豆知識を働かせながら、犬の特性を活かす。ボールを銜えて、飼い主に駆け寄る犬ってこんな感じなのかな。順調に街へ接近している宛ら、そんな思いが何処かに過った。
何もしないなんて性に合わないからこれで良かったと思うが、動かしづらい。少女の身動きも何処となくぎこちないのは、気のせいではないだろう。左右両手両足が同時に前へ出る異様な動作にならずに済んだのは不幸中の幸いであったが、自分の身体ではないとこうも動きに差が出て来てしまうのか。この少女を戦いに巻き込む気は毛頭ないけれど、この姿で戦うなんてなったら敗北は確定していただろう。危ない、危ない。
「あれは?!イカロス?!」
無理に動かしているのもあってか、街迄の距離が段々狭まって来た様に思う。お陰で外側から街の上空が垣間見える。天使の視力には及ばないが、この少女も目が良いらしい。前方の上空を見つめていれば、見覚えのあるシルエットが視界に飛び込んで来た。正直、信じられない光景だ。
「ということは、街に攻撃しているのはパルテナ軍?!」
人間達、街を守ろうと必死になって戦っていた筈のパルテナ軍が人間達に牙を剥き、攻撃を加えていたのだ。冥府軍、ではなくパルテナ軍が。少女の額から、冷や汗が一滴伝う。パルテナ様が人間達に危害を加えるとは到底思えないのだが、現にそれは引き起こっている。
「パルテナ様は、どうしたんだ?!とにかく急がなきゃ!」
街からは煙が立ち籠め、それでもイカロス達は攻撃をやめる気配はない。セラちゃんがこの光景を見たら、卒倒していただろう。彼女が何処にいるのか皆目見当がつかないが、パルテナ軍が人間達を攻撃しているのを目撃しなくて良かったと心の底から思う。彼女の性質や優しさに対して、これは非常に酷だ。
それは扨置き、一刻も早く街へ向かわなければ。自然に足が速度を上げる。思う存分、身体を動かせないのがもどかしい。早く街に行きたい気持ちが先走り、駆け出そうとした刹那バランスを崩し派手に転んでしまった。
「うわッ!」
とんだ失態だ。派手に転んでしまった少女の手から指輪はするりと抜け、地面の上をコロコロ転がる。
「しまった!マズイ!」
コロコロ転がる指輪は勢いがなくなり、その場に留まる羽目になる。明らかにマズイ。指輪を装着してくれる誰かがいなければコントロール出来ないし、身動きすら出来ない。声を張り上げるのは疎か、何も出来なくなってしまう。これじゃあ、何の解決にもならない。
「い、犬?!」
万事休す。かと思われたが指輪の僕の前に姿を現したのは、食べ物を探している斑模様の犬であった。指輪の匂いを嗅いだ何処かの犬は、何の躊躇いもなく指輪を口に銜え、そのまま駆け出した。
「だけどカラダは動かせるみたいだ。助かった……。」
先程の少女同様、指輪を身に着けている事実に変わりないからか指輪を通じて斑模様の犬をコントロールする。犬の姿では感情表現が難しそうだが、今僕は安堵している。分からないと思うけれど。
「とりあえず 街へ!!」
犬の身体で向かうのは、今も尚奇襲されている街。この姿で何か出来る、そんなうまい話が転がっている筈がない。だがもう、この四本足は止まらないし、誰にも止められない。
「思わず“ワン!”とか鳴いて指輪を落とさないようにしなきゃ。」
真っ直ぐ一本の道を早々と突き進む。少女の姿だと街へ辿り着くのも時間が浪費しそうだなんて思っていたが、犬である手前その不安は見事解消されそうだ。ぐんぐん風を切って、駆けて行くピット犬。徐々に、街への距離を狭めて行く。
「ううっ。クチを開いて呼吸出来ないと苦しいなぁ。犬って、ハッハッって呼吸することで体熱を逃がすんだっけ?」
口に指輪を銜えてだと、なかなかうまく呼吸が出来ない。豆知識を働かせながら、犬の特性を活かす。ボールを銜えて、飼い主に駆け寄る犬ってこんな感じなのかな。順調に街へ接近している宛ら、そんな思いが何処かに過った。