第16章 オーラムの脅威(後編)
セラ
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「この先の床が、ちょっともろいようです。駆け抜けていきましょう。」
敵軍の魔物をコピーしてしまう能力もそうだが、適応力がある。侵入者を翻弄するのがトラップの醍醐味なのは充分分かっているが、ここ迄トラップだらけだと歓迎されていない……招かれざる客だと苦笑いを浮かべてしまう。真実であるが。紫色のタイルを飛び越えたと思えば次は、一歩でも踏んでしまえば抜けてしまうであろう床。脆い床が私達の目の前に立ちはだかり、歩行してしまえば最後急降下してしまう。パルテナ様の助言に従い、脆い床をバテない程度に駆け抜けて行く。お約束の展開、駆け抜けた瞬間崩れ落ちる道程。巻き込まれたくはないから、走行速度を上昇させていたのだがあと数センチで辿り着きそうだと言う所で走行スピードが間に合わず片足を踏み外してしまう。
『きゃッ!!』
「!セラちゃん!!」
私の異変に逸早く気が付いたピット君は、片足を踏み外しぼろぼろと崩れ落ちる道と共に地の底へと落下してしまいそうな状況であったが、間一髪彼が自身の左手を掴んで引き寄せてくれたお陰で九死に一生を得る。自力で飛行出来る為何とでも復帰出来るのだが、彼は無我夢中で助けてくれたみたいだ。たった今この瞬間互いに跪き、小さく身を寄せて抱きしめ合っている状態なのだがピット君の身体が微かに震えているのだ。彼が相当心配してくれたのだとこの身を以て知る。
『ピット君、助けてくれてありがとう。もう、だいじょうぶ。』
「……。」
彼は先程から一言も言葉を発さない。沈黙が周辺の音さえも、掻き消してしまう。ずっと抱きしめ合っている状態でいられないから、感謝の意を込めて礼を述べるが彼は一向に離してくれる様子もない。一刻も早く先に進まなければならないのに、この場でピット君の気持ちを踏み躙る行為も勿論出来る筈がなかった。離れようと試みてみるものの、抱きしめる力が更に強まったのが分かる。戸惑いの表情から切ない表情へと一変させたのは、私だ。
『ピット君……。』
「……今回は仕方ないけれど、セラちゃんが危険な目にあうとムネが潰されそうになるんだ。キミを失ってしまうんじゃないかって怖くてしょうがない。」
『そんなふうに考えてくれてたんだね。』
不謹慎だと認識していながら、喜びに浸かるのは間違っているだろうか。決死の思いで救出してくれたピット君の本音を聞き、胸の中が自然に温かくなる。抱きしめ合っているせいか、彼の表情は窺えないが本音そのまま表情に纏っているだろう。嘘をつけないタイプなのは、周知の事実だからだ。彼の心が悲しみに暮れない様、言葉を紡ごうと口を開く。今、私が出来るのは彼の不安を取り除く手伝いだ。どういう反応を示してくれるかは、分からないが。
『ピット君、あのね……?私は、』
「ピット、いつまでセラと抱き合っているつもりですか?」
「『!』」
「ピットよ。セラとの幸福な時間を独占するでない!」
その言葉の先を告げて、彼は一体どんな反応をするだろう。果てしなく興味が湧いて口を開きかけたが、その言葉は誰の耳にも届かなかった。勿論張本人の耳にも。抱きしめ合っている状況下、突然何かの力が働いて強制的に引き剥がされてしまったのだ。引き剥がしたのは言わずもがな、パルテナ様。ベリッと言う効果音と共に、私達の間には距離が生まれてしまった。困った顔を浮かべ後頭部を掻き、再度歩き始めるピット君。取り残された私は、くすくす笑いながらピット君にいずれ伝えられると良いなぁと願望を抱くのだった。
“キミのそばでキミが守る未来を見てみたいんだ。この先どうなるかパルテナ様もわからないけど、できるなら一緒に過ごしたいな。”
「ム。強そうな敵!」
「オーラム名では“ビオタ”と言うようです。発射する弾は打撃で打ち返せそうですよ。」
とある思いを抱きつつ、先に進めば如何にも強そうな敵が天使二人を待ち構えていた。名はビオタ。周囲に浮かんでいる弾を飛ばし、ダメージを与える攻撃方法らしい。以前にもこういう敵が居たなぁと頭の片隅で考えては、接近して来た弾を引き付けて打撃で打ち返してみる。さすが、パルテナ様だ。一瞬にして敵の浄化方法を見抜き、手助けしてくれる周到さ。攻撃方法が分かれば、あとは時間の問題。ピット君が飛ばした弾を打ち返して、敵のビオタは見事倒された。それでなのか次なる扉が開き、私達に道を指し示してくれる。
「これはトラップ……?」
「レーザー扇風機のようじゃな。」
「侵入者避けなのかな?」
『そう考えれば納得だけど。(まさか暑さをしのぐ目的なぁんてないよね?)』
「まぁ、涼むためのものではなさそうですね。」
『(やっぱし?)』
歩けば歩く程、機械じかけの道が続く。前方には何やら扇風機の羽根部分がぐるぐるぐる回転していた。小さい侵入者ならば回転している羽根の隙間から通過も可能だけれど、巨体であったならきっと二進も三進もいかなかっただろう。非常に不本意であるが、小柄な体型に感謝してタイミングを見計らい隙間を縫って歩いて行く。少しばかり涙が出そうになった。この先にもこういう仕掛けが施されてると考えれば、警戒心を持って先に進まなければならない。常にそうしなければならないけれど、張り詰めていると疲れてしまうのだ。
「なにやら巨大なものが動いているようですけど……。」
「列車?でしょうか。しかも短い環状線ですね。」
『積み荷でも積んで運んでいるのかな。』
「轢かれても保険は下りないじゃろうなぁ。」
「横道でかわしながら先に進むとしましょう。」
敵軍の魔物をコピーしてしまう能力もそうだが、適応力がある。侵入者を翻弄するのがトラップの醍醐味なのは充分分かっているが、ここ迄トラップだらけだと歓迎されていない……招かれざる客だと苦笑いを浮かべてしまう。真実であるが。紫色のタイルを飛び越えたと思えば次は、一歩でも踏んでしまえば抜けてしまうであろう床。脆い床が私達の目の前に立ちはだかり、歩行してしまえば最後急降下してしまう。パルテナ様の助言に従い、脆い床をバテない程度に駆け抜けて行く。お約束の展開、駆け抜けた瞬間崩れ落ちる道程。巻き込まれたくはないから、走行速度を上昇させていたのだがあと数センチで辿り着きそうだと言う所で走行スピードが間に合わず片足を踏み外してしまう。
『きゃッ!!』
「!セラちゃん!!」
私の異変に逸早く気が付いたピット君は、片足を踏み外しぼろぼろと崩れ落ちる道と共に地の底へと落下してしまいそうな状況であったが、間一髪彼が自身の左手を掴んで引き寄せてくれたお陰で九死に一生を得る。自力で飛行出来る為何とでも復帰出来るのだが、彼は無我夢中で助けてくれたみたいだ。たった今この瞬間互いに跪き、小さく身を寄せて抱きしめ合っている状態なのだがピット君の身体が微かに震えているのだ。彼が相当心配してくれたのだとこの身を以て知る。
『ピット君、助けてくれてありがとう。もう、だいじょうぶ。』
「……。」
彼は先程から一言も言葉を発さない。沈黙が周辺の音さえも、掻き消してしまう。ずっと抱きしめ合っている状態でいられないから、感謝の意を込めて礼を述べるが彼は一向に離してくれる様子もない。一刻も早く先に進まなければならないのに、この場でピット君の気持ちを踏み躙る行為も勿論出来る筈がなかった。離れようと試みてみるものの、抱きしめる力が更に強まったのが分かる。戸惑いの表情から切ない表情へと一変させたのは、私だ。
『ピット君……。』
「……今回は仕方ないけれど、セラちゃんが危険な目にあうとムネが潰されそうになるんだ。キミを失ってしまうんじゃないかって怖くてしょうがない。」
『そんなふうに考えてくれてたんだね。』
不謹慎だと認識していながら、喜びに浸かるのは間違っているだろうか。決死の思いで救出してくれたピット君の本音を聞き、胸の中が自然に温かくなる。抱きしめ合っているせいか、彼の表情は窺えないが本音そのまま表情に纏っているだろう。嘘をつけないタイプなのは、周知の事実だからだ。彼の心が悲しみに暮れない様、言葉を紡ごうと口を開く。今、私が出来るのは彼の不安を取り除く手伝いだ。どういう反応を示してくれるかは、分からないが。
『ピット君、あのね……?私は、』
「ピット、いつまでセラと抱き合っているつもりですか?」
「『!』」
「ピットよ。セラとの幸福な時間を独占するでない!」
その言葉の先を告げて、彼は一体どんな反応をするだろう。果てしなく興味が湧いて口を開きかけたが、その言葉は誰の耳にも届かなかった。勿論張本人の耳にも。抱きしめ合っている状況下、突然何かの力が働いて強制的に引き剥がされてしまったのだ。引き剥がしたのは言わずもがな、パルテナ様。ベリッと言う効果音と共に、私達の間には距離が生まれてしまった。困った顔を浮かべ後頭部を掻き、再度歩き始めるピット君。取り残された私は、くすくす笑いながらピット君にいずれ伝えられると良いなぁと願望を抱くのだった。
“キミのそばでキミが守る未来を見てみたいんだ。この先どうなるかパルテナ様もわからないけど、できるなら一緒に過ごしたいな。”
「ム。強そうな敵!」
「オーラム名では“ビオタ”と言うようです。発射する弾は打撃で打ち返せそうですよ。」
とある思いを抱きつつ、先に進めば如何にも強そうな敵が天使二人を待ち構えていた。名はビオタ。周囲に浮かんでいる弾を飛ばし、ダメージを与える攻撃方法らしい。以前にもこういう敵が居たなぁと頭の片隅で考えては、接近して来た弾を引き付けて打撃で打ち返してみる。さすが、パルテナ様だ。一瞬にして敵の浄化方法を見抜き、手助けしてくれる周到さ。攻撃方法が分かれば、あとは時間の問題。ピット君が飛ばした弾を打ち返して、敵のビオタは見事倒された。それでなのか次なる扉が開き、私達に道を指し示してくれる。
「これはトラップ……?」
「レーザー扇風機のようじゃな。」
「侵入者避けなのかな?」
『そう考えれば納得だけど。(まさか暑さをしのぐ目的なぁんてないよね?)』
「まぁ、涼むためのものではなさそうですね。」
『(やっぱし?)』
歩けば歩く程、機械じかけの道が続く。前方には何やら扇風機の羽根部分がぐるぐるぐる回転していた。小さい侵入者ならば回転している羽根の隙間から通過も可能だけれど、巨体であったならきっと二進も三進もいかなかっただろう。非常に不本意であるが、小柄な体型に感謝してタイミングを見計らい隙間を縫って歩いて行く。少しばかり涙が出そうになった。この先にもこういう仕掛けが施されてると考えれば、警戒心を持って先に進まなければならない。常にそうしなければならないけれど、張り詰めていると疲れてしまうのだ。
「なにやら巨大なものが動いているようですけど……。」
「列車?でしょうか。しかも短い環状線ですね。」
『積み荷でも積んで運んでいるのかな。』
「轢かれても保険は下りないじゃろうなぁ。」
「横道でかわしながら先に進むとしましょう。」