気を失っているセラちゃんを、両腕で抱き抱えブラピは僕の目の前から飛び立った。彼女を守る…約束しておきながら、僕は彼女を守り切れずブラピに連れ去られるのを許してしまった。下唇を噛み締める。約束を交わしたあの時の彼女の表情が脳裏に浮かんでは消えている…あの時、浮かべていた彼女の微笑みが。


「どうやら最初の噴水広場に向かった様です。追い掛けましょう」

「（セラちゃん！絶対に君を助けるから！！）」




……一体私は、どうしてしまったんだろう？記憶が曖昧ではっきりしない。私は一体、どうしていたのだろう？神器を持って、パルテナ様の命でピット君と共にブラピ君を追い掛けて……。神殿の廃墟で彼とぶつかり合って……その後は？ピット君とパルテナ様は？二人はどうなってしまったの？

「セラちゃ…！！セラちゃん！！！！」

「セラ！！セラ！！！」


『！！……ピット君…！！パルテナ様！！』

「気が付いたみたいだな」

『！！ブラピ君…』


そうだ…私は、ピット君を援護しようとして…でもブラピ君にそれを遮られて……自分の中に根付いた疑問を明らかにする為問い掛けた直後、私は意識を手放した。未だに私が納得出来る答えは聞いていない。思い切り睨みつけて、警戒心を剥き出しに神器を構えようとするが自分の手に神器を所持していない事に気付く。


『神器がない…』

「お前が持ってた神器は、此処にはない。何処かに落としたらしいな」

『……私を連れ去ってどうするつもりなの？ピット君の動揺を誘おうって魂胆なのかしら？』

「ふっそんなまどろっこしい真似なんてしなくても、俺はあいつに勝てる。必要ない」

『じゃあ…どうして…』


次の瞬間、ブラピ君は私との距離を詰めて来た。突然の出来事に驚愕する、後退しようとするものの身体は言う事を聞いてはくれず、彼との距離は僅か５センチにも満たない所迄縮まる。彼の手が私の顎に触れ、強制的にブラピ君を見つめる姿勢になってしまう。


「セラ、俺と行動を共にしないか？」

『えっ…？』

「俺だったら、セラを危険な目に遭わせたりしない。絶対にセラを守り抜き…誰にも渡したりしない。冥府軍にもな」

『ブラピ君……。気持ちは嬉しいけど、私はパルテナ軍親衛副隊長だから…貴方と一緒には居られないわ。自分が選んだ運命から目を逸らしたくないの』

「そうか…なら仕方ない。セラ、お前を倒す…この手でな」

『（また…悲しそうな顔…）』


自分の思い通りにならない返答を私から貰った彼は、神器を振りかざし私を真っ直ぐと見据える。私を倒そうとしているのに彼は悲しそうで…今にも泣いてしまいそうな…そんな表情を浮かべていた。

“どうして私よりも辛そうな顔をしているの…？”

いつの間にか私は声を出していた、自分が感じた疑問を。両眼を見開き、驚愕しているブラピ君。彼の悲痛な叫びが私の耳に轟く。


「どんなに願ったって、お前は俺を一番に選んではくれない！！」

『ブラピ君…（彼が悲しそうなのはそれが理由なの？）』

「俺はいつもお前を想っているのに！！」


振りかざした神器が、私目掛けて下りて来る。私が所持していた神器は、此処にはない。反撃する事も適わない…私を倒そうとしている彼の表情は、辛そうな苦しそうなもの。言葉を失う…


『………』

「…セラちゃん！！！！」

「セラ！！！」

「？！！」

『ピット君！！パルテナ様！！』


静寂が包まれる中で、聞き慣れた声が私の耳に届く。聞き慣れた声がする方向を見遣れば、ピット君が私達に向かって駆けて来るのが見える。次の瞬間、ピット君が私の元へ駆け寄りブラピ君の手に寄って倒されそうになっている私を全力で救出してくれた。彼のお陰で私は、絶体絶命のピンチを回避した。

「セラちゃん！大丈夫？！何処も怪我してない？！！」

『うん！大丈夫！ピット君が助けてくれたもの！！』

「……セラちゃん…ごめん。セラちゃんから離れないって約束しておきながら、危険な目に遭わせちゃったね…」

『でも…助けに来てくれたじゃない。私は信じてたよ？ピット君が助けに来てくれるって！』

「セラちゃん…」

「…ちっ…」


私を救出した直後、ピット君は申し訳なさそうに私に謝って来た。心から心配したと言わんばかりの悲しそうな表情のピット君、先程悲しそうな表情を浮かべていたブラピ君の姿と重なって見えた。私も自然に愁いを帯びた表情へと変化してしまう。何かを決意したかの様にピット君が私から離れ、立ち尽くしているブラピ君に向かい合う。何処か怒気を含んだ真剣な表情を見せ、神器を強く握りしめて。ブラピ君も所持していた神器を構え、戦闘態勢に入った。