#31 ホラー・ナイト・ラブ
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「美織ちゃ〜ん!俺の横空いてるぜ?」
冬馬さんはドカッと座る自分の横を指で
チョイチョイと差してアピール。
「バカ!なんでわざわざ猛獣の檻に美織
ちゃんを入れなきゃなんないんだよ!」
と言われても…
空いているのは冬馬さんの隣かスタッフ
のカズヤさんや安田さんの隣。それなら
冬馬さんが一番慣れてるし、私が好きな
のは…
「俺がそっちに行くから、美織ちゃんは
こっちに座りなよ。」
「あの、冬馬さんの隣で大丈夫です…」
「へっへーん、俺の勝ち!イェッ!!」
こういう子供っぽい所が可愛いんだ。
「セクハラされたら大声で叫べよ?」
「…なんなら殴ってもいい。」
「訴えるなら力になるから。」
「そのまま闇に葬るって手もあるな。」
「どこに埋めるー?沈める方がええ?」
「存在をまぼろしにする気っスか?」
「お前ら、俺をなんだと思ってんだ!」
『クズ。』
すごい…全員がハモった。
「美織ちゃ〜ん、アイツらヒドイんだ。
俺にはもう美織ちゃんしかいねーよ…」
そう言って、泣きマネをする冬馬さん。
「ふふっ、そんな事ないですよ?」
なんてワイワイやっている間に冬馬さん
の隣へ。なんか、大きい人が横にいるの
って怖い時は安心するなぁ。
恐る恐るテレビに目を向けると、そこは
幽霊が出ると有名な海外のホテルらしく、
それを知らされていない芸人さんが宿泊
させられていた。本人が寝ている間に、
部屋では不可解な事が何度も起こる。
「冬馬、何か感じる?」
「いや〜、画面通してじゃなー。」
「え…冬馬さんって…そういうの分かる
人なんですか?」
「コイツ、割と鼻が利くんだよ。」
「俺は犬か!勘が鋭いと言え!もしくは
シックスセンスを持つ男。」
え…怖いかも…
思わず少し離れる。
「待て美織ちゃん!引くな!別に何かが
見えるとかじゃねーから!!」
「なんかね、嫌な空気とか気配を感じる
んだってー。それで宿泊先の部屋変える
時もあるし、不気味だよねー?」
「なっちゃん、キミからは俺を陥れよう
とする腹黒さを感じるぞ?」
「誰が腹黒だ!!」
「それ、霊感でも何でもねぇだろ。」
「俺、うっかり冬馬さんと部屋変わって
金縛りにあいましたしね。あれめっちゃ
怖かったっスもん。」
「…まぁ、昔からたまにライブハウスや
スタジオから不自然に早く出たがる時が
あったのは確かだな。」
うそ…テレビより怖いよ…
なんかもう気が気じゃない。
「あ…あの…ここは大丈夫なんですか?
よく怖い話をしてると寄ってくるとか
聞いた事がありますけど…」
「それならダイジョブ。美織ちゃんの
お陰でむさ苦しい空気が神聖な空気に
変わったから。しかもいい匂いがする…」
スンスンと鼻を鳴らす冬馬さん。
「はいアウト。1セクハラ。」
「うっせーな!!美織ちゃんがセクハラ
と思わねー限りセクハラにはなんねーん
だよ!」
この際、そんな事はどうでもよくて。
「…ホントに?ホントに大丈夫ですか?
私、怖いの大の苦手で…」
「大丈夫だって〜。もし何かあったら、
コイツら盾にしてでも美織ちゃん連れて
猛ダッシュで逃げるから。」
ニカッといつもみたいに笑ってくれる
冬馬さん。気がつけば無意識にTシャツ
を掴んでいた。
「あ、すみません…」
パッと手を離すと、冬馬さんはなぜだか
ソファに浅く座り直す。
「怖いなら冬馬サンの背中に隠れてな?」
優しく微笑む顔と、いつものふざけてる
時とは違う声のトーンにドキッとした。
「…ありがとうございます。」
お言葉に甘えて、その背中に半身を隠す
ようにしてテレビを見る。でも私の意識
はテレビよりも冬馬さんの背中に移って
いて…
大きくて広い背中。
いつもガバッとハグされてしまうから、
背中を見る事なんてなかったな。
両手でそっとその背中に触れてみた。
嫌がる訳でもなく、冬馬さんは何も言わ
ずにそのままにさせてくれる。
エアコンが効いて肌寒いくらいの室内に
冬馬さんの背中の温かさが心地いい。
そして怖さから守ってくれる安心感。
あぁ、なんか眠くなってきちゃった…
今日は朝早かったもんな…
そう思ったのを最後に、
私の意識はユラユラと揺れ始めた。
「……〜ん、美織ちゃ〜ん。」
誰かに呼ばれてる気がしてハッとした。
「美織ちゃん、そろそろ起きようか。」
え……??あれ?え?なに!?
ガバッと顔をあげた。
「よく寝てたね。」
「冬馬の背中を枕にして寝るとは美織
ちゃんも大物だな。」
あっ!私ってば、もしかして冬馬さんの
背中に寄りかかったまま…
「イテテテテ…」
冬馬さんは自分で腰をトントン叩く。
「ごめんなさい!!大丈夫ですか!?」
「いや〜、美織ちゃん。幸せな時間を
ありがとう。カワイイ女の子がずっと
寄り添ってくれるなんて、お兄さんは
天にも昇る心地だったよ。」
「そのまま天に召されちまえ。」
「…美織、疲れていたとは言え、無防備
にもほどがあるぞ。」
「そうだよ。俺たちもいたからいいけど、
冬馬と2人だったら襲われてもおかしく
ない状況だよ?」
「すみません…」
「って、襲うワケねーだろっ!!ってか
俺、便所!!漏れる!!」
冬馬さんはバッと立ち上がると、トイレ
に一目散。
起こそうと思えばいつでも起こせたのに、
あの体勢のままジッと動かずに我慢して
くれてたの…?
そんな冬馬さんの優しさにジワッと胸が
温かくなった。
と、しばらくしてトイレから出て来た
冬馬さんが真顔でキョロキョロと辺り
を見回す。
「ヤバイ…」
「なんや?間に合わんと漏らしたか?」
「違うわ!……多分なんかいる…」
『え…』
その言葉に全員が固まった。
「美織ちゃんカバン持て!逃げるぞ!」
突然の事にオロオロしている間に、冬馬
さんに腕を掴まれた。
「早く!!」
なに〜!?怖いっ!!
バッグに手を伸ばしたのとほぼ同時に
冬馬さんが走り出す。
「ちょっ!冬馬!!」
「お前ー!言い逃げすんなや!!」
冬馬さんは階段の前まで来ると、くるり
と皆さんの方を振り返った。
「うっそ〜!美織ちゃんはもらった!!」
「はぁ〜〜っ!?」
「コラーッ!!」
そのまま2人で階段を駆け降りる。
「あの、冬馬さん!」
「ん〜?」
「あんな嘘…」
「いーのいーの。ってかよー、アイツら
言いたい放題言ってくれっけど、色んな
意味で、美織ちゃんは俺といるのが一番
安全なんだよ。な?」
ニカッと笑うその屈託のない笑顔に…
あぁ、やっぱり
私がついて行きたいのは
この人なんだ
そう思ったーー。
fin.
2021.9.3
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