#31 ホラー・ナイト・ラブ
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秋羅さんの隣、空いてる…
勇気を振り絞って行ってみた。
何気なく腰を下ろすと、ジーッと私を
見てくる秋羅さん。
…なんか、挙動不審だった?
「…あの、何か…」
「いや?別に。」
フッと笑ってから、その視線はテレビへ
戻る。
はぁ…あの何でも見透かしているような
目が怖いんだよなぁ。私の気持ちなんて
バレバレだって言われてるみたいで。
だけど、いくら神堂さんと同じバンドの
メンバーとは言え会えるのは稀。
ましてやこうして一緒の時間を過ごせる
なんて夢みたい…
なんて思えたのも初めだけだった。
テレビに映るのは怪奇現象の数々。
誰もいない部屋で動くボール、浮遊する
謎の発光体、乱れる画像に変な音…
怖くて両手で顔を覆いながら、指の隙間
からチラリと覗いては目を閉じてを繰り
返す私。
わぁ〜、ダメだ。
今日は電気を点けたまま寝なきゃ…
と、不意に何かが肩に触れて思いっ切り
ビクッと身体が跳ねた。
なに!?
左肩に乗っていたのは大きな手。
思わず隣にいた秋羅さんを見上げると、
その顔は笑いを堪えていて…
「ビビリ過ぎ。」
小さな声で耳元に囁かれた。
「だっ…」
反論しようとすると、肩にあった手が
今度は優しくポンポンと頭を撫でる。
そして何事もなかったようにその手は肩
に戻り、秋羅さんの視線はテレビへ。
秋羅さん…
もしかして、私が怖がってるから?
…どうしよう。
途端に顔が熱くなって、秋羅さんに伝わ
ってしまいそうなほど心臓がドキドキと
音を立てる。
嬉しいような、恥ずかしいような。
お陰で気が削がれて怖さもマシになった
気がした。
それから30分ほどして番組が終わり、
ようやく照明が点く。
「あああぁぁーっ!!」
途端に冬馬さんが大声で叫び、私たちの
方を指差した。
全員の視線が一気に集まる。
「うわっ、ヤラシ!!」
「出た!ホスト!!」
「何を堂々と肩組んでるんだよ!」
「そこはカップルシートか?」
「美織ちゃん早く離れろ!妊娠する!」
「………。」
「バカか。肩組んで妊娠する訳ねぇだろ。
あまりにもビビッてたから、安心させて
やってただけだ。」
秋羅さんはそう言ってスッと立ち上がる
と、ソファを離れた。
私を守ってくれるように、ずっと抱いて
くれていた肩がまだ熱い…
「お前、無断で美織ちゃんに触ったから
罰金な?」
「いつそんなルールができた。」
「たった今。」
「知るか。」
うわぁ…返ってご迷惑かけちゃった…
私も慌てて立ち上がり、ブラインドの
隙間から外を覗いた。
「あの、もうほとんど雨上がったみたい
ですよ?私ちょっと寄る所があるので、
これで失礼させて頂きますね。皆さん、
ありがとうございました!」
頭を下げるとバッグを掴み、逃げるよう
にスタジオを出た。
雨がまだパラパラと降る中、タクシーを
捕まえようとするも空車が全然来ない。
タクシー会社に電話をしてもお話し中で
繋がらないし…
どうしよう…ちょっと遠いけど、駅まで
歩こうかな。待ってても濡れるだけだ。
そう思って駅の方向へ歩き出すと。
短くクラクションの音が鳴り、私の横で
車が止まった。スーッと静かに窓が開く。
運転席から顔を覗かせたのは、秋羅さん
だった。
「美織ちゃん、送るから乗って行け。」
「え…でも…」
「いいから。風邪引くぞ。」
有無を言わさない口調。
「すみません。」
秋羅さんはわざわざ車を降り、後続車を
確認しながら助手席のドアを開けてくれ
た。
「ありがとうございます。」
秋羅さんも車に乗り込むと、またあの目
でジッと私を見る。
「どこまで?」
「あの……」
しまった、寄る所なんてないのに。
「大方、俺に気を遣って後先も考えずに
出て来たんだろ。」
…バレちゃってる。
「悪かったな。」
その優しい微笑みに胸がギュッとなった。
「そんな…助かったのは私の方です。
怖いのは本当に苦手で…それ系のお仕事
はNGにしてもらってるほどですから。」
「そっか。なら怖い思いをさせて余計に
悪かったな。お詫びに家まで送る。」
「ありがとうございます。」
車は小雨の中を走り出した。
で、何を話せばいいんだろう?
2人きりなんて…
「あの、秋羅さんはオカルト系って平気
なんですか?」
これと言って共通の話題も見つけられず、
結局さっきのを引きずる羽目に。
「まぁ…科学万能主義者じゃねぇけど、
所謂怪奇現象なんてのは大体今の科学で
解明できてるし、怨念だの呪いだの祟り
だの、ああいうのは東洋西洋に関わらず
古来からの文化だろ?」
「文化?」
「科学も医学も発達してない昔は、病気
や飢饉、自然災害、不幸事、原因が判明
しないものはその全てが怨霊とか悪魔の
仕業になる。人々は只々怯えて祈る。
そんな古くからの因習が染みついてるん
だよ。勝手に恐怖心を植えつけられてる
って言うかな。」
「…そう言われるとそうですね。」
「かと言って、科学ではまだ解明されて
いない不思議な事もあるし、実際に説明
がつかない現象だってあるだろ?結局の
ところ、俺にとっては怖い怖くないって
言うより、面白いってとこだな。」
「ふふふっ。」
「なんだ?」
「なんか、すごく秋羅さんらしいです。
文化って考えるとちょっと怖くなくなり
ますね。」
「そうか?なら青山霊園でも通るか?」
「わー!ムリです!やめて下さい!!」
「クククッ…ま、幽霊がいるかいないか
なんて決める必要はないって事だな。」
「宇宙人とかUFOもですか?」
「いや、宇宙人はいるだろ。」
「それはいるんですね?」
ふふふっ。秋羅さんって見た目は近寄り
難いのに話すとこんなに気さくなんだ。
何気ない会話から考え方や価値観を知る
事ができるのは嬉しい。
「信じるか信じないかはあなた次第。」
「ふふっ、そうですね。でも秋羅さんと
一緒にいれば、何に遭遇しても大丈夫な
気がします。」
「それ、俺と一緒にいたいって言ってん
のか?」
「え……、もぅ!秋羅さん、いじわるな
事ばっかり言わないで下さい!!」
「クククッ、悪い悪い。」
いじわるだけど、すごく優しい人。
そんなあなたが私は…
その数年後、私たちはイギリスで
思いもよらない怖い体験をする事に
なるんだけど
それはまた、別のお話ーー。
fin.