#31 ホラー・ナイト・ラブ
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「あの、お隣いいですか?」
「うん、もちろんいいよ。どうぞ?」
あぁ…夏輝さんの笑顔、ホッとする。
テレビの画面を見ないように夏輝さんの
隣にそっと腰を下ろした。
途端に怖い場面でよく聴くストリングス
の不協和音が鳴り、身体がビクッとなる。
もぉ〜、脅かさないでよぉ…
「あっ!今あそこ動いたんちゃうん!」
「バカ、動いてねーわ。こっちの手前の
方だっての。」
皆さんは画面を指差しながらワイワイと
楽しんでいる。
と、視線を感じてふと横を見れば…
夏輝さんとバッチリ目が合った。
そして、心配そうな顔をする夏輝さんの
口元がゆっくりと動く。
『コ・ワ・イ?』
あ、ビクッとしたの見られてたかな…
思わず素直に頷いてしまった。
夏輝さんは自分の横にあるクッションを
ひとつ私にくれると、もうひとつを顔の
前で抱きかかえる。
あ、これで顔を隠したらいいって言って
くれてるのかな?
私も胸の前でクッションを抱きかかえて、
一度顔を埋めてから夏輝さんを見た。
夏輝さんはウンウンと頷き、手で good
のサインをしてくれる。
なんか、2人だけの秘密の会話みたいで
すごく嬉しいな…
それからも怖そうな場面はクッションで
顔を隠し、たまに夏輝さんの顔をコソッ
と盗み見てはなんとか残り30分程だった
番組を凌いだ。
照明が点くと、全身の力が抜ける。
はぁ、疲れた…
「なんや、全然コワないやんけ。」
「ウソつけ!お前ビビリまくってたじゃ
ねーか!」
「昭和が懐かしいな。夏って言や、お盆
になると昼間から夜中までオカルト番組
やってたもんだが。『あなたの知らない
世界』とか。」
「ヤッさん、寺でオカルト番組見てたの
かよ。笑えるな。」
「でも、それ系の番組っていつの間にか
キレイに淘汰されましたよね。」
淘汰されて何よりだよ。
そんな番組、出演を依頼されてもムリ。
「って言うかよー、暗いからってそこの
2人はコソコソいちゃつきやがってよー。
仲良くクッション抱いてなんだっての!
このムッツリ男!」
「誰がムッツリだよ!美織ちゃんが怖い
って言うからクッションを貸してあげた
だけだろ!」
「下心見え見え〜。美織ちゃん、この世
で一番怖いのはオバケじゃなくて羊の皮
をかぶった狼だって覚えとけよー?」
思わず夏輝さんの方を見ると…
「いやいや、下心なんかないし狼じゃ
ないから。」
慌てて否定する。
「ふふふっ…」
「なに?」
「羊の着ぐるみを着てる夏輝さんを想像
しちゃいました。」
似合いすぎだし、可愛すぎる。
「もはや男じゃなくてマスコットとして
見られてる哀しさな。」
「うるさい!」
「あ、ごめんなさい!そういう意味じゃ
なかったんですけど…」
「ううん、いいよ。いつもの事だし。」
仕方なさそうに笑う夏輝さん。
私にとってはマスコットなんかじゃない
んだけどなぁ。
「…雨、小降りになってきたぞ。」
ブラインドの隙間から外を見ていた神堂
さんが誰に言うでもなく呟いた。
「ヨッシャー、飲み行くか!!」
「俺も行くで〜。酒でも飲まな1人じゃ
怖くて寝られへん。」
「ああいうの見ると、しばらくは物音に
敏感になったり背後が異様に気になるん
スよね。」
「…じゃあ、見なきゃいいだろう。」
「クククッ、怖いもの見たさってやつ
だな。夏輝と春はどうする?」
「あ、俺はミィにご飯あげなきゃだから
帰るよ。今日は自動エサやり機のセット
して来なかったから。」
「俺はもう少し残る。」
「そうと決まれば、とっとと撤収〜。」
皆さんはゾロゾロと帰り支度を始める。
私もタクシー呼ばなきゃ…
そう思ってスマホを手にすると。
「美織ちゃん、よかったら送って行こう
か?タクシー捕まえるの、まだまだ時間
かかると思うし。」
夏輝さんが小さな声で話しかけて来た。
「え…でもご迷惑じゃ…」
「ううん。怖い思いさせちゃったお詫び
にさ。あ、下心はないよ?」
「それじゃ、お言葉に甘えて…」
「うん、ちょっと待っててね。」
夏輝さんは皆さんに内緒とでも言うよう
に、シッと口元に人差し指を立てた。
バレたらまだイジられちゃうもんね…
「お待たせ、乗って?」
「あ、はい!」
さすがに一緒にスタジオを出ると怪しま
れるから、先に外に出て待っていた私を
夏輝さんが拾ってくれる。
「仕事で疲れてたのに、あんな番組見せ
ちゃってゴメンね?」
「いえ、なるべく見ないようにしました
し、クッションがあって助かりました。
夏輝さんはああいうの平気なんですか?」
「作り物ならね。ホラー映画とかもあり
得ない設定なら全然怖くない。ゾンビ系
とかさ。でも日本の怪談はちょっと怖い
かな?と言いつつ見ちゃうけど。」
「…なるほど。」
「ほら、うちは猫がいるだろ?時々壁や
天井をジッと見たり威嚇したりする時が
あるんだよ。あぁ、なんかいるんだろう
なぁとは思うけど、深く考えないように
してる。悪いものを追い払ってくれてる
のかなくらいには思うけど。動物は霊が
見えるって言うし、その動物を霊は嫌う
って言うからさ。」
「えぇ〜、それ怖いです…」
「あはは、ゴメンゴメン。ただ単に耳が
いいから人が気にならない音に反応して
るってだけかも知れないけど。想像力が
豊かなのが人間だけど、それも善し悪し
だよね。」
確かに。必要以上に想像を膨らませて、
勝手に怖がってちゃ世話ないと言うか。
「あぁ…お腹減った。美織ちゃんも何も
食べてないんじゃないの?」
「そう言えば…怖さで忘れてました。」
「何か軽く食べて帰ろうか。」
「でもミィちゃんのご飯が…」
「あぁ、あれウソ。」
「え〜っ!?」
「俺が美織ちゃんともう少し一緒にいた
くてさ。ホントはちょっと下心アリ?」
それは、一体どういう…
信号が赤になり車が止まると、夏輝さん
は私の顔をジッと見つめる。
「冬馬が言ってただろ?羊の着ぐるみを
着た狼が一番怖いんだよ?」
プッ…
クククッ…
堪えきれず、2人で笑い出してしまった。
「想像させないで下さい。ホントに着せ
たくなっちゃいますから。」
「美織ちゃんには敵わないなぁ…」
そんなに可愛い狼なら、
怖くないし襲われてもいいですよ?
なんて言えたら、私の恋も
少しは進展するのかなーー。
fin.