#31 ホラー・ナイト・ラブ
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それは、8月の終わりの夜のことーー
「うん…さっきよりずっと良くなった。」
「ありがとうございます!!」
2ヶ月後に発売予定のニューアルバムに
向け、私は神堂さんにレコーディング前
の歌唱チェックをしてもらっていた。
「それじゃ、今日はここまでにしよう。
残りはまた来週見るから。」
「ツアー中でお疲れなのに、申し訳あり
ません。」
「いや、キミの声に癒されたし、俺には
いいリセットになった。帰りは山田さん
が迎えに来てくれるのか?」
「いえ、タクシーで帰ります。」
「悪いな。送って行けたらいいんだが、
まだ少し仕事が残っていて…」
「とんでもないです。私ももう立派な
大人ですよ?」
「…そうだな。」
神堂さんはクスッと笑ってから、私の頭
をポンと撫でた。もう、それが子供扱い
なんだよ…と少し不満に思いつつ嬉しい
と思う自分もいる。
「レコーディングの予定はあれで大丈夫
なのか?あまり期間を取れないが。」
「はい、大丈夫ですよ。その辺りは他の
仕事も入っていないので集中でき…」
神堂さんと話しながら、スタジオの防音
ドアをガチャッと押し開けたらーー
そこは闇だった。
大画面テレビだけが青白く光り、ソファ
には人影…
「わ〜っ!!アカン!見えてもた!!」
「え〜、どこ?俺分かんなかったー。」
「何でだよ。車のフロントに映ってた
だろ。」
「あぁ、そっちか。俺もミラーばっかり
見てて気づかなかった。」
「ってか、合成感ハンパねーな。」
「ヤッさん、突然『エイッ!』とか言う
なやー?」
「それ織田無道だろ。」
「あ〜、昔よくテレビに出てたよね〜。
強面のお坊さん。」
「よっ!住職!!」
「誰が織田無道だ。実家が寺ってだけで
俺は住職じゃねぇわ。」
沈黙の後にいつものワイワイと騒ぐ声が
聞こえて、少しホッとした。画面はCM
に切り替わり、明るい音楽が流れ出す。
「…何やってるんだ、お前たち。」
いつの間にやら、私の後ろにいたはずの
神堂さんがソファの背後へ。
「うゎっ、びっくりした!!」
「お前は気配を消して背後に来んな!!」
「わざとやってるやろ!!」
「暗闇で無表情は真剣に怖いんスけど…」
あらら、散々な言われよう…
「春、美織ちゃん、お疲れ。外見てよ、
すっごい雨だから。」
「帰ろうとしたらタイミング悪くゲリラ
豪雨だ。レーダーの予測だとあと1時間は
止みそうにねぇし、時間潰してんだよ。」
「で、怪奇現象特集やってたから見てた
ってワケ〜。シンペイ超ビビリでやんの。
ウケる。」
「やかましわ!!」
「美織ちゃんは帰りタクシーか?この雨
じゃ、当分捕まんねぇぞー。」
このスタジオの最年長で、ボスでもある
安田さんが心配してくれる。
「あ…じゃあ、山田さんに連絡を…」
バッグからスマホを取り出して山田さん
にかけてみるも…出ない。打ち合わせが
あるって言ってたもんなぁ。
って言うか、照明点けてくれないかな…
私は暗い所が苦手だし、怪奇特集なんて
もっての外。
「…山田さん、出ないのか?」
神堂さんが私の顔を覗き込む。
「…はい。今日の夜は打ち合わせだって
言っていたので…」
「じゃ、美織ちゃんもここで雨宿りして
行きなよ。仕事これで終わりだろう?」
夏輝さんの明るい声が響く。
皆さんに会えるのは久し振りで、できる
ならもう少し一緒にいてお話をしたい。
でも、怪奇特集なんて見たくない。
皆さんが楽しんでるのに、チャンネルを
変えて欲しいなんて言えないし…
私の中で葛藤が始まった。
「ま、どっちにしろ少し休憩して行けば
いいんじゃねぇの?歌って疲れただろ。」
「秋羅が休憩って言うとイヤラしく聞こ
えんだよなー。」
「お前の脳ミソは未だ中学生並だな。」
「ウソウソ!ほら美織ちゃん、お菓子も
いっぱいあるしー?」
「美織、遠慮は要らないぞ?」
皆さんがそう言ってくれるなら…
「すみません。じゃ、お言葉に甘えて。」
「美織ちゃん、何飲みたい?」
夏輝さんはソファからスッと立ち上がり、
自販機へ向かう。
「あ、自分で…」
「いいのいいの、遠慮しないで?」
「ありがとうございます。そしたら…
オレンジジュースで。」
「了解〜。」
皆さん、相変わらず優しいなぁ。
なんて思っていると、CMが終わり番組
のテロップがドンと出る。
『カメラの前を横切る謎の人影!!』
やめてーーっ!!
思わず顔を背けた。
「あの…私、お手洗いに行って来ます…」
逃げるようにそそくさとトイレへ。
あんなの見たら、もう1人でトイレにすら
行けなくなっちゃう。鏡を見るのも怖い。
どうしよう…大好きなあの人と一緒にいら
れるチャンスなのに。
とりあえず、聞こえてくる声は仕方ない
として画面を見なきゃいいんだよね?
恋に試練はつきもの。
うん、頑張ろう。
覚悟を決めて休憩スペースへと戻る。
「はい、美織ちゃん。適当に空いてる所
に座って?」
「ありがとうございます。」
夏輝からジュースを受け取り、
あなたが座ったのは誰のとなり?
・春 Go to P.2
・夏輝 Go to P.3
・秋羅 Go to P.4
・冬馬 Go to P.5
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