#27 decade
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…秋羅は音楽の才能が開花したな。」
「正直、秋羅が一番不安材料だったもん
ね。俺たちには音楽しかなかったけど、
秋羅は望めば他の道だって行けたしさ。
そのうちバンドやめて他の事するんじゃ
ないかって気が気じゃなかったよ。」
「おいおい、随分な言われようだな。」
「お前、昔から微妙に冷めたとこあった
し。」
「それが今や、サウンドクリエイターと
しても活躍するんだからね。」
「…お前のアレンジ力は抜群だ。」
「クククッ、お前らが音楽の楽しさを俺
に教えたんだろ?やればやるほどハマッ
ちまったんだよ。」
「そう言うなっちゃんだけは変わんねー
よな。」
「ウソッ!俺、何も成長してないの?」
「あれだけ毎日毎日バカみたいにギター
弾いてて成長がない訳ないだろ。うちの
リーダーの真っ直ぐさは16の頃から何も
変わってねぇって事だよ。」
「…日本だけに留まらず、海外でも認知
されるバンドになる、J-ROCKとは言わ
せない音楽を作る…誰に何を言われよう
が、リーダーとしてお前がその方向性を
周りに説得し続けてくれたから、俺たち
が自由に動けた。」
「なっちゃんは人一倍優しい性格のクセ
して、めちゃくちゃ頑固一徹だからな。
JADEの根っこはなっちゃんでできてる
っつっても過言じゃねーよ。」
「え~、元旦だからって俺を褒めても何
も出さないよ?」
「ダメか。」
「っだよ、ケチー!」
「クククッ…」
昇る太陽に照らされながら4人で笑った。
ここまで順風満帆に来た訳じゃない。
むしろ上手く行かない事や頭にくる事、
悔しい事のほうが遥かに多かった。
それでも諦めず、ただ前を見て少しずつ
でも進んで行けたのは…メンバーが他の
誰でもなく、この3人だったからだ。
それだけはハッキリと言える。
お互いに感謝をしながらも照れくさくて
素直に言えない気持ちは、いつかもっと
目も眩むような輝くライトを浴びた時に
伝えたい。
でもそのステージに立つまでには、まだ
まだ時間がかかりそうだ。簡単じゃない
からこそ、チャレンジのし甲斐もあると
いうもの。
初めて見つけた自分の居場所は、今でも
かけがえのない場所としてここにある。
笑ったりケンカしたりしながらも、同じ
気持ちを持って同じ夢を見られる仲間。
元旦の日の出が全てを思い出させ、また
全てをゼロに戻す。新しい1年の始まり…
「さーて、デビュー10周年記念ツアーは
どんなステージングにすっかなー。」
「企画会議が仕事始めか。」
「休み、どうすんの?」
「今年は海外行くのもイマイチ面倒なん
だよなー。足痛くなったらヤダしー。」
冬馬の右足首の骨折は完治したものの、
練習やライブで酷使した後は少し違和感
があるらしく、トレーナーにマッサージ
をしてもらっている。
「そうじゃん、本調子じゃないんだから
日本で大人しくしとけよ。ってか、たま
には家に帰ってあげれば?」
「ヤダっての。帰ったら帰ったで、小言
ばっか言われんのが目に見えてんだよ。
それに年寄りに世話かけんのも悪いし。
新年会終わったら、そのままなっちゃん
とこに居ついちゃおっかな~。」
「俺に世話かけんのはいいのかよっ!」
「どっか女の所にでも転がり込めばいい
んじゃねぇの?」
「それも面倒くさい。」
フッと冬馬がこっちを見た。
慌てて顔を背ける。
「久々に春クンち、行っちゃおうかな…」
「丁重に断る。」
「丁重って言うかシャットアウトだね。」
「なんでー?彼方、大学受かったんなら
いいじゃん。何なら合格祝い兼ねて、春
んとこで盛大に新年会やっちゃえば?」
うちの家族はメンバーをほぼ身内と思っ
ているところがある。弟妹たちに至って
は物心がつく前から接しているせいで、
この3人が家にいても不思議に思わない。
「彼方が大学生か。やっぱ子供の成長が
一番時の流れを感じるな。」
「初めて会った時は2歳だったんだもん。
怖いよね。親戚のおじさんの心境?」
「なーなー、大学も東京じゃねんだろ?
それこそ滅多に会えなくなるじゃん。
俺らにとってもカワイイ弟たちだぞ?」
そういう風に言われると…
コイツらが来れば、弟妹たちも母さんも
喜ぶに決まってる。それだけに突っぱね
にくくなってきた。
毎年、夏輝の家でするのも申し訳ないと
思っていたし…まぁいいか。
「…多分大丈夫だとは思うが…客扱いは
一切しないからな。」
「お前が俺らを一度でも客扱いしたこと
あったか!?」
「……。」
ないかも知れない…。
「来るのはいいとしても、ずっと居つく
なよ?俺だって実家にいるのは新学期が
始まるまでなんだ。」
「分かってるって!んじゃ、決まり~!」
嬉しそうに大声を上げる冬馬に溜め息を
漏らしつつ、また視線を海へと戻した。
穏やかな波の上にすっかり昇った太陽が
神々しい光を放つ。
つい数時間前までライブをやっていたの
が嘘のように気持ちが凪いでいった。
しばらくは音楽から離れ、家族との時間
を存分に楽しむとするか。
今年の正月は賑やかになりそうだ…
「んじゃ、行くか。」
「そうだね。」
「1年お疲れーっ!」
「そして始まり…だな。」
この1年やりきった満足感と
これからの1年に期待を膨らませ
俺たちはまた歩き出す。
この先もずっと、この場所でーー
fin.
2020.1.16
3/3ページ