#27 decade
夢小説設定
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「やった!」
「セーフ。」
「よし。」
「なんっっっでまた俺なんだよっっ!!
神サマぁ~!」
冬馬がその場にしゃがみ込んだ。
ホッと安堵の息をつく。良かった…
「お前は神様なんか信じた事ねぇだろ。」
「あははっ!死神に取り憑かれてんじゃ
ないの?これは3本目生えるね。」
「うっさい!不吉なことゆーな!」
「でも抜くなら早い内がいいぞ?年取る
と更に抜けにくくなるらしいから。」
「えっ!?マジ?あれ以上怖い思いすん
のかよ??」
秋羅にすがりつく冬馬。もう既に3本目
の親知らずが生えると決定したかのよう
な
「…お前は無敵じゃなかったのか?」
「それとこれとは話が別だ!」
クククッ…。あんなにケンカ好きだった
クセに歯医者を怖がるとは。そのキャラ
のギャップが本当に笑える。
「春…今、笑ったな?」
八つ当たりが俺に向いた。
「…別に。まぁ、必ず4本生える訳でも
ない。俺も2本しか抜いてないし。夏輝、
コーヒーくれ。」
「クソッ、お前に生えろっ!」
タバコに火を点け、咥えたまま夏輝から
手渡された勝者の缶コーヒーを開ける。
喉のためにあまり吸わなくなったタバコ
も、この日だけは格別に美味く感じる。
これは…秋羅のピースだ。香りがいい。
「…残念だが、生えたところで歯医者は
別に怖くない。」
「ぬぅ~!」
汁粉ドリンクを渡されて悔しそうに顔を
歪める冬馬を見ながら、コーヒーを飲む。
ジワリと身体を流れていく熱い感触。
次第に空が白み始め、吐き出したタバコ
の煙りが空中に踊った。
「あ~、あったかい…」
夏輝は頬に缶を当て、幸せそうに微笑む。
「ほら、お前も早く飲めよ。日が昇っち
まうぞ。」
まだ納得がいかない顔でガシャガシャと
汁粉ドリンクの缶を振る冬馬。
「この何とも言えん甘さと小豆の食感が
腹立つんだよなー。」
「そう言えば、連敗って今まであった?」
「いや、今回が初めてだな。」
シュコッと缶が開く音に目を向けると、
冬馬は一気飲みしそうな勢いで缶を逆さ
に傾けた。
「去年みたいに鼻から出すなよー。」
「ゴフッ!!」
「言ったそばからお前は…」
「…小豆を丸飲みするつもりか?」
「ゲホッ!こんなのチビチビ飲んでられ
っかよ!」
涙目になりながらも果敢に攻める冬馬。
よくやる…。俺は先に汁だけ飲み干して
から、小豆を食べる派。
俺たちが元旦の早朝にこんな下らない事
をして遊んでいるなんて誰も知らない。
だから…楽しいのかもな。
日々、多くのスタッフや関係者、ファン
に囲まれつつ、まだ誰にも見せていない
自分たちがいること…
4人だけの時間というのは、色々な事を
思い出させてくれる。
「ッシャ!飲み干したぞ!!」
冬馬は得意気に缶を逆さにして振った。
「お疲れー。」
「早かったな。」
「…ほら。」
ペットボトルの水を渡してやると、後味
を消すようにガブガブ飲む。
「あっ、太陽が出てきた!」
夏輝の声に、4人で水平線を眺めた。
燃えるように赤みを帯びた太陽が、その
姿を現す。
「結成して15年、デビューして10年か…
早いよね。」
夏輝はジッと前を見据えたまま誰に言う
でもなく呟いた。
「なかなか中身の濃い10年だったな。」
「初っ端でつまずいたけどなー。」
「…でもまぁ、比較的やってみたい事は
やって来られたんじゃないか?やりたく
ない事もかなりやったが。」
知名度を上げるためには、CDを発売して
ライブをするだけでは全然足りない。
テレビ、ラジオ、雑誌…様々なメディア
を通しこんなバンドがいるんだと知って
もらわない事には始まらないのだ。
「ホント春には手を焼いたよね。撮影は
嫌い、人前で話すのも嫌い、歌う以外は
やりたくないってゴネまくってさ。」
「ククククッ。MV撮影なんか、何度NG
食らったかな。何で演技までする必要が
あるだって楽屋で逆ギレして。」
「歌番組の生放送のトークなんかもはや
放送事故だもんな。フォローするこっち
が大変だっての!」
「…俺も成長した。」
「自分で言うな!」
子供の頃から人前で何かするのが苦手で
仕方なかった。でも、なぜか演奏だけは
緊張しなくて…それが自分を表現できる
唯一の方法だった。
それ以外のストーリー性のあるMVとか
ポーズを取らされる雑誌の撮影、話す事
を強要されるラジオは今も好きではない。
「うん、春もすごく成長したよ。」
「嫌いでもカッコよくキメポーズ取れる
ようになったもんなぁ。」
「それでキャーキャー言われんのがムカ
つく!」
「…知るか。」
「冬馬も成長したよね。譜面読めるよう
になったし、ギター弾けるようになった
し。ヘタクソだけど。」
「お前はほぼ本能だけでやってきたもん
な。それに、最近は昔ほど遅刻もしなく
なったんじゃねぇの?」
「…褒める基準が低すぎないか?」
「うるせぇ!お前もちょっとは褒めろ!」
「…………。」
「1個もねーのかよ!!」