#27 decade
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「ふぇっくしゅん!!」
タクシーを降りるなり、夏輝が大きな
くしゃみをした。
「暖冬、暖冬って言って、結局は普通に
寒いじゃねーかよ。」
「…そりゃ冬だからな。」
「しかも早朝、寒くて当たり前だろ。」
続いて車から降りる俺たち。
タクシーを待たせたまま、あの場所まで
歩き出す。
18の冬からかれこれ十数年。
毎年元旦の朝に訪れる、倉庫街の岸壁。
カウントダウンライブという大イベント
を終え、忘年会を兼ねた打ち上げの後に
4人で来るようになってから、もう7年。
初めて来た時は高3で、それこそまだ夢
しか持っていなかった。この先どうなる
かも分からない不安もありながら、絶対
にやってやるという想いを胸に、4人で
昇る太陽を見つめた。
それから1年ずつ、何かを手に入れては
またここで決意を新たにする。
この場所は、いつも俺たちを18のあの頃
に戻してくれた。
「寒い~!冬馬、あっためて。」
「お?なっちゃん、とうとう俺のものに
なる覚悟を決めたか!」
「もうどうでもいい…寒すぎる…」
極度の寒がりの夏輝は、身を縮めて冬馬
の背中にくっついた。
「よし、来い!」
冬馬はガバッと夏輝に抱きつき、2人は
ジャレながら歩く。
…いい年をして何をやってるんだか。
「夏輝、何であんなに酔ってんだ?」
呆れた顔をしつつ、どこか楽し気な秋羅。
「…さぁ、また誰かに潰されかけたん
じゃないのか?」
夏輝は4人の中で一番酒に弱い。
と言っても、一般的に見れば強い方だと
は思うが。
「ククッ…今年も夏輝、はっちゃけてた
からな。気分が良かったのもあったんだ
ろう。」
1年の締めくくりであり、1年の始まりで
もあるカウントダウンライブは、ツアー
よりも祭り的な要素が強い分、自由度も
増す。
普段よりもアドリブや遊びが増えるのは
確かで、割と勢いまかせな所がある。
誰がどこでどう出るのか。本番での駆け
引きは『楽しい』のひと言に尽きる。
それもお互いの性格やプレイを熟知して
いるからこそできる、俺たちなりの遊び。
心地よい疲れとほろ酔い加減も手伝って、
また、俺たち4人だけということもあり
ここに来るとほんの少しだけ無邪気さが
顔を出す。
「お前ら、そのまま海に落ちんなよ。」
もつれながら前を歩く夏輝と冬馬の前に
岸壁の端が見えた。俺たち以外には誰も
おらず、静寂と冷えた空気が身を包む。
薄っすらと水平線が明るい。
「早くあったかいの飲ませてよ。内臓が
震えてしょうがないんだけど。」
「ちょっとは寒さで酔いも覚めただろ。」
「俺があっためてやってんのに。やっぱ
暖め合うなら裸のほうが…」
「お前はどこまで行く気だよっ!」
「えっ?なっちゃんとなら俺、行き着く
所まで行ってもいんだけど。」
「誰が行くかっ!」
ツッコミが戻ったという事は夏輝の酔い
もある程度覚めたのだろう。それでも、
缶コーヒーとアレが入ったコンビニ袋が
離せない夏輝。
「んじゃ、日も昇りそうだしやるか。」
いつものようにタバコを1本抜き取って
秋羅の手に乗せる。
「お前ら去年大ウソこきやがったよな!
当たったらいい事あるって言ったのに、
俺、最悪だったじゃねーか!親知らずは
生えるわ骨折するわ、謎の弟現れるわ、
一体どうなってんだよ!?」
「アハハッ、そこはやっぱり普段の行い
じゃない?」
「親知らずもあと2本に減ったじゃねぇ
か。骨折も1ヶ所で済んだし。」
「離れて暮らす家族と交流できたのも、
悪い事じゃない。」
「「「結果、良くないか?」」」
「ちっとも良かねーわっ!!」
そこは気の持ちよう…なんて冬馬にして
みれば大変だったと言うしかない。
でも冬馬1人の事でもなく、俺たちにも
影響はあった。メンバーの大切さを思い
知らさせる結果になったのだから。
やっぱり俺たちは誰が欠けてもダメなの
だと…この4人でなければダメなのだと。
「んじゃ、ジャンケン。」
夏輝の声に緊張が走る。
遊びとは言いつつ、絶対に負けたくない
戦いの始まり。秋羅の統計によればこの
ジャンケンで勝敗がかなり左右されると
いう事だから。
「いい?最初はグー!ジャンケンッ!!」
一瞬の沈黙のあと、全員で溜め息。
あいこだ。
「最初はグー!ジャンケンッ!!」
「うわ~っ!やっちゃった!」
夏輝、一抜けで頭を抱える。
「はい、なっちゃん半分確定~。」
「まだ決まってないし!」
「ほら、とっととやんぞ。最初はグー、
ジャンケンッ。」
「はい、春サマ残りもの~。」
あっさり負けた…。
まぁいい、残りものには福があるはず。
結局、夏輝、秋羅、冬馬、俺の順で引く
ことに。俺には選ぶ余地がない。秋羅が
持った4本のタバコを順に指先で掴んで
いく。
「あ~、ドキドキする…」
「相変わらず嫌な緊張感だな。」
「…余計な遊びを考えたものだ。」
「あぁ、頼む!連続はイヤだ!もう歯は
抜きたくねー!」
天を仰ぐ冬馬に俺たちは笑いを堪える。
「行くよ?せーのっ!」
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