#24 言われてみたい
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「シンペイさん、聞いてもらってもいい
ですか?」
美織ちゃんは俺たちのどうでもいい会話
に耳を傾けることなく練習していたよう
で、その手にはいつの間にか台本が握ら
れていた。
「ええで~。かかって来い!」
そのままソファから立ち上がり、俺たち
から少し離れると背中を向けて深呼吸を
する。
そして振り返った瞬間、そこにいたのは
女優の美織ちゃんだった。
「なんでそんな冷たいこと言うん?好き
って…言ってくれたやん…」
迫真の演技。切なげな瞳がユラユラ…
なにコレ…すっごく可愛いんだけど…。
「「「「…………。」」」」
「いや…俺、今もめっちゃ好きやで?」
「乗るなボケッ!」
「お前サイアク!」
「台無しにすんな。」
「…その口縫うぞ。」
「しゃーないやん!今のは絶対釣られる
やろ!アカン!めっちゃヤバイ!俺マジ
で美織ちゃんにホレてまう!」
「お前なんか100万年早いわ!」
「そうだよ!引っ込め!」
「ガラの悪い男は嫌いだってよ。」
「…美織がお前を選ぶ訳がないだろう。」
「なんやねんなお前らはーーっ!!」
「美織ちゃんを守る会代表。」
「芸能界の薄汚なさを教える係。」
「プロデューサーだが何か問題でも?」
「未来の夫に決まってんじゃん。」
「冬馬!お前が一番問題あんのじゃ!」
「それは言えてる。お前も引っ込め!」
「うわ~っ!暴力反対!!」
「シンペイさん!どうでしたか?」
どうやら美織ちゃんには俺たちが仲良く
遊んでるように見えるらしい。ニコニコ
しながら聞いてくる。
「めっちゃええ感じやったで。俺が聞い
ててもほぼ違和感なかったし。」
「シンペイさんの魔法の言葉のお陰です
ね!ありがとうございます!!」
「ま、俺もナニワのショパンと言われた
男やし?音のことならまかして。」
「誰がそんなこと言ってんの?」
「…失礼極まりない。ショパンに謝れ。」
「ミナミの帝王の間違いじゃねーか?」
「それキダタローってオッサンだろ。」
「それはナニワのモーツァルトや!
にナニワのベートーベンはつんくさんや
けどな。美織ちゃん、もし俺がコイツら
に消されてもその魔法の言葉だけは、俺
の笑顔と共にしっかり胸に刻んどくんや
で?ええか?」
「はいっ!!」
「…めっちゃ元気のええ返事しよった…」
「お前すでに消えたな。」
「これっぽっちも眼中にねーってよ。」
「残念だったな、今までご苦労さん。」
「…さらばシンペイ。」
「今すぐ消すなーっっ!!」
やれやれ…やっとシンペイがヤッさんに
連れて行かれて静かになった。
「でも美織ちゃんも大変だね。」
「ふふっ、お仕事ですから。」
「美織ちゃんは男に言われたい方言って
何かあるのか?」
「えぇ~!?」
「ほら、キュンッと来ちゃう的な?」
「う~ん…沖縄とか北海道ってなんだか
すごく柔らかいですよね。音が優しいと
言うか。逆に関西の方はシャープな感じ
で。でも…私は標準語が一番聞き慣れて
いるので…やっぱり標準語かなぁ。」
「そうなんだ。」
「そうこなくっちゃ。」
「で?なんて言われたいんだ?」
「………。」
「いえ、そんな…恥ずかしくて。って私
何言ってるんでしょうね!?」
顔を真っ赤にして俯く美織ちゃん。
だからそういうのが可愛いんだって。
「ただ…言われたいと言うより…私割と
優柔不断なところがあるので、こう手を
繋いで引っ張って行ってくれるような、
そんなのに憧れたりなんて…っていい年
して子供っぽいですよね。すいません…
あまりそういうの慣れてなくて。」
「俺、手を繋ぐの得意だよ?」
「得意って何なんだよ!?俺なんか繋ぎ
放題だし?」
「手だけでいいのか?他にもっと…」
「…お前ら美織を揶揄うのもいい加減に
しろ。」
春が苛立つように立ち上がった。
「えー!あんま会えないんだしちょっと
くらい会話が弾んでもいいじゃん。」
「遊びに来てるんじゃないんだ。美織、
時間だ。打ち合わせを始めるぞ。」
「あ、はいっ!」
慌てて立ち上がろうとする美織ちゃんの
前に、スッと手が伸びる。
「…行こう。」
春はフッと笑い、そのまま美織ちゃんの
手を取った。
「あー!ちゃっかり手を繋いだ!!」
「ずっりーっ!!職権濫用!!」
「クククッ…そう出たか。」
「何とでも言え。」
「あ、あの、失礼します!」
春は勝ち誇ったような笑みを浮かべて、
顔を赤くした美織ちゃんを連れて行って
しまった。
「春も澄ました顔して、独占欲は人一倍
強いよね。」
「その独占欲は男としてなのか、師匠と
してなのか…複雑なところだな。」
「どっちにしろ、一番身近にいるのは春
だからなー。」
「かと言って美織ちゃんが恋をするとは
限らないんじゃない?イケメン俳優とも
沢山仕事する訳だし。」
「果たして狙ってる男がどれだけいるの
か?ってな。」
「ライバルは蹴落とすのみ。だろ?」
冬馬がニヤッと不敵に笑った。
勝利の女神は誰と手を繋ぐのか。
俺たちの勝負はまだまだ続きそうだ…
fin.
2019.3.9
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