#24 言われてみたい
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夕方、雑誌の取材と撮影を終えスタジオ
に帰る。
「あ、今日美織ちゃんの打ち合わせが
あるんだっけ?」
「あぁ。次のアルバムの構想を練ろうと
思って。」
中に入り、階段を登っていると…何やら
笑い声が聞こえて来た。
「あれ?美織ちゃんもう来てんの?」
「…随分と早いな。」
「誰と喋ってんだ?」
「おいおい、俺ら以外で美織ちゃんと
勝手にしゃべるとは、いい度胸してん
じゃねーか。」
「別に俺らのもんでもないけどさ。」
よくここに出入りをしてる美織ちゃんは
スタッフともみんな顔馴染みで。
でも、やたら賑やかだな…ってことは。
休憩スペースのソファには美織ちゃんと
「やっぱりテメーかよ!」
「よ~ぅ、おかえりぃ。」
「皆さん、お疲れ様です。」
口から先に生まれた男、シンペイ…。
「美織ちゃん、随分楽しそうな笑い声が
聞こえてたけど、どうしたの?」
「あっ!すみません、うるさかったです
よね?」
「ううん、全然いいんだけど。」
「美織ちゃん、今度関西の女のコの役を
やるんやてー。そんで、俺が今レッスン
してあげてんねん。」
「そういうのって、ことば指導の先生が
つくんじゃないの?よくロールでも流れ
てんじゃん。」
「そうなんですけど、イントネーション
がいまいち掴めなくって。今日スタジオ
に来たらシンペイさんとバッタリ会った
ので、少し聞いてもらってたんです。」
「方言って難しいよな。」
「所詮、地元民にはニセモノにしか聞こ
えねーもんな。」
ツアーで全国を回る俺たち。
冬馬はよくライブ前にその土地の方言を
教えてもらいMCで使う。ウケるけど、
やっぱりイントネーションにはかなりの
違和感がある訳で。
「…地元出身者を使えばいいのに、なぜ
無理に話させるんだ?」
「そら今をときめく美織ちゃんを使いた
いんやろ。大丈夫、俺がバッチリ仕込ん
だるから。」
「やめろよ!お前絶対、余計なことまで
仕込む気だろ!」
「アホか!人聞きの悪いことゆーな!」
「いや、お前のことだから…確実に何か
企んでるはずだ。」
「ちょっと美織ちゃん聞いた?コイツら
ほんま人を信じるっちゅーことせぇへん
のやから。これやから東京モンはイヤや
ねん。」
「んじゃ西に帰れっ!!」
「俺は別にええけど?でも春が離さへん
やろ?」
フフンッと勝ち誇った笑い。
この男、黙っていればそれなりにイイ男
に見えるのに喋ると完全崩壊。オマケに
タトゥーだらけ。そんな怪しい関西人が
なぜ俺たちの所にいるかって、シンペイ
はピアノの調律師でもあるからだ。
こんなふざけたヤツが、恐ろしく繊細な
仕事をする。おまけにピアノの腕も確か
で。高3までピアノだけは真面目にやって
いたというから意外にも程がある。
何でも、おじいちゃんがスゴ腕の調律師
だったらしい。小さな頃からその仕事を
見て育ち、絶対に継ぐと決めていたんだ
とか。
人間性にかなりの問題はあるけど、音楽
に対しては超真面目。
うちではローディー兼シンセやデータの
打ち込みをするマニピュレーターまでも
こなし、時にはサポートメンバーとして
レコーディングにも入る。
春もピアノやオケアレンジなんかでは、
時々シンペイに相談してたりして。
「…居なきゃ居ないで、他を探すが。」
「お前ー!そこはウソでも引止めろや!
カワイ気ないやっちゃなー!」
「嘘でいいんだ。」
「コイツ、チョロ過ぎんだって。」
「壺買わされるタイプだろ。」
「美織ちゃん!JADEがイジメる!!」
俺たちのやり取りを聞きながらクスクス
笑う美織ちゃん。
「ホントに皆さん仲良しですよね。羨ま
しいなぁ…。」
「いやいやいやいや、俺は美織ちゃんと
だけ仲良くできたらええんやで?ほな、
こんなヤツら放っといてレッスン続けよ
か。俺がええのん教えたるから。」
「ええのん?」
「そう。このイントネーションが完璧に
できれば、あとは大概何でもいける。」
「ホンマかいな。」
「冬馬…移ってるから。」
「いくで美織ちゃん。repeat after me.
ちゃいますやーん、ナニゆーてはります
のんなー。」
「ち、ちゃいますやーん、なにゆーて
はりますのんなー…?」
「あかんあかん、後半甘なったな。言葉
で覚えるんちゃうねん。音、つまり全体
をひとつのメロディとして覚えて。それ
やったら美織ちゃん得意やろ?」
なるほど…。この独特の抑揚、メロディと
してなら覚えやすいのかも。
「ちゃいますやーん。」
「ちゃいますやーん。」
「ナニゆーてはりますのんなー。」
「なにゆーてはりますのんなー。」
「そうそう、ええ感じ。ほなもっかい。
ちゃいますやーん。」
「「「「ちゃいますやーん。」」」」
「お前らはいらんのじゃーっ!!って、
春は言わんのかーい!」
「言うか。アホらしい。」
アホって、お前もしっかり移ってるし…。
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