#23 Dream maker
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誰ともなくタバコを1本抜き取り、差し出した俺の手の上に乗せていく。
「お前ら知ってたか?始めのジャンケンで一番に勝ったヤツがアタリを引く確率高いって。」
「ウソッ!」
「マジで!?」
「…分析してたのか?」
「クククッ。分析ってほどでもねぇけど、3年目くらいから何となく気になってな。帰ってからいつもジャンケンで勝ったヤツとアタリ引いたヤツをメモってたら、そんな結構が出た。」
「うわ、超怖ぇ~!すでにジャンケンで運命が決まってたのかよ。」
「アタリを引く以前の話になってきたね。」
「…さすが秋羅だな。」
夏輝と冬馬はソワソワし出す。
「でも、あくまで確率の話だからな。違う時も当然あるし。じゃ、やるか。」
「え~、なんか緊張するんだけど…。いくよ?最初はグーッ!ジャンケンッ!!」
パー、パー、グー、チョキ…
一斉に安堵の溜め息が漏れる。あんな話をしただけに、誰も一番には勝ちたくない。
「最初はグーッ!ジャンケンッ!!」
あいこが続くこと6回…。
「何なの?今年。」
「ヘンなオーラ出まくってんじゃねーの?」
「過去最長勝負だな。」
「…もう日が昇り始めたぞ。」
海の向こうにオレンジ色の太陽がその顔を見せ始めた。
「最初はグーッ!ジャンケンッ!!」
「「「「………。」」」」
「ぐおぉぉ!俺かよっっ!!」
一抜け冬馬に俺ら3人はほくそ笑む。
「ホラ、早く選べよ。いくら悩んだってお前がアタリを引くのは決まってんだからさ。」
ジャンケンで順番が決まるも、トップの冬馬がなかなか選ばない。
「うるせー!俺には選ぶ権利があんだよ!絶対アタリなんか引かねーからな!」
散々迷った挙句、1本のタバコの先を掴む。
その後は3人続けてさっさと選んだ。
「いいか?せーの!」
パッと手を離すと、茶色のフィルターのタバコを掴んでいたのはやっぱり冬馬だった。
「クソッ!何でだよーっ!!」
冬馬はしゃがみ込んで頭を抱える。
「あはは!おめでとー!」
「今年はいい事あるぞ?」
「…良かったな。」
「ちっとも良かねーわっ!」
夏輝がコンビニ袋から缶コーヒーを取って配り出した。そして冬馬の手には汁粉ドリンク。
「あ…ボクなんかお腹の調子が…」
「ウソはいいから飲め。」
「お前、ハラ頑丈にできてんだろ。」
「…往生際が悪いな。」
俺たちはタバコに火を点け、味わうように深く吸い込む。この味は夏輝のだな…。
ただジッと太陽を見ながら煙を吐き出した。
こうしていると、自分の中の何かが煙と一緒に吐き出され、空に溶けていく気がする。
『無』になる時間。そうして数時間前のライブの余韻ごと、気持ちをリセットする。
また、新しい1年が始まるーー。
「ゴフッ!」
「わ!汚ねっ!」
その声に横を見ると、冬馬が口から汁粉を吹き出した。
「ゲホッ!ゲホッ、ゲホゲホ…」
夏輝がカバンからティッシュを取り出し、冬馬の背中をトントン叩く。さすが世話焼き。
「クククッ、何やってんだよ。」
「ま…豆がダイレクトに喉入った…ゲホ…」
涙目になりながら口を拭く冬馬に、春が意地の悪い笑顔を向ける。
「…吐き出したからアウトだな。もう1本。」
「そんなルール聞いたことねーぞっ!」
「冬馬、鼻から汁粉出てるよ。」
「ウソッ?」
「うそ~。」
「ハゲろ、夏輝!」
ここに来ると、なぜか高校時代に戻ったようになる俺たち。只々音楽が、バンドが楽しくて、やりたい事だけやって夢ばっか見てた。
純粋に音を楽しんでいたあの頃…
今では色んな事が変わっちまったけど、コイツらと音を出している時が一番楽しいと思うのは変わらない。
昇る太陽を4人で眺める。
「今年はやった事ないもんやりてーなー。」
「確かにアルバム作ってツアーやってってのもマンネリだしな。」
「企業じゃなくて、スポーツ選手とコラボとか良くない?」
「…それはいいかもな。練習風景とか見させてもらって、そこから曲を作ったり。」
「じゃあさ、………」
「それなら………」
「でも…………」
「だったら………」
たったひと言の発想から、アイデアや問題点が次から次へと溢れ出す。
結局何年やったところで
やりたい事も夢も尽きなくて
奥底にあるのはいつまで経っても
あの頃のままの俺たち
そして、毎年こうしてここに
その姿を探しに来るんだろう
これからも、ずっと…
fin.
2019.1.11
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