#23 Dream maker
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(ほらみろ、スネたじゃん!)
(だってホンマのことやん!)
(お前、何年一緒にやってんだよ。)
(…思った事をすぐ口に出すな。)
(でも今年は明らかに冬馬が負けたな。)
(ヤッさん!!)
(も~、めんどくさいヤツやなぁ…)
(((お前もな。)))
普段、いい加減で飄々としている割には傷つきやすく落ち込みやすいのが冬馬で。
「冬馬、そんなに大差なかったって!分かる人が見れば凄いドラマーだなって思うし!」
普段、冬馬とすぐ小競り合いになるクセにこういう時はすぐに励ますのが夏輝で。
「…その場の盛り上がりもあるしな。気にする事でもないだろう。」
普段、冬馬がやる事には我関せずだがドラムの腕
「ま、俺は弾きながら前で客を煽れるからな。それにノッて来ただけの話だ。所詮、俺らは1人じゃ成り立たねぇ存在だろ?」
高校ん時からずっとコイツを見て来た。冬馬の扱いにおいて俺の右に出る者はいない。
「あきら~ん!」
振り向き様にガシッと抱きつかれかけたのを、顔面を押さえ込んで阻止。
「いい加減、俺の愛を受け入れろ。」
「それは夏輝の担当だろ。」
「そんな担当ないから!」
「だって俺の相方、昔からお前じゃんよー。」
「愛はいらねぇから音だけよこせ。」
「冬馬、浮気すんなや!相方は俺やろ!近い内にM-1出よう言うたんはウソやったんか!?」
「シンペイ悪い~、お前が浮気だから♡」
「って言うか、M-1なんか出さすか!」
「アホか夏輝!今時笑いのひとつも取られへんミュージシャンが生き残れると思うなよ?」
「お前ら一体どこ目指してんだよ。」
「ガハハッ!案外うちのバカツートップはいい所まで行くかもなー。」
「ほらリーダー、うちのボス容認してんで?」
「俺は許さない!」
「コンビ名は?」
「『East-West』。」
「ちゃっかり決まってんのかよ。」
「うわ、ベタ!そのまんまじゃないですか!」
「黙れジン!お前も入れるぞ!」
「それだけは勘弁して下さい!親が泣く…」
「…うるさいから俺はあっちで飲む。」
さっきの落ち込みはネタ振りだったかのようにケロッとしている冬馬。ただの構って欲しがりの寂しがり屋。
そしていつものようにギャーギャーと騒ぐ面々に、1人全くついて来る気のない春…。
これが俺たちのスタンダード。
「んじゃ、またなー!」
「お疲れさまー!」
「よい冬休みを~。」
ほんの少し明るくなった空の下を、口々に挨拶を交わしながら方々に別れていく仲間たち。
そのほとんどが、次のツアーが決まるまで会う事がない。他のバンドのツアーに同行したり、テレビや舞台関係の仕事をしたり…。また一緒に仕事ができるまで、元気でいる事を願う。
「さ、俺らも行くかー!」
待たせていたタクシーに乗り込み、あの場所へ向かう。途中、いつものようにコンビニへ寄り冬馬が買い出し。
目的地に着くまでは無言。タクシーの運転手に話している内容を聞かれるのも嫌だし、その間は各々がスマホにガンガン入ってくる年明けの挨拶メッセージに目を通している。
「あ、その辺で止めてもらえますか?30分ほどで戻ってくるのでこのまま待ってて下さい。」
人当たりのいい営業スマイルを浮かべた夏輝が運転手に話しかける。
このオッサン、何しにこんな倉庫街に?とでも言いたそうな顔だな。
確かに、男が4人でこんな時間にこんな所に来るなんて怪しさ満開ではある。
「俺ら別に怪しいモンじゃねーよ?ただ毎年、ここに初日の出を見に来てるだけだから!」
助手席に乗っていた冬馬が咄嗟に弁解。
でもオッサンはあからさまにホッとしている。
物騒な世の中だ。正月早々、犯罪に巻き込まれたらと心配になっていたのだろう。
色々と『悪い事』をしてきただけに、そんな目を向けられるのには慣れている冬馬。
「どうぞごゆっくり。」
俺たちは車を降り、海に向かって歩き出した。
「今年は割とあったかいね。」
「天気も良いし、キレイに見えんじゃね?」
「クククッ、去年は寒かったもんな。」
「…夏輝が悲愴な顔をしてた。」
岸壁まで来ると、もう海の向こうが明るい。
ここは殺風景な場所だが、他に人の気配もなく結構気に入っている。
まるでそこがステージにでもなったように。
誰にも邪魔される事なく、4人だけで静かに迎える新年の幕開けーー。