#20 大切な場所
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「んじゃ、今年もよろしくなー!」
「ゆっくり休めよ。」
朝方、打ち上げを終えて店を出ると、スタッフたちと口々に挨拶を交わしながら別れる。
「さてと、俺たちも行きますかー。」
タクシーに乗り、いざ誓いと決戦の場所へ。
途中コンビニに寄る。なぜか買い出しはいつも俺の役目。
「冬馬、俺のタバコも。」
春がボソッと言う。
ポリープの手術以来、タバコを吸わなくなった春。てっきり喉のためにやめたと思ってた。
「え?やめたんじゃないの?」
「…別にやめた訳じゃ。普段は吸う気がしなくなっただけの話。」
「ククッ、でもあれがなきゃゲームになんねぇしな。」
「ま、1年に1箱くらい許されんじゃね?」
確かにフィルターが茶色なのは春の赤マルだけで、それがないと当たりが分からない。
こんな下らないゲームのために、普段吸わなくなったタバコを買う春がちょっと笑える。
春は昔から、真面目なんだかどうなんだか分からないフシがある。基本は真面目。でも高校ん時からタバコは吸ってたし、酒も飲む。
高校生男子なら何も珍しい事じゃねーけど。
夏輝に関してはチビだった事もあり、背が170を超えるまでタバコも酒も手を出さなかった。タバコを吸うと背が伸びないという話を真剣に信じていたのだ。
タクシーを降りコンビニに入る。
缶コーヒー3缶と、汁粉ドリンク。
そして春の赤マルを1箱。
「う~、さびぃ!」
「…今日は風が強いな。」
タクシーを降りて人気のない倉庫街を歩く。
ふと振り返ると、夏輝は俺の後ろにピッタリとくっついて歩いていた。
「あ~!なっちゃん、俺を盾にすんなよ!」
「だって風が寒いんだもん…。」
コートのフードをすっぽり被り縮こまるようにして俺の背中に隠れているのは、紛れもなく口うるさいリーダー…。寒さに滅法弱い。
「こんな時だけ甘えてきやがって。」
ヒョイッと避ける。
「うわ!また風邪引いたらどうしてくれるんだよ!」
そう言いながらマークするように付いて来る。
「知るか!」
逃げると追いかけて来る。カワイイ奴め。
「そうそう、寒いならガキは走っとけ。」
「…無邪気と言うか、バカと言うか。」
秋羅と春は呆れたように笑った。
いつもの岸壁まで来ると、うっすらと水平線の上がオレンジ色の光を帯びていた。
俺たちはタバコを1本抜き取ると秋羅に渡す。
「ホントこれ、いつまでやんの?」
「いつまでだろーなー。でも面白いじゃん。」
「やめたらやめたで、なんだか物足りない気もするしな。」
「…まぁ、10代に戻れる瞬間があってもいいんじゃないのか?」
今となっては、こうして4人で外をプラプラ歩いて騒いでなんてできるのは、この日だけだ。
ここに初めて来たのは18の時。
ホームにしてたライブハウスのカウントダウンイベントを終え、その帰りに酔った夏輝が急に初日の出を見に行くと言い出したのだ。
俺はともかく、春、夏輝、秋羅はプロを目指し大学進学をやめた。もう後戻りはできない。
でも俺たちならできるって全員が信じて疑わなかった。
俺たちの音を 世界中に響かせようぜ
日本のみならず、世界中の人が
俺たちの曲を口ずさむ時がくるように
どこまでも高く…昇りつめよう
あの日、太陽を見ながらそう誓った。
それ以来俺たちは、その想いが変わっていない事を毎年ここに確かめに来るんだ。
でもって、この運試しはオマケの遊び…のハズが、いつも全員マジになる。
「最初はグーッ!ジャンケンッ!!」
1人ずつ順番にタバコの先っぽを掴む。
緊張の瞬間…