#20 大切な場所
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俺はここから見る景色が大好きだ。
見渡す限り人で埋め尽くされた客席。
俺たちの曲や言葉、一挙手一投足に何万人ものファンが叫び、腕を振り上げる。
そして…俺の目の前でカッコつけまくる3人。
もう13年、ここからアイツらを見てるんだ。
動き回る事はできないけど、俺だけが知ってる景色。
小さなライブハウスから始まった俺たち。
今ではアリーナクラスが当たり前で、すぐそこにいたはずの3人は遠くなった。
紙に書いてたセットリストも覚えられない歌詞も、今ではiPadに全て表示される。
でも変わらない事もある。アイコンタクト。
演奏中は
『キメの合わせ、ズレんなよ』と睨み合い、
『今日の客、いい感じだな』と笑い、
『春、かなりノッてる』と3人で頷く。
結局は、俺たちが一番楽しんでんだ。
4人で演奏する事を。
ただの高校生だった頃から今でもずっとーー。
カウントダウンライブは特別だ。1年の総決算。途中で年は明けるけど、やっぱり締めくくりの意味が大きい。それに普段やらない事ができるのも楽しみの一つ。
このライブでは、俺と秋羅のバトルコーナーがある。春と夏輝を少し休憩させる間、ベースとドラムだけでセッションする。
それは打ち合わせ一切なしのガチバトル。
お互いがどう出るのかを探りつつ、自分の腕も魅せる。もちろん独り善がりにならないよう、リズムの調和も図る。
俺と秋羅にとっては、昔からやってる『遊び』でもあった。春と夏輝と練習できない間はそうやって2人で音を出して遊んでたから。
俺がパワフルなドラミングをぶちかませば、客を煽りながら華麗なテクニックを魅せる秋羅。
技の応酬に、ファンも盛り上がる。
俺たちの曲は、あらかじめ打ち込んでいる音源データを生演奏と一緒に鳴らす「同期演奏」が多い。そのため俺はイヤホンから聴こえてくるクリック音を聴きながら叩く必要があった。
俺がズレればバックに流れるシンセや効果音、オケの音と合わなくなり、曲がめちゃくちゃになるという事だ。
だからこのコーナーは、正確さを求め続けられる俺へのストレス発散の場でもある訳だ。
そして春と夏輝はその様子をモニターで見つつ、混ざりたくてウズウズするらしい。
たまにはリズム隊にもカッコつけさせろってんだよ。
そして4人揃えば、また怒涛の演奏が始まる。
夏輝は可愛い顔と裏腹の攻撃的な音を響かせ、
秋羅は冷静さを装いつつ存在感を見せつける。
そして春はその声と世界観で誰をも魅了した。
音を、声を聴けば、調子が一発で分かる。
それはあの3人だって同じこと。
コイツらと音楽ができて良かった。
出会えて良かった。
ライブをやる度に本当にそう思う。
こっ恥ずかしいから絶対言わねーけど。
最後の曲。
春が俺を振り返り頷く。『俺はいつでもいい。お前のタイミングで行け』と目が言っている。
俺のドラムから始まり春のギターと歌が入る。
秋羅のベースが加わり、最後に夏輝のギターが繊細なアルペジオを奏でる。
4人の音が1つになる瞬間。それがガッチリ噛み合った時、俺は今でも鳥肌が立つんだ。
そしていつまでも、ここから3人を見ていたいと願う。この大好きな景色をーー。
「みんな、ありがとーーっ!!」
「今年も突っ走るから付いて来いよーっ!!」
大歓声に包まれながらステージを降りる。
やり切った満足感を味わいつつ、どこか感じる寂しさ。
「お疲れ!」
「最高でした!」
スタッフたちに笑顔で迎えられながら、俺たちの1年がこうして終わった。
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