#18 林くんの憂鬱
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「ジン、大丈夫?」
夏輝さんは持っていたカフェオレの缶を差し出してくれた。
「夏輝さん…ありがとうございます。」
フワッとした優しい笑顔に力が抜ける。
「悪いね、いつもアイツらが迷惑かけて。」
「いえ、迷惑だなんて。僕が頼りないだけで。まだまだダメですね…。」
「そんな事ないよ。ジンはよくやってくれてるし、成長してると思うよ?こういう仕事は経験値上げていくしかないからね。そんなに焦らなくて大丈夫だよ。」
あぁ…夏輝さんが天使に見える。
「俺もできる限りフォローするし、困った事があったら何でも相談してくれたらいいからさ。後は…ちょっとでも楽しんでみたら?」
「…楽しむ?」
「そう。ジン、いつも眉間にシワよってるから。遠慮する必要ないよ。もっとビシバシ、言いたい事も言ってやればいい。同じ仕事は二度とないし、せっかくなんだから勉強しながら一緒に楽しもうよ。」
ポンポンと励ましてくれるように肩を叩いて、夏輝さんは行ってしまった。
そうだ…いつも時間通りにスケジュールを遂行する事で頭がいっぱいで、システム手帳を見てばかり。皆さんの仕事振りをちゃんと見ていなかった気がする。
朝から晩まで休みもなく忙しいのはみんな同じ。いや、それどころか常に視線を浴び、トップを走り続ける事を期待されるメンバーの重圧とストレスは凄まじいはず。
写真撮影中のメンバーを見た。
仕事モードの4人は、普段の自由気ままな雰囲気など微塵も感じさせない。霊感なんて全くないけど、立ち昇るようなオーラを肌で感じる。
カッコいい…。
これが男が惚れる男って言うんだろうか。
ヘンな意味じゃなく。
少しでも役に立ちたい。
この人たちの創る世界をもっと感じたい。
できれば一緒に…。
そう、強く思ったーー。
それから数ヶ月、四苦八苦しながら何とか仕事をこなし、『対:神堂・秋羅・冬馬マニュアル』を自分なりに作成、困る前に対策を取る戦法を取りながら日々走っていた。
そして迎える、僕にとって初めてとなるJADEのライブツアー初日。
僕が出演する訳じゃないのに朝から妙に緊張し、足がフワフワしていた。
JADEのライブは、勉強がてら過去に発売されたDVDでしか見た事がなかったけど…画面からでもその熱狂ぶりが伝わってきて、興奮せずにはいられなかった。
リハも終わり最終のサウンドチェックを終えると、後は客入れを待つばかりとなる。
と、ステージにいる夏輝さんがマイクを取る。
「はい、みんな集合~!」
その声に、舞台、音響、照明、衣装、その他、ツアースタッフがゾロゾロと集まって来た。
何が起こるのかと見ていると、何十人もの人がステージいっぱいに輪になって全員が肩を組み出す。
「ジンー、何やってんの?早く来いよ。」
ステージ袖で見ていた僕を見つけ、夏輝さんの声が飛んでくる。
「お前もツアーメンだろーが!」
冬馬さんが『来い!』と言うように首をフイッと振る。戸惑っていると、神堂さんと秋羅さんが間を空けてくれた。
「早く来ねぇと締め出すぞ。」
「…来たくないなら別にいいが?」
「い、行きますっ!!」
慌てて走り出して輪に加わると、沢山の笑顔に迎えられた。
「今回から1人追加ね。みんな、うちのジンくんをヨロシク~。」
冬馬さんが
すごい恥ずかしいんだけど…
そして神堂さんと秋羅さんの腕が肩に回る。
僕もこの中の一員なんだ…。
その腕の重みに、胸が熱くなった。
「それじゃあみんな、これからの3ヶ月間、力を合わせて心を一つにして、ファンのために最高のステージを見せよう。準備はいい?」
夏輝さんはみんなを見渡すと、深呼吸をした。その瞬間、顔つきが変わる。
「行くぞーーっっ!!」
『オウッ!!』
全員の声が大きな会場に響き渡る。
すごい…圧倒される気迫に鳥肌がたった。
「これ、初日の儀式みたいなもんだから。」
それぞれの持ち場に戻るスタッフを見ながら、夏輝さんが笑ってポンッと背中を叩く。
そして、外部からではなく…初めて創り上げる側から参加したライブに感動した僕は、ライブ終了後、感極まって泣いてしまったのだった。
その後の打ち上げで、散々メンバーにいじられたのは言うまでもない…。