#14 Turn back the time
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「おう、美織ちゃん。お疲れ」
「秋羅さん、お疲れ様です!」
階段を上がって来た美織ちゃんに声を掛けた。
もうすぐ彼女のレコーディングが始まる。
またしばらく、このスタジオに通ってくる事になる。
「あ、美織ちゃん!もうちょっと待っててね。春、まだ打ち合わせ入ってるから。」
「いえ、私が早く来過ぎたので。これ差し入れです。皆さんでどうぞ!」
「さっすが美織ちゃん!ちょうど腹減ってたんだよなー。」
冬馬はソファに座ると、ガサガサと少しの遠慮もなく袋を開ける。
「あっ!これ、人気のハワイアンおむすびの店だろー?食ってみたかったんだよなー。おぉ、種類もいっぱい~♡」
早速、ガッつく冬馬…。
「お前、春の分も残しとけよ。おにぎりの恨みは怖いからな。」
「おぅ、あのケリはなっちゃんよりも重かったからなぁ…二度と御免だ。」
「あははっ、あの時すっごい音したもんね。」
昔、春が買っていたおにぎりを冬馬が食って、その逆鱗に触れた事があった。
春も人間だ、そりゃ腹だって減る。長時間打ち合わせで缶詰状態になり、イライラしていた所に冬馬の所業だ。あの冬馬がよろける程のケリが炸裂した。「今すぐ買って来い。」と凄まれ、冬馬が即ダッシュで買いに行かされたのは言うまでもない。
「美織ちゃんもそこ座ってな。」
「はい、ありがとうございます。」
もうここへは何度も来ているのに、相変わらず遠慮がちにちょこんと座る姿が微笑ましい。
「あ、そうだ!新曲のMVが出来たんだよ。時間もあるし見る?」
夏輝はテーブルに置いていたDVDをヒラヒラと見せた。
「え?発売前なのにいいんですか!?」
と言いつつも、彼女の顔は思い切り『見たい』と言っているから笑えてくる。
「美織ちゃんはいつだって特別待遇だろう。」
その頭をポンポンと撫でると、嬉しそうに微笑む彼女。俺たちはこの無防備な笑顔に弱い。
夏輝はDVDをセットすると、再生ボタンを押したーー。
前奏が流れ始めると、黒一色の画面から映像がフェイドインする。
朝日を受け山頂に立つ俺たちを、グルッとヘリから空撮する。雲のない空はオレンジから青のグラデーション、足元は真っ白な雪の世界。
「うわぁ…キレイ!」
美織ちゃんの口から感嘆の声が漏れる。
「まさかヘリスキーが出来るとは思わなかったよな。」
「春も憧れてたって言ってたしね。」
「なっちゃん、直前まで寒い寒いってボヤいてたクセに。」
「お前カイロ何枚貼ってたんだよ?」
「いいだろ!寒いもんは寒いんだから!」
俺たちの会話を聞きながら、美織ちゃんはクスクス笑う。
Aメロで映像は切り替わり、東京の大都会の中を俺たち4人は1人ずつ、別々の方向へゆっくりと歩き出す。最後に歩き出そうとした春の頭上にチラチラと雪が舞い落ち、春は空を見上げる…
この曲は卒業シーズンに向け、仲間との友情、別れ、想い出をテーマにした曲。企業とのタイアップCM用に作られた。
初めは静かに始まるが、ウィンターソングに有りがちな切なげなものではなく、次第にアップテンポになって行く。
制作するにあたって、俺たちは音楽以外で共有する思い出は何かと考えた。
俺と冬馬は他に仲間がいてかなり遊びまくっていたが、春と夏輝はあの生真面目な性格と音楽以外あまり興味がないのとで、バンド活動以外は自分の練習とバイトに明け暮れていた。
一度しかない人生だ。楽しまないのは勿体無いと、たまに2人を連れ出した。
その中でも一番多かったのはスノボだろう。
元々は女にモテるからと冬馬が始め、俺が巻き込まれた。俺もモータースポーツが好きだった事もあり、疾走感があるスノボは楽しめた。
春がガキの頃からスキーをやってたってのは聞いてたし、夏輝も運動神経はいい。それで夏輝も巻き込んで、雪山に行くようになった。
ただ1つの難点は、夏輝が極度の寒がりだったということ…。
こうして作られた曲の歌詞には雪の表現も盛り込まれ、仲間と過ごした想い出を胸に、前を向いて新しい世界へ踏み出そうというメッセージソングになった。
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