#10 そもそも。
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それはある日の朝のこと。
珍しく朝早くに目が覚めてしまった俺は、家にいてもする事もなく、たまには他の楽器でも鳴らそうかと、時間よりもかなり早くスタジオに行った。
なかなかドラム以外の楽器を触る時間がない。昔はよく遊んでたのにな。
守衛のおっさんにコーヒーの差し入れを渡し、中に入ると…あれ?誰かいんのか?話し声が聞こえる。こんな早い時間には誰も来ないし、今は泊まりになるような仕事もない。
階段を途中まで登ると、男と女の声…
美織ちゃんか?
そう言えば今日、美織ちゃんのレコーディングのリハだったっけ。
「まさかこんなことになるなんて…あの、私が悪いんです…カズヤさんにはご迷惑かけませんから。これから私1人で何とかします。」
「いや、でも俺にも責任あるから…。それに何とかって言っても、もう取り返しつかないし…。」
「そうですよね…。」
え…?もしかして俺、なんか聞いちゃマズイ事聞いちゃった?しかも相手はカズヤ?
どうなってんだよコイツら。
カズヤはうちのローディーチームで一番の若手。主に夏輝の担当。若いけどその仕事振りには定評があり、俺たちの要求にもしっかり応えてくれる。
勉強熱心で、ギターについて語らすと夏輝と何時間でも話してられるという、うちの2代目ギター小僧だ。つうか、お前ら兄弟か?ってくらい仲もいい。
しかも顔もソコソコいい。
イベントやフェスのサウンドチェックでカズヤがステージに現れると、一部ファンからカズヤコールが飛ぶほどだ。
「俺も…一緒に説明に行くから。きちんと謝る。あの時俺がちゃんとしてれば…こんな事にはならなかったんだ。俺が責任取るから、だから美織ちゃんは心配しないで…。」
いよいよヤバイ。これは只事ではない。
だって夏輝のヤツ、明らかに美織ちゃんに惚れてんだろ。春だってそうだ。秋羅にしたって、美織ちゃんを見る目は優しいし、俺だって…
まさか水面下で美織ちゃんとカズヤがそんな事になってたなんて。まぁ、年も近いし無くはないけど。
しかしこの年になって、イケメン4人組が1人の女に一気に失恋するなんて…恐ろしく恥ずかしくてカッコ悪い展開。
これからどうなんだよ。
美織ちゃんのオメデタなんて、事務所も巻き込んでの大問題だぞ…。
「お前なにしてんの?こんなとこで。」
(わーっ!シー!シーッ!)
俺は口に人差し指を当てて小声で必死に言う。夏輝が後ろに立ってた事に全く気付かなかった。それに釣られて夏輝もヒソヒソ声になる。
(何なんだよ?誰かいんの?)
そう言いながら上を見上げる。
「とにかく、夏輝さんたち全員揃ったら俺から正直に話すよ。こういう事は少しでも早く話した方がいいから。みんな優しい人だし、きっと分かってくれるよ…。ね?美織ちゃん、もう泣かないで…。」
「カズヤさん…ごめんなさい。」
「えっ……」
夏輝がフリーズする。
俺は夏輝の肩をポンと叩くと首を振った。
夏輝…諦めろ。
結局俺たちは2階に上がるに上がれず、荷物を置いて一旦スタジオを出た。
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