〈序章 壱〉プロローグ~平安~
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産屋敷家での話し合いから、数ヶ月後──。
『晴明殿、産屋敷家の御当主・耀李様から文が届いて居りますが……?』
「産屋敷様から……ですか?」
『えぇ、でも……文の内容が少々、良く無い様なのですよ。』
「? 良く無い内容……ですか?」
『えぇ……。 兎に角、先ずは此れを御確認下さい。 どうぞ……。』
「済みませぬ、雪菜様。 では、文を拝見致しますぞ?」
『えぇ……。』
スッ……。
届いた文を晴明に差し出しながら、困惑している様子の雪菜だが……?
差し出された文を受け取りながら、晴明は文の内容に目を通す事にしたのだった。
産屋敷家当主からの文には、この様な内容が書かれて居た。
カサリ……。
「何々……?」
「“拝啓 安倍晴明様、雪菜様。
如何御過ごしでしょうか。 私共、産屋敷家では近頃……奇妙な事が続いて居ります。
一族の者が突然、不審な死を遂げる……。本家分家関係無く、若い者に一向に治らぬ病に罹る者が出る……。
……等の不吉な事柄ばかりが続いて居るのです。 私自身にも〝呪い〟なのかどうかは別として……顔に爛れの様な出来物が現れました。 この様な出来事に対し……相談出来る方が限られた為、貴殿方に文を御出しした次第です。 一度、我が屋敷へ来て頂けぬでしょうか? 御検討の程を……宜しくお願い申し上げます。
敬具 産屋敷耀李”」
「何と……!」
『晴明殿、明日にでも産屋敷家へ行く事は可能でしょうか……?』
「その方が良いかも知れませぬな……。
文の内容を察するに、一刻の猶予は余り……無いかも知れません。」
『承知して居ります……。
私とて、帝に仕える宮廷陰陽師です。 その位の覚悟は……既に、出来て居ります。』
「判りました、明日一番に産屋敷家へ向かう事と致しましょう。」
『えぇ……。』
* * * *
ー翌日ー
早速、産屋敷家への先触れを出した後……雪菜と晴明は昨日の通り、産屋敷家へと向かったのだった。
ー産屋敷邸ー
久方振りに会った産屋敷家当主の耀李の様子は、文の通りだった……。
額辺り迄の所に、火傷で爛れた様な紫色の痣の様な出来物が現れて居た。
「御二人共、この様な姿にて御会いするのを御許し下さいませ。」
『「!!?」』
そんな当主の様子に驚きはしたものの、雪菜と晴明は二人揃って──。
『いいえ、耀李様。 私共は、宮廷陰陽師です。 帝に仕える身に御座います。
帝の体調を診る事も御座います故、御気に為さらないで下さい。』
「雪菜様の云う通りに御座います。 我等が、耀李様の出来物の進行を遅らせる成り…治す成り…微力ながら、助力させて頂きます。」
「宜しくお願い申します。」
『「誠心誠意、努めさせて頂きます。」』
講して、産屋敷家当主の出来物に対する治癒作業及び屋敷全体に広がった残滓を取り除く除霊作業に、雪菜と晴明は取り掛かるのだった──。
* * * *
雪菜と晴明が、産屋敷家へ何度も通いながら、2つの作業をする事……数日間。
産屋敷家当主の出来物の進行は、若干では有るが……遅らせる事に成功して居た。
しかし、今だに一族の若者が患う病については……進展は診られず、逆に悪化している様子なのだった──。
そんな折り……、或る日の夜──。
???「此処が、“あの”忌々しい一族の屋敷か……。」
そう呟き、屋敷へと歩を進める男が一人……闇に紛れ佇んで居た。
その様子を産屋敷家の門の上にて、眺める鳥が一羽……。
男が屋敷に入って行くのを確認し……何処かへと、飛び立つのだった──。
バサッ……。
* * * *
産屋敷邸の門より飛び立ち、四半刻後──。
バサッ……。
産屋敷邸を離れた鳥は、安倍邸内・雪菜の部屋の窓際に降り立ったのだった。
『! 水月、産屋敷家で何か有った?』
《はい。 夜の闇に紛れ、男が一人……産屋敷邸の中へ入って行きました。》
『分かった。 晴明殿、急ぎ産屋敷家へ向かいましょう!』
「えぇ! 産屋敷様の御身が、心配ですからな。」
『えぇ、無事で在れば良いのですが……。
水月っ! 貴女は、産屋敷邸へ先行して、産屋敷様の様子の確認を! 後、出来たらで構わないから守護をお願い!!』
《承知致しました。》
バサッ……。
式である水月の報告を受け……雪菜と晴明は、急ぎ産屋敷邸へ向かったのだった──。
産屋敷家当主の身を案じながら……。
* * * *
水月が産屋敷邸の門より、飛び立った後の屋敷では……。
ー産屋敷邸内ー
ズッ……。
「?(何だろうか……。 邸の空気が、先程よりも淀んだ様な気がする……。)
其処に、誰か居るのかい?」
???「ふん、私の気に充てられながらも……声を掛けるか。 酔狂な奴だな?」
「君は、誰だい……?」
???「私の名等、どうでも良いだろう?」
「そうも行かないよ。 敵とは云え……相手の事も少し位は、知って置きたいものだよ?」
???「つくづく可笑しな奴だな?」
「其れでも、君の名位は知って置きたいんだけどね?」
???「ふん。」
そんな会話が続く産屋敷邸だが……?
其処へ───。
『“縛”っ!!』
???「!? ぐぅ……、身体の自由がっ……!」
バッ……!
『産屋敷様っ! 御無事ですかっ?!』
「え…えぇ、私は大丈夫です。」
『ホッ……。 良かった、私も晴明殿も心配致しましたよ。』
「わざわざ、駆け付けて下さったんですね……。 有り難う御座います。」
『いえ、礼には及びませんよ。 其れよりも……、彼方ですね。』
「えぇ……。」
「産屋敷様は、此方に……。」
「晴明様……。」
『晴明殿、産屋敷様を……頼みます。』
「承知して居りますので、呉々も無理を為さらぬ様……。 さ、産屋敷様。」
「ゆっ……、水蓮様、相手は何者か判りません。 呉々も、御気を付けて……。」
『(コクリ)』
『さて……先ずは、貴方は何者ですか?』
???「ふんっ! 貴様等に、自身の事をそう易々と話すと思うか?」
『貴方の態度を鑑みるに、無いでしょうね? 流石に。』
???「当たり前だ。 私と貴様等では、何もかもが違う。 寿命も身体の造りさえも……。
そして、貴様の命もな?」
シュッ!
バッ……!
『っ?!!(あ、危なかった……。 攻撃を繰り出すのが速過ぎるのか……避けるのでまぁ、ギリ……か。)』
???「!(チッ、避けたか……。 まぁ良い、小手調べには丁度良いだろう……。)」
『?(ん? 寿命や身体の造り……? まさかっ?!)っ?!………貴方が〝異形の者〟。 其れも……〝鬼の始祖〟と、呼ぶべき者か!』
???「フッ、だとしたら……何とする?」
『無論、退ける迄!!』
ダンッ……!!
『“風よ。我が声に応え、彼の者を屋敷外へ運び給え”!』
ブワッ……!
???「………っ?!(何っ?! 風によって、外に押し出されただとっ?!)」
ズザザッ!
『産屋敷様も貴方に名を聞いたと思うが……私も貴方に今一度、名を問いましょうか。』
???「ふん、貴様に名を教える気は更々無い。
だが……先程の様に、妙な術とやらで縛られるのは、御免被りたいがな?
しかし、奴の字は〝産屋敷〟か……。 本当に、忌々しい限りだな。」
『産屋敷様には、指一本……いえ、髪の毛一本足りとも触れさせはしない。
名を教えてくれるので有れば……考えるが?
教える気が無い、と云うのなら……このまま、術を行使する!』
???「小賢しいっ!」
シュッ!
バッ
『“禁”っ!』
ガキンッ……!!
???「チィッ……!」
『“オン キリキリ バサラ バジリ ウン ハッタ”っ!』
???「ぐっ……!」
二人の攻防は激しさを増して行き……、
会話をしながら闘って居た。
『降参したら、どうなの?』
???「ふん。貴様の様な 奇妙な術を行使する奴に、降参等するか。」
『降参する為らば、考え無くも無いが?
そうで無くば……此の国に於いて、害悪でしか無い貴方を確実に滅す!』
???「ふん、其れもまぁ……やって見れば良いだろう? 此処に居る者は、皆殺しになる運命なのだからな……。 まぁ良い……どうせ、死ぬ命だ。 死ぬ前に、特別に教えてやる。
私の名は〝鬼舞辻 無惨〟。
この世で唯一人の“完璧な生命体”だ。」
『成る程、そう……。 貴方の名は、鬼舞辻 無惨……か。 名からして……貴族に属す名の様だけど?』
鬼舞辻「確かに、私もこの姿に成る前は貴族だったがな。 私の一族は皆、私が殺した。」
『一族を……ね。 為らば尚更、貴方を此処で滅す必要が有る様ね。 貴方はやはり、現し世の人々にとって悪しき者……。
人々を喰らい、己の力へと昇華する……。 更には、月詠の支配せし夜に跋扈する異形の者。
其れにっ! 此処に居る者は皆、私が殺させはしない! 絶対に守りきるっ!
貴方をこのまま見過ごす訳には……行かない! 我が神名に誓い、命を賭して貴方を……いえ、貴様を必ず滅す!
(運命……そんなモノ等、私には一切関係が無い事柄。 その様な物等、自分自身に存在し得る訳が無い上……この国の八百万の神々と同等で在るが故に、自分は死ぬ事すら不可能なのだから……。)』
チャキッ……、スラッ。
雪菜はそう叫ぶと同時に、腰に帯びて居た刀……太刀を抜き、構えた。
そして……──。
『“来たれ闇を切り裂く光の刃 四方を白銀に染め上げる雷の刃よ!電灼光華 急々如律令 !”』
ゴロゴロ……ピカッ、ピシャ―ン!
雷鳴を轟かせながら、堕ちた雷は……無惨に外れる事無く、的中した。
鬼舞辻「?(何だ? 何をしようとしている…?)
っ!! ぎっ、ぎぃやぁぁぁっー!!」
更に、雪菜は懐から呪符を取り出し……刀印を結びながら、呪(九字)を唱えた。
『“臨 兵 闘 者 皆 陣 列 在 前“っ! はぁっ!!』
鬼舞辻「うぎゃあぁぁぁっ―ー!!
(小手調べの筈が……此処迄、追い詰められるとはっ……!!)
チィッ……! 水蓮と、云ったな? 貴様の名……覚えたぞ、次に逢う時はこうは成らぬと思えっ!!」
ダッ……!
断末魔の叫びを上げた無惨は、原型を留められず……肉塊の姿になって居た。
「このままでは、不味いっ!」と感じた無惨は、保々の体で素早く逃亡したのだった……。
『くっ……! 取り逃がしてしまったっ……!! 取り逃がす訳には、行か無かったのにっ!』
其処へ……。
「雪菜様、構いません。 退けて頂いただけでも……上々です。」
雪菜へ声を掛けたのは、晴明に付き添われた産屋敷家当主……耀李だった。
『っ! 産屋敷様……。
申し訳有りません、奴を取り逃がして仕舞いました……。』
「いいえ、雪菜様。 先程も申しましたが、退けて頂けた……此れだけで私は、嬉しいのです。」
『ですが……。』
「良いのです。 其れよりも、雪菜様が奴と対峙した事で、幾つか判明した事も有るのでは……無いですか?」
『ハッ……! 確かに、そうですね……。』
「其れを踏まえ……雪菜様と晴明様に、お願いが有ります。」
産屋敷家当主のお願いに、雪菜と晴明は二人して、顔を見合せ……問うた。
『「? 何でしょうか?」』
「御二方に、私が創立する“組織”の相談役になって頂きたいのです。
そして、産屋敷家御抱え陰陽師を頼め無いでしょうか? 道長様にも、兼任で構わないから……と口添えを致しますので、この通り御願い申します!!」
『「ゑっ?! ゑーーーっ!」』
そう、頭を下げる産屋敷家当主に、雪菜と晴明の二人は……叫んだのだった……。
更に、産屋敷家当主が頭を下げるのは……此れで二度目。……で有るから、二人にしたら……貯まったものでは無い。
困惑した二人は、顔を見合せ……そして──。
「顔を御上げ下さい、産屋敷様。
我々とて、奴を取り逃がしたまま……と云うのも、陰陽師としては不甲斐無い限りです。 しかしながら、雪菜様も私もこのまま引き下がるのは……癪ですからな。」
『えぇ、奴を滅す迄は……引き下がる事は出来ませんもの。』
「では……。」
『「その御話、受けさせて頂きます。」』
「! あ、有り難う御座いますっ!」
『産屋敷様、私共と一緒に精一杯、やって行きましょう?』
「えぇ……! えぇ……!」
後に出来る産屋敷家が管理する“組織”……。
其れこそが……〝鬼殺隊〟と呼ばれる“組織”創立の切欠で有った……。
『晴明殿、産屋敷家の御当主・耀李様から文が届いて居りますが……?』
「産屋敷様から……ですか?」
『えぇ、でも……文の内容が少々、良く無い様なのですよ。』
「? 良く無い内容……ですか?」
『えぇ……。 兎に角、先ずは此れを御確認下さい。 どうぞ……。』
「済みませぬ、雪菜様。 では、文を拝見致しますぞ?」
『えぇ……。』
スッ……。
届いた文を晴明に差し出しながら、困惑している様子の雪菜だが……?
差し出された文を受け取りながら、晴明は文の内容に目を通す事にしたのだった。
産屋敷家当主からの文には、この様な内容が書かれて居た。
カサリ……。
「何々……?」
「“拝啓 安倍晴明様、雪菜様。
如何御過ごしでしょうか。 私共、産屋敷家では近頃……奇妙な事が続いて居ります。
一族の者が突然、不審な死を遂げる……。本家分家関係無く、若い者に一向に治らぬ病に罹る者が出る……。
……等の不吉な事柄ばかりが続いて居るのです。 私自身にも〝呪い〟なのかどうかは別として……顔に爛れの様な出来物が現れました。 この様な出来事に対し……相談出来る方が限られた為、貴殿方に文を御出しした次第です。 一度、我が屋敷へ来て頂けぬでしょうか? 御検討の程を……宜しくお願い申し上げます。
敬具 産屋敷耀李”」
「何と……!」
『晴明殿、明日にでも産屋敷家へ行く事は可能でしょうか……?』
「その方が良いかも知れませぬな……。
文の内容を察するに、一刻の猶予は余り……無いかも知れません。」
『承知して居ります……。
私とて、帝に仕える宮廷陰陽師です。 その位の覚悟は……既に、出来て居ります。』
「判りました、明日一番に産屋敷家へ向かう事と致しましょう。」
『えぇ……。』
* * * *
ー翌日ー
早速、産屋敷家への先触れを出した後……雪菜と晴明は昨日の通り、産屋敷家へと向かったのだった。
ー産屋敷邸ー
久方振りに会った産屋敷家当主の耀李の様子は、文の通りだった……。
額辺り迄の所に、火傷で爛れた様な紫色の痣の様な出来物が現れて居た。
「御二人共、この様な姿にて御会いするのを御許し下さいませ。」
『「!!?」』
そんな当主の様子に驚きはしたものの、雪菜と晴明は二人揃って──。
『いいえ、耀李様。 私共は、宮廷陰陽師です。 帝に仕える身に御座います。
帝の体調を診る事も御座います故、御気に為さらないで下さい。』
「雪菜様の云う通りに御座います。 我等が、耀李様の出来物の進行を遅らせる成り…治す成り…微力ながら、助力させて頂きます。」
「宜しくお願い申します。」
『「誠心誠意、努めさせて頂きます。」』
講して、産屋敷家当主の出来物に対する治癒作業及び屋敷全体に広がった残滓を取り除く除霊作業に、雪菜と晴明は取り掛かるのだった──。
* * * *
雪菜と晴明が、産屋敷家へ何度も通いながら、2つの作業をする事……数日間。
産屋敷家当主の出来物の進行は、若干では有るが……遅らせる事に成功して居た。
しかし、今だに一族の若者が患う病については……進展は診られず、逆に悪化している様子なのだった──。
そんな折り……、或る日の夜──。
???「此処が、“あの”忌々しい一族の屋敷か……。」
そう呟き、屋敷へと歩を進める男が一人……闇に紛れ佇んで居た。
その様子を産屋敷家の門の上にて、眺める鳥が一羽……。
男が屋敷に入って行くのを確認し……何処かへと、飛び立つのだった──。
バサッ……。
* * * *
産屋敷邸の門より飛び立ち、四半刻後──。
バサッ……。
産屋敷邸を離れた鳥は、安倍邸内・雪菜の部屋の窓際に降り立ったのだった。
『! 水月、産屋敷家で何か有った?』
《はい。 夜の闇に紛れ、男が一人……産屋敷邸の中へ入って行きました。》
『分かった。 晴明殿、急ぎ産屋敷家へ向かいましょう!』
「えぇ! 産屋敷様の御身が、心配ですからな。」
『えぇ、無事で在れば良いのですが……。
水月っ! 貴女は、産屋敷邸へ先行して、産屋敷様の様子の確認を! 後、出来たらで構わないから守護をお願い!!』
《承知致しました。》
バサッ……。
式である水月の報告を受け……雪菜と晴明は、急ぎ産屋敷邸へ向かったのだった──。
産屋敷家当主の身を案じながら……。
* * * *
水月が産屋敷邸の門より、飛び立った後の屋敷では……。
ー産屋敷邸内ー
ズッ……。
「?(何だろうか……。 邸の空気が、先程よりも淀んだ様な気がする……。)
其処に、誰か居るのかい?」
???「ふん、私の気に充てられながらも……声を掛けるか。 酔狂な奴だな?」
「君は、誰だい……?」
???「私の名等、どうでも良いだろう?」
「そうも行かないよ。 敵とは云え……相手の事も少し位は、知って置きたいものだよ?」
???「つくづく可笑しな奴だな?」
「其れでも、君の名位は知って置きたいんだけどね?」
???「ふん。」
そんな会話が続く産屋敷邸だが……?
其処へ───。
『“縛”っ!!』
???「!? ぐぅ……、身体の自由がっ……!」
バッ……!
『産屋敷様っ! 御無事ですかっ?!』
「え…えぇ、私は大丈夫です。」
『ホッ……。 良かった、私も晴明殿も心配致しましたよ。』
「わざわざ、駆け付けて下さったんですね……。 有り難う御座います。」
『いえ、礼には及びませんよ。 其れよりも……、彼方ですね。』
「えぇ……。」
「産屋敷様は、此方に……。」
「晴明様……。」
『晴明殿、産屋敷様を……頼みます。』
「承知して居りますので、呉々も無理を為さらぬ様……。 さ、産屋敷様。」
「ゆっ……、水蓮様、相手は何者か判りません。 呉々も、御気を付けて……。」
『(コクリ)』
『さて……先ずは、貴方は何者ですか?』
???「ふんっ! 貴様等に、自身の事をそう易々と話すと思うか?」
『貴方の態度を鑑みるに、無いでしょうね? 流石に。』
???「当たり前だ。 私と貴様等では、何もかもが違う。 寿命も身体の造りさえも……。
そして、貴様の命もな?」
シュッ!
バッ……!
『っ?!!(あ、危なかった……。 攻撃を繰り出すのが速過ぎるのか……避けるのでまぁ、ギリ……か。)』
???「!(チッ、避けたか……。 まぁ良い、小手調べには丁度良いだろう……。)」
『?(ん? 寿命や身体の造り……? まさかっ?!)っ?!………貴方が〝異形の者〟。 其れも……〝鬼の始祖〟と、呼ぶべき者か!』
???「フッ、だとしたら……何とする?」
『無論、退ける迄!!』
ダンッ……!!
『“風よ。我が声に応え、彼の者を屋敷外へ運び給え”!』
ブワッ……!
???「………っ?!(何っ?! 風によって、外に押し出されただとっ?!)」
ズザザッ!
『産屋敷様も貴方に名を聞いたと思うが……私も貴方に今一度、名を問いましょうか。』
???「ふん、貴様に名を教える気は更々無い。
だが……先程の様に、妙な術とやらで縛られるのは、御免被りたいがな?
しかし、奴の字は〝産屋敷〟か……。 本当に、忌々しい限りだな。」
『産屋敷様には、指一本……いえ、髪の毛一本足りとも触れさせはしない。
名を教えてくれるので有れば……考えるが?
教える気が無い、と云うのなら……このまま、術を行使する!』
???「小賢しいっ!」
シュッ!
バッ
『“禁”っ!』
ガキンッ……!!
???「チィッ……!」
『“オン キリキリ バサラ バジリ ウン ハッタ”っ!』
???「ぐっ……!」
二人の攻防は激しさを増して行き……、
会話をしながら闘って居た。
『降参したら、どうなの?』
???「ふん。貴様の様な 奇妙な術を行使する奴に、降参等するか。」
『降参する為らば、考え無くも無いが?
そうで無くば……此の国に於いて、害悪でしか無い貴方を確実に滅す!』
???「ふん、其れもまぁ……やって見れば良いだろう? 此処に居る者は、皆殺しになる運命なのだからな……。 まぁ良い……どうせ、死ぬ命だ。 死ぬ前に、特別に教えてやる。
私の名は〝鬼舞辻 無惨〟。
この世で唯一人の“完璧な生命体”だ。」
『成る程、そう……。 貴方の名は、鬼舞辻 無惨……か。 名からして……貴族に属す名の様だけど?』
鬼舞辻「確かに、私もこの姿に成る前は貴族だったがな。 私の一族は皆、私が殺した。」
『一族を……ね。 為らば尚更、貴方を此処で滅す必要が有る様ね。 貴方はやはり、現し世の人々にとって悪しき者……。
人々を喰らい、己の力へと昇華する……。 更には、月詠の支配せし夜に跋扈する異形の者。
其れにっ! 此処に居る者は皆、私が殺させはしない! 絶対に守りきるっ!
貴方をこのまま見過ごす訳には……行かない! 我が神名に誓い、命を賭して貴方を……いえ、貴様を必ず滅す!
(運命……そんなモノ等、私には一切関係が無い事柄。 その様な物等、自分自身に存在し得る訳が無い上……この国の八百万の神々と同等で在るが故に、自分は死ぬ事すら不可能なのだから……。)』
チャキッ……、スラッ。
雪菜はそう叫ぶと同時に、腰に帯びて居た刀……太刀を抜き、構えた。
そして……──。
『“来たれ闇を切り裂く光の刃 四方を白銀に染め上げる雷の刃よ!
ゴロゴロ……ピカッ、ピシャ―ン!
雷鳴を轟かせながら、堕ちた雷は……無惨に外れる事無く、的中した。
鬼舞辻「?(何だ? 何をしようとしている…?)
っ!! ぎっ、ぎぃやぁぁぁっー!!」
更に、雪菜は懐から呪符を取り出し……刀印を結びながら、呪(九字)を唱えた。
『“臨 兵 闘 者 皆 陣 列 在 前“っ! はぁっ!!』
鬼舞辻「うぎゃあぁぁぁっ―ー!!
(小手調べの筈が……此処迄、追い詰められるとはっ……!!)
チィッ……! 水蓮と、云ったな? 貴様の名……覚えたぞ、次に逢う時はこうは成らぬと思えっ!!」
ダッ……!
断末魔の叫びを上げた無惨は、原型を留められず……肉塊の姿になって居た。
「このままでは、不味いっ!」と感じた無惨は、保々の体で素早く逃亡したのだった……。
『くっ……! 取り逃がしてしまったっ……!! 取り逃がす訳には、行か無かったのにっ!』
其処へ……。
「雪菜様、構いません。 退けて頂いただけでも……上々です。」
雪菜へ声を掛けたのは、晴明に付き添われた産屋敷家当主……耀李だった。
『っ! 産屋敷様……。
申し訳有りません、奴を取り逃がして仕舞いました……。』
「いいえ、雪菜様。 先程も申しましたが、退けて頂けた……此れだけで私は、嬉しいのです。」
『ですが……。』
「良いのです。 其れよりも、雪菜様が奴と対峙した事で、幾つか判明した事も有るのでは……無いですか?」
『ハッ……! 確かに、そうですね……。』
「其れを踏まえ……雪菜様と晴明様に、お願いが有ります。」
産屋敷家当主のお願いに、雪菜と晴明は二人して、顔を見合せ……問うた。
『「? 何でしょうか?」』
「御二方に、私が創立する“組織”の相談役になって頂きたいのです。
そして、産屋敷家御抱え陰陽師を頼め無いでしょうか? 道長様にも、兼任で構わないから……と口添えを致しますので、この通り御願い申します!!」
『「ゑっ?! ゑーーーっ!」』
そう、頭を下げる産屋敷家当主に、雪菜と晴明の二人は……叫んだのだった……。
更に、産屋敷家当主が頭を下げるのは……此れで二度目。……で有るから、二人にしたら……貯まったものでは無い。
困惑した二人は、顔を見合せ……そして──。
「顔を御上げ下さい、産屋敷様。
我々とて、奴を取り逃がしたまま……と云うのも、陰陽師としては不甲斐無い限りです。 しかしながら、雪菜様も私もこのまま引き下がるのは……癪ですからな。」
『えぇ、奴を滅す迄は……引き下がる事は出来ませんもの。』
「では……。」
『「その御話、受けさせて頂きます。」』
「! あ、有り難う御座いますっ!」
『産屋敷様、私共と一緒に精一杯、やって行きましょう?』
「えぇ……! えぇ……!」
後に出来る産屋敷家が管理する“組織”……。
其れこそが……〝鬼殺隊〟と呼ばれる“組織”創立の切欠で有った……。