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塔矢夢短編

◇等価交換◇

目の前にはお皿、その左右にはフォーク、スプーン、ナイフが綺麗に配置されている。
1年前の私だったら料理を迎える前にこの光景を見ただけで目眩ものだった。
ちょうど1年経った今日、少しは書籍やらネットで知識を賄って、慣れた様な手つきで彼の前で食事をする。

「偉い、勉強したんだね。」

メインディッシュが出てくる頃には、彼に煽てられてしまったんだけども。

「さすがに1年も猶予があれば、やりますとも」

忘れもしない1年前。初デートのランチにアキラ君に連れられた場所が、まさかの洋食フルコース料理のレストランで当然何も構えていなかった私は終始手元が落ち着かずカッコ悪いところを見せてしまった上に一緒に居て恥ずかしい思いをさせて申し訳なかったと後悔。でも彼は、そんな緊張しなくて平気。ウェイターだって間違えてる。と、ナプキンを空いてる机に置いているウェイターに目を向けながら教えてくれた。その人の行動は洋食マナーではタブーだったらしい。しかもその初デートの日が自分の誕生日だったことも私に言わなかった彼。
あとで問いただすと、君に気を遣わせたくなかったんだ。と、優しい彼らしい答え。それから一緒にご飯を食べたりどこか行ったりする時も交通費以外のお金は必ず彼もちなのだ。
その場で返そうとしても、いらないの一点張りでさすがにこのままではダメ人間になってしまうし、彼自身も優しくてしっかりしてるからこそダメ人間製造器になってしまう。
もちろん、去年お祝いができなかったアキラ君の誕生日をお祝いするのが真の目的だけど、その裏ではお互い今の感覚が通常運転にならないようにそろそろ目を覚まそう。と渇を入れるのも今日の真の目的。

「──ちょっと席外すね。」

最後のデザートとホットドリンクまで揃ったタイミングでお手洗いに化粧直しに行くフリしてポーチをもって席をはずす。
まずは本当に軽く化粧直しをしてよし、今日こそは。と、意気込んでお会計へ一直線。

「お会計お願いしたいんですけど」

そう言うとウェイターが口角を上げてお会計済みですよ、と一言。
ポーチに忍ばせていたクレジットカードに手を伸ばしているところで言われてしまい、つい目を見開いてしまった。

「おかえりなさい」
「アキラ君、今日誕生日でしょう?そういう時は男女とか関係なく───」
「僕は等価交換のつもりなんだけど。」
「はい?」

足早に席に戻れば、等価交換と言われて情報処理が追いつかない。

「その服やメイク、ヘアセットにだってお金や時間がかかっているわけでしょう?もう十分僕にお金や時間を使ってくれてるからこれぐらいは払わせてよ。」

プライベートでも非の打ち所がない彼に、屈託のない笑顔でそう言われてしまったらもう、一ころ。
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