ヒロアカ短編集

◇爆豪くんがグリコで帰らせてくれない◇

「第1回A組トランプ王決定戦」で負けたので、ペナルティとして、みんなのお菓子を買いに行った。
ペナルティは男女それぞれのビリがお菓子を買いに行くという掟。
それが、まさかの爆豪くんと行くことになるとは……。
強運爆豪くんのイメージだったから、内心驚いた。

今は、その帰り道。淡いオレンジの空が広がっている。
手ぶらの私の隣には、膨らんだビニール袋を両手に持つ爆豪くん。私も1袋持とうとしたんだけど、無言で奪われてしまった。
……なるほど。これは女子としての気遣いでは無く、筋トレをするためなんだな。と、妙に納得してしまった。1分1秒たりともプロヒーローになる為の特訓を惜しまない爆豪くんなら合点がつく。
ここまで、ほぼ無言なんだけど、爆豪くん意外と優しい。私を置いて先に寮へ帰ってもいいのに、なぜかこうして隣を歩いてくれている。

雄英の正門まで、あと一本道。
なんだかこのまま話さないのも、モヤモヤする。
でも何を話せばいい?何を話しても、無言で終わるかキレられるかの2択しか思い浮かばない。
それを考えるだけでも、心臓がドクドクいっている。
けど、爆豪くんとこのまま話さずして、いつ話すの?今でしょ……!

「爆豪くん」

なんとか、いつも通りの声を出して名前を呼べた。
ギロリと爆豪くんの赤い瞳がこちらを見る。
小さく息を吸って覚悟を決める。

「正門まで、グリコじゃんけんしない?」

一瞬の脳内会議の結果、ただ話すのでは無く、健全に拳で語り合うことにした。

「は?」

爆豪くんの目が一瞬見開く。

「普段爆豪くんと話すこと、そうそう無いからさ。はい、そういうわけで最初はグー。じゃんけん──」

謎の理由を添えながら、彼に考える余地を与えず、じゃんけんをする。条件反射のように爆豪くんも手を出してきた。

開始数分後、グリコじゃんけんで争い勃発。
私がグーで勝った時に、「グリコのおまけ」で、進んだ時だった。

「てめェ、チート使ってんじゃねえ!」

爆豪くんがキレた。

「チートとは人聞きが悪いなァ。ルールに則ってんだけど?それに、爆豪くんだって早く帰りたいでしょ。」
「う゛る゛っせェ。チート使って勝っても、完膚なきまでの勝利じゃねぇんだわ、クソが!」

爆豪くんの発する一音一音、全てに濁点がついているように聞こえてクスッと、笑ってしまう。

「分かったよ。」

本当は、こんなことに時間を使いたく無いはずだろうに、全力で付き合ってくれる爆豪くんは優しい。


それからまた、何分か経ってついに最終局面。

「グ・リ・コ!」

私は声に合わせて、弾みをつけ3歩進んだ。
最後の一歩が正門を越え、完膚なきまでの勝利をキメる。
勝負事には強そうな爆豪くんに勝てて、気持ち晴れやかだ。それと同時に、じゃんけんが終わって不思議と名残惜しい。
振り返って「全力で遊んでくれてありがとう。」と言おうとしたら、烈火の如く顔を赤くした、お怒りの爆豪くんが居た。
今、ありがとうなんて言ったら火に油を注いでしまいそうで、狼狽えていると、爆豪くんがボソリと呟く。

「……てめェ。このまま、ただで帰れると思ってんじゃねーぞ。」
「え?」
「次は寮までだ。オラ、さっさと構えやがれチート女ァ!!」
「もう潔く帰ろうよー!!」

私の慟哭にも近い叫びは、虚しくも夕焼け空へと吸い込まれていった。
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