ヒロアカ短編集

◇調理実習【轟焦凍】◇

それは非常食を作る訓練として調理実習を行なっていたある日のこと。

「いっ…たぁー!」

包丁で野菜を切っていると指を切ってしまった。同じグループの緑谷君にお茶子ちゃんが救急箱を探しに行ったり、やおももに頼むなりしてくれてる間にとりあえず切り口から流れ出る血を蛇口を捻って洗おうとすると、急に怪我した方の手首を掴まれ、視線を上げた先には轟君。

「えーっと、どうされました?」
「……」

ジッと指を見つめられてどうすればいいのか分からずにいるとあろうことかそのまま彼は、口に入れて咥えてしまったのだ。
当然、時間はかからなかった。自分の足の爪先から頭のてっぺんにまで熱が伝わっていくのに。

「と、轟君!!」

私のどでかい声が教室に響き渡り、みんな目を丸くする中、彼は表情一つ変えずに動じることなくまだ咥えたまま。

「あっああ……あの、絆創膏」
「ありがとう」

緑谷君がなんとか間に割ってくれたおかげで私の指が轟君から解放。

「……悪かった。無意識だった」

そこでやっとの謝罪と私も平常心を取り戻す。

「まず聞きたい、あの行動は何が起きてこうなったの」
「止血」

あれだけのことを人前で恥を忍ぶ様子もなくやってしまったというのに、たった2文字でまとめてしまう彼を「無頓着大王ショート」と、改名したくなった。


「ありがとう、その気持ちにはお礼を言うよ。けど、そういう高度な恋愛テクは、落としたい女の子の為に取っておかなきゃ。私に使うべき技じゃないでしょう?」

気持ちが荒ぶってるのが自分でもよく分かる。言ってること支離滅裂だ。せっかく取り戻した平常心よどこへやら。
とにかく伝えたいのは、無駄に気を持たせないで欲しい。なぜなら今の自分は普通の女の子になれる自信がないから。

「……」

そこで黙り込む、轟君。止めてくれ。
お願いだから勘違いさせないで、期待させないで欲しい。彼の一時の沈黙が刻々と焦りを増長させる。

「……分かった、気をつける」

やっと出た一言と共にどこか拗ねた様子の反応も感じ取れて釈然としない。

「うん、ありがとう。そうしてくれると助かる。」

そう、プロヒーローを目指しているのに彼1人に感情揺さぶられて本業手づかずなんて、あってはならないこと。

──────もし、ヒーローを目指してない、普通の女の子だったら。彼の行動に可愛く反応してみせて、笑ってありがとう。なんて、優しく返せたんだろうな。


4/7ページ
    スキ