伊角夢短編集
◇ハンカチ(フォロワーさんからのお題リベンジver.)◇
無意識に彼の手元を追いかけていた。
そのワケは私の目を引く原因となる、紺色のハンカチ。伊角君が初めてこのブランド物のハンカチを使うところを見てからは、こんな言い方失礼かもしれないけど、特にこだわりなさそうなのにそういうの、使うんだな。って、そう思ってからは視界に入るたびに自然と追うように。
「──これ?」
ある日仕事が重なって、休憩時間のランチを一緒にしているとついにバレて。
「ブランド物使うんだなって思って……。」
目の前に居る彼が目を丸くしたのを見て失礼な言い方が表に出てしまったことにやっと気づき、えっと悪い意味じゃなくて。と、もう無意味に等しい訂正を必死にしようとすると笑われてしまった。
「そうだよなぁ。やっぱ俺にこういうのは似合わないよな、自分でもそう思う」
「な、なんかごめん」
「別に気にしてないよ」
流れる沈黙。自分から話題を振っておいて中途半端にっていうのもなんだか悪い気がして口を開いた。
「……大事そうに使ってるよね。」
シワ一つ見当たらないハンカチ、使う度に綺麗に畳んでポケットにしまう動作を見ていてのことでそう言うと、伏し目がちになる伊角君。
「どうしても、忘れられない人が居てさ。その人から最初で最後にもらった物がこのハンカチで。……未練がましいよな。もう彼女とのことは1年も前の事なのに、まだ捨てる気にならないんだ。」
ぽつりぽつりと出てくる、このハンカチの真相。
自分が粗相のないようにとしたことが、裏目に出てしまいもはや修正は不可。
「別れてからやっと気づいたんだよ、彼女のこと結構好きだったんだなって。それじゃもう遅いって分かってるのに。」
「その彼女とは喧嘩か何かで別れたの?」
こうなったらと厚かましいことにさらに話を聞けば、彼女が就職と同時に遠方に行ってお互い忙しくて連絡を取らないうちに自然消滅になってしまったとのこと。
「それ、別れたって言わない。まだ間に合うから。ほら、残りの休憩時間、彼女のためにメール1件作る時間に充てなさいよ。」
「あ、何円だっけ?」
「いいよ。君のことだから、大丈夫だとは思うけど今後、対局とかにも影響しないようにこの件は白黒ハッキリさせといて。それじゃあね。」
勘定用のレシートを持って腰を浮かすと
「ありがとう。お前には昔から助けてもらってばっかりで、本当にいい仕事仲間持ったと思ってる。」
彼らしい屈託のない笑顔でそう言われて、伊角君に対しての自分の本当の気持ちに気づくのが遅かったのは私の方だったんだと、やっと自覚した。
「──その子と、上手くいくといいね。頑張れ。」
その気持ちを隠すかのように、精一杯の笑顔で。
無意識に彼の手元を追いかけていた。
そのワケは私の目を引く原因となる、紺色のハンカチ。伊角君が初めてこのブランド物のハンカチを使うところを見てからは、こんな言い方失礼かもしれないけど、特にこだわりなさそうなのにそういうの、使うんだな。って、そう思ってからは視界に入るたびに自然と追うように。
「──これ?」
ある日仕事が重なって、休憩時間のランチを一緒にしているとついにバレて。
「ブランド物使うんだなって思って……。」
目の前に居る彼が目を丸くしたのを見て失礼な言い方が表に出てしまったことにやっと気づき、えっと悪い意味じゃなくて。と、もう無意味に等しい訂正を必死にしようとすると笑われてしまった。
「そうだよなぁ。やっぱ俺にこういうのは似合わないよな、自分でもそう思う」
「な、なんかごめん」
「別に気にしてないよ」
流れる沈黙。自分から話題を振っておいて中途半端にっていうのもなんだか悪い気がして口を開いた。
「……大事そうに使ってるよね。」
シワ一つ見当たらないハンカチ、使う度に綺麗に畳んでポケットにしまう動作を見ていてのことでそう言うと、伏し目がちになる伊角君。
「どうしても、忘れられない人が居てさ。その人から最初で最後にもらった物がこのハンカチで。……未練がましいよな。もう彼女とのことは1年も前の事なのに、まだ捨てる気にならないんだ。」
ぽつりぽつりと出てくる、このハンカチの真相。
自分が粗相のないようにとしたことが、裏目に出てしまいもはや修正は不可。
「別れてからやっと気づいたんだよ、彼女のこと結構好きだったんだなって。それじゃもう遅いって分かってるのに。」
「その彼女とは喧嘩か何かで別れたの?」
こうなったらと厚かましいことにさらに話を聞けば、彼女が就職と同時に遠方に行ってお互い忙しくて連絡を取らないうちに自然消滅になってしまったとのこと。
「それ、別れたって言わない。まだ間に合うから。ほら、残りの休憩時間、彼女のためにメール1件作る時間に充てなさいよ。」
「あ、何円だっけ?」
「いいよ。君のことだから、大丈夫だとは思うけど今後、対局とかにも影響しないようにこの件は白黒ハッキリさせといて。それじゃあね。」
勘定用のレシートを持って腰を浮かすと
「ありがとう。お前には昔から助けてもらってばっかりで、本当にいい仕事仲間持ったと思ってる。」
彼らしい屈託のない笑顔でそう言われて、伊角君に対しての自分の本当の気持ちに気づくのが遅かったのは私の方だったんだと、やっと自覚した。
「──その子と、上手くいくといいね。頑張れ。」
その気持ちを隠すかのように、精一杯の笑顔で。