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伊角夢短編集

◇慎ましくも幼気いたいけな彼◇

飲み会の席にて隣に座っていた伊角君に、突如強めに当てられた膝。席は詰めて座っていて、足を広げたかったのかもと最初は気にしてなかったのに、2回、3回連続できたら黙ってられなくなった。

「そうなんですね。」

素知らぬ態度でその上、笑顔で相槌を打つ彼の手の甲をつねり、仕返し。そこからテーブル下で戦いの火蓋は切られた。
最初の膝を当てる、つねるに加えて手の甲に爪を立てる、足を踏むは当たり前。実にやっていることは、小学生である。お互いに。

「あのさ、何なの?」

詰問口調で話をしたのは、一次会が終わって二次会に捕まらずすり抜けた頃。まだ公にはしてないけど恋仲にある彼と駅までの道を横並びで歩いていた。
遠音のクランクションや救急車のサイレンが、私の問いかけに伊角君が口を開くまでの沈黙を緩和させているようで、心地よく聴こえた。

「異性に可愛いって褒められて上機嫌だったのを見て、つい……ごめん。」
「ついを通り越して結構本気だったよね。」
「……否定はしない。」

名前の通り慎ましいイメージが強い伊角君の感情表現があまりに対照的で、幼気いたいけなところに惹かれる。
同時にヤキモチを妬いてくれたのが嬉しくて徐々に頬へ熱が溜まっていく。

「何も不安がる必要ないよ、ヤキモチが嬉しくて体温が上がるのは伊角君だけだからね。」

私は自分の言ったことを証明したくて、勝手に彼の空いている手を取り、熱が溜まった自分の頬に添えさせた。すると伊角君は、満足そうに顔を綻ばせながら、ホントだ。と一言言った。
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