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伊角夢短編集

◇ハンカチ(special thanks:ちはやさん!)◇

「……」

駅でハンカチを拾った。
隅っこに落ちていたので死角でなかなか気づきにくかったのか
誰1人として気づいてない様子でポツンと置いてあった。

そのハンカチは黒と白の丸が刺繍されていて碁石のように見えた。
そしてふんわり香る、柔軟剤のいい香り。
和谷との待ち合わせ時間にもまだ余裕があったし駅員に届ける。

駅員と話してる最中に

「あのっ、ハンカチの落し物ありませんでしたかっ!?」

女性の声。
ハンカチと同じ香りで振り向かなくて
なんとなく、持ち主だと言うのが分かった。

「あぁ、それならちょうど彼が」

駅員の声は耳に届いておらず
焦って身振り手振りで
右下に黒と白の丸い刺繍がしてあって、色が。と、ハンカチの説明をしていてつい、プッと笑ってしまった。

「ちょうど俺が拾いましたよ。」
「あっ…すいません、ありがとうございました。」

ハンカチを手渡すと
恥ずかしそうにしながらお辞儀を一回してくれた。

駅員のところから離れた後も
彼女がお騒がせしました。と改めて丁寧にお辞儀をしてくれた。

「…その刺繍、碁を打っているんですか?」
「よく気づきましたね。そうなんですよ。でも打ってるといってもまだ始めたばかりで…
今日もこれから友達と碁会所に行くとこなんです。」
「そうなんですね。
実は俺もこれから友達と────」


まさか、あのハンカチを拾っただけで
これから彼女と恋仲になるなんて予想出来るわけもなく。

そんな出会い方ドラマや映画の世界だけだと思っていた。

駅なんて何人もの人が通る中で
このハンカチが碁を打っている彼女を手繰り寄せてくれたから、運命ってものを始めて信じた。
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