和谷夢短編集
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◇勘違い記念日◇
『帰り、駅に着いたら教えて。』
寒さに拍車がかかる日昼休み。外に出るのすら億劫で、休憩所で店屋物を食べてる時に、同棲したばかりの彼女から珍しくこんなメールが届いた。俺はそれに対して、分かった。と一言だけ返信をした。
それからケータイを閉じて急遽思考を巡らせる。今までこんなメールを寄越してきたことはないからだ。
なんで駅に着いたらメールなんだろうか。ちなみに駅から家までは徒歩10分くらいで、その時間が彼女にどう関係するのか全く検討がつかない。
駅前のスーパーに寄って欲しいとか?でも、何か買って欲しいなら、こんな遠回しなメールを送るようなヤツでは無い。
なんて、的外れなことを考えてみたり、ついにはこんな考えに至った。
もしかして、何かの記念日か?それで手の込んだ料理準備して驚かせようとしてるとか?
向こうが覚えてて俺が忘れてる記念日?
……ダメだ、なんにも思い出せねー。
「和─」
「冴木さん!俺どうすればいい?」
「人が呼び終わる前に振り返って、びっくりさせんな。」
「へへっ、ごめん。」
何も手を打ってすらいないのに、気持ちは早くも万策尽きた状態で冴木さんの声が聞こえて、俺は咄嗟に振り返ってしまった。
「んで、どーした?」
冴木さんが机を挟んで俺の前に座り、仕切り直して、問いかけてくれたから、さっきの出来事を話した。
すると冴木さんが俺を見てニヤニヤしながら言った。
「真剣な顔つきで話すから何事かと思いきや……。ただの惚気か。」
「どこが。」
「お前、構えすぎなんだよ。ただ単に彼女にとって何か良いことがあって、ご馳走作って和谷を驚かせたいだけかもしれないだろ?」
今の彼女とは、何もかもが初めてなんだから構えて当然。と言いそうになった声を呑み込む。俺が口を開こうとする前に、続けて冴木さんが言った。
「まぁ、そんなに心配なら焼き菓子の一つでも買って、一言謝ればいいんじゃないか?」
食べ物で釣って解決しようとしてる感が否めないけど、そもそも彼女のあのメッセージの意図が分からないから、(いや意図すらも無いかも)それが一番いい解決策に思えた。
「……ん、そうしてみる。ありがと、冴木さん。」
彼女からのメッセージの話はこれで一区切りついて、真っ先に冴木さんはやっぱ頼りになるな。と思った。
それから休憩が終わるまでは、他愛の無い会話のやりとりをして、午後も指導碁に励んだ。
そして彼女に言われた通り、駅に着いたメールを送って、家に着いた。もちろん、小さなケーキボックスが俺の右手にはある。
いつもよりも少し緊張しつつ、玄関の戸を開けた。
「和谷くん、おかえり。」
その声が聞こえた瞬間、すかさず俺は口を開いた。
「ごめん。思い出そうとしたんだけど、今日なんの記念日か全然思いだせなくてさ。ケーキだけで悪い。」
そう言って、靴を脱がずに彼女にケーキボックスを渡すも、彼女は困った顔をしていて、俺は混乱した。
「……あ、ありがとう。何か今日、記念日になるような事あったっけ?」
「いや、駅に着いたら教えてってメール普段来ないから、なんか、てっきりそうなのかと……。」
そこでようやく勘違いだった、と気づいた。首から耳の端まで熱くなっていく。そのまま押し黙る俺を見て、彼女が小さく笑った。
「じゃ、和谷くんの勘違い記念日にしよっか。」
「ちっせー記念日だな。」
俺も彼女につられて笑いながらそう答えた。
結局、駅に着いたら……のメッセージは、彼女がちょうどいい暖かさで俺にご飯を準備する為だったらしい。
「この間、味噌汁で和谷くんの舌火傷させちゃったから、反省の意も込めてのメッセージでした。」
今咄嗟に思いついただろうことを言って、彼女は口角を緩めながら、俺の目の前でケーキを幸せそうに食べていた。それを眺めながら、俺は程よい温かさの味噌汁を飲んだ。
今さっき出来た記念日と、このご飯の温かさの気遣いで小さな幸せが積み重なっていく幸福感を覚えながら。
『帰り、駅に着いたら教えて。』
寒さに拍車がかかる日昼休み。外に出るのすら億劫で、休憩所で店屋物を食べてる時に、同棲したばかりの彼女から珍しくこんなメールが届いた。俺はそれに対して、分かった。と一言だけ返信をした。
それからケータイを閉じて急遽思考を巡らせる。今までこんなメールを寄越してきたことはないからだ。
なんで駅に着いたらメールなんだろうか。ちなみに駅から家までは徒歩10分くらいで、その時間が彼女にどう関係するのか全く検討がつかない。
駅前のスーパーに寄って欲しいとか?でも、何か買って欲しいなら、こんな遠回しなメールを送るようなヤツでは無い。
なんて、的外れなことを考えてみたり、ついにはこんな考えに至った。
もしかして、何かの記念日か?それで手の込んだ料理準備して驚かせようとしてるとか?
向こうが覚えてて俺が忘れてる記念日?
……ダメだ、なんにも思い出せねー。
「和─」
「冴木さん!俺どうすればいい?」
「人が呼び終わる前に振り返って、びっくりさせんな。」
「へへっ、ごめん。」
何も手を打ってすらいないのに、気持ちは早くも万策尽きた状態で冴木さんの声が聞こえて、俺は咄嗟に振り返ってしまった。
「んで、どーした?」
冴木さんが机を挟んで俺の前に座り、仕切り直して、問いかけてくれたから、さっきの出来事を話した。
すると冴木さんが俺を見てニヤニヤしながら言った。
「真剣な顔つきで話すから何事かと思いきや……。ただの惚気か。」
「どこが。」
「お前、構えすぎなんだよ。ただ単に彼女にとって何か良いことがあって、ご馳走作って和谷を驚かせたいだけかもしれないだろ?」
今の彼女とは、何もかもが初めてなんだから構えて当然。と言いそうになった声を呑み込む。俺が口を開こうとする前に、続けて冴木さんが言った。
「まぁ、そんなに心配なら焼き菓子の一つでも買って、一言謝ればいいんじゃないか?」
食べ物で釣って解決しようとしてる感が否めないけど、そもそも彼女のあのメッセージの意図が分からないから、(いや意図すらも無いかも)それが一番いい解決策に思えた。
「……ん、そうしてみる。ありがと、冴木さん。」
彼女からのメッセージの話はこれで一区切りついて、真っ先に冴木さんはやっぱ頼りになるな。と思った。
それから休憩が終わるまでは、他愛の無い会話のやりとりをして、午後も指導碁に励んだ。
そして彼女に言われた通り、駅に着いたメールを送って、家に着いた。もちろん、小さなケーキボックスが俺の右手にはある。
いつもよりも少し緊張しつつ、玄関の戸を開けた。
「和谷くん、おかえり。」
その声が聞こえた瞬間、すかさず俺は口を開いた。
「ごめん。思い出そうとしたんだけど、今日なんの記念日か全然思いだせなくてさ。ケーキだけで悪い。」
そう言って、靴を脱がずに彼女にケーキボックスを渡すも、彼女は困った顔をしていて、俺は混乱した。
「……あ、ありがとう。何か今日、記念日になるような事あったっけ?」
「いや、駅に着いたら教えてってメール普段来ないから、なんか、てっきりそうなのかと……。」
そこでようやく勘違いだった、と気づいた。首から耳の端まで熱くなっていく。そのまま押し黙る俺を見て、彼女が小さく笑った。
「じゃ、和谷くんの勘違い記念日にしよっか。」
「ちっせー記念日だな。」
俺も彼女につられて笑いながらそう答えた。
結局、駅に着いたら……のメッセージは、彼女がちょうどいい暖かさで俺にご飯を準備する為だったらしい。
「この間、味噌汁で和谷くんの舌火傷させちゃったから、反省の意も込めてのメッセージでした。」
今咄嗟に思いついただろうことを言って、彼女は口角を緩めながら、俺の目の前でケーキを幸せそうに食べていた。それを眺めながら、俺は程よい温かさの味噌汁を飲んだ。
今さっき出来た記念日と、このご飯の温かさの気遣いで小さな幸せが積み重なっていく幸福感を覚えながら。