◇パイナップル紅茶◇

「その、パイナップル紅茶ってやつ、美味しいの？」

　私は目の前に居る和谷に聞いた。プロ試験本戦で休憩中、必ずと言っていいほど飲んでいたから。
　すると、和谷が何も言わずに飲みかけのパイナップル紅茶を私に突き出した。その瞬間、私の思考が停止する。

「冗談だって。」

　ニッと笑みを浮かべて言った和谷の声で、私の思考はまた平常運転に戻る。悔しいことに私はたった今、和谷に一瞬だけ思考を操られてたらしい。
　一人悔しい思いをしてると、和谷が冷蔵のショーケースから新しいパイナップル紅茶のペットボトルを取った。

「お前、意外とからかい甲斐があるヤツだな。」

　和谷に最後まで言われっぱなしで、私は黙ってパイナップル紅茶を受け取る。
　悔しいから、今からでもその飲みかけのパイナップル紅茶を飲んでやろうかと思いながら。