和谷夢短編集
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◇Another birthday◇
「誕生日おめでとう、和谷くん。」
現在8月23日某居酒屋にて。本来の俺の誕生日とは微妙に離れているこのタイミングで、俺は毎年、彼女からこの言葉と共にプレゼントを貰う。
素直に、ありがとう。と、俺が返すと彼女は唐突に言った。
「なんか、毎年ごめんね。」
「なんで謝るんだよ。」
笑顔が引き攣っている彼女に理由を聞いた。
俺の友達が気遣って、毎年、誕生日当日である8月23日に私と2人で過ごせるようにしてくれてるから申し訳ない、と。
彼女がそう思うのも無理ない。
今のところ、俺と彼女の関係は同じ歳で碁会所で知り合った、ただの囲碁友達という関係。だから、伊角さん達よりも自分が優先されるのを不思議に思うのも仕方がないことだ。
そもそもこの現況を作り出したのは、俺だけではない。
今から3年前の8月23日に、前触れもなく突然、彼女から遊びに行こうと誘われたのが発端だった。色々と遊びに行った後、彼女が予約してくれたレストランで、ディナーを食べ終わると、彼女の誕生日おめでとうという言葉と共に店員がホールケーキを持ってきた。
火が灯るろうそくが刺さっている、ホールケーキを目の前に、唇を一直線に締めたまま、目を瞬かせていた俺に彼女は言った。
『あれ、もしかして、和谷君の誕生日って今日じゃなかった!?碁会所の常連さんが今日だって教えてくれたんだけど…。』
『いや、びっくりしただけ。……ありがとな。』
俺1人のために今日1日の計画を練ってくれた彼女に、誕生日は8月12日だと打ち明けるのは悪い気がしてしまった。
でも、その気持ちがあったのは最初の年だけ。次の誕生日を迎える頃には、彼女との仲がさらに深まり、彼女に惹かれていく自分に気づいた。
だから、欲深くも彼女と確実に会えるからという理由で、そのまま本当の誕生日は教えず、今日に至る。
「和谷君の周りの人だけじゃなくてさ、和谷君自身も優しいから、私に付き合ってくれて本当に申し訳ない。今日も付き合ってくれてありがとね。」
まるで泣き上戸みたいに急に感謝しだす彼女。
ちなみにアルコールはまだ一口も飲んでない。素でこういうヤツ。
「……あのさ、お前が申し訳なく思う必要1ミリもないからな。」
「え?」
毎年、8月23日に俺を誘うのに、前置きに『ダメ元なんだけど』と彼女に言わせるのはもうおしまい。
「俺の誕生日、ほんとは8月12日だから。」
そう彼女に伝えると沈黙が訪れる。
少し間が空いて沈黙を破ったのは彼女だった。彼女はテーブルに突っ伏しながら言った。
「ずっと間違えて覚えてて今、ものすごく恥ずかしい。教えてくれればよかったのに…。」
彼女の表情は全く読み取れない。でも、声色からして怒ったり、悲しんでいるようではなかった。
そんな彼女に俺は言う。
「間違えて覚えてる方が、8月23日、お前に絶対に祝ってもらえるだろ。」
だから、今まで本当のことを言えなくて悪かった。と。
言ったあとで、頬から耳にかけて熱が溜まっていくのが分かる。
すると、突っ伏していた彼女が顔を上げる。彼女の両頬は淡いピンク色に染まっていた。今の俺と同じ状況みたいだ。
「……もし私が和谷君だったら、私も多分、和谷君と同じことしてたと思う。」
俺とは視線を合わせず、俯きがちにそう呟く彼女がとても愛おしく思えた。
そして、この8月23日が俺たちにとって特別な日であることは、付き合い始めて、苗字が一緒になっても変わることは無かった。
「誕生日おめでとう、和谷くん。」
現在8月23日某居酒屋にて。本来の俺の誕生日とは微妙に離れているこのタイミングで、俺は毎年、彼女からこの言葉と共にプレゼントを貰う。
素直に、ありがとう。と、俺が返すと彼女は唐突に言った。
「なんか、毎年ごめんね。」
「なんで謝るんだよ。」
笑顔が引き攣っている彼女に理由を聞いた。
俺の友達が気遣って、毎年、誕生日当日である8月23日に私と2人で過ごせるようにしてくれてるから申し訳ない、と。
彼女がそう思うのも無理ない。
今のところ、俺と彼女の関係は同じ歳で碁会所で知り合った、ただの囲碁友達という関係。だから、伊角さん達よりも自分が優先されるのを不思議に思うのも仕方がないことだ。
そもそもこの現況を作り出したのは、俺だけではない。
今から3年前の8月23日に、前触れもなく突然、彼女から遊びに行こうと誘われたのが発端だった。色々と遊びに行った後、彼女が予約してくれたレストランで、ディナーを食べ終わると、彼女の誕生日おめでとうという言葉と共に店員がホールケーキを持ってきた。
火が灯るろうそくが刺さっている、ホールケーキを目の前に、唇を一直線に締めたまま、目を瞬かせていた俺に彼女は言った。
『あれ、もしかして、和谷君の誕生日って今日じゃなかった!?碁会所の常連さんが今日だって教えてくれたんだけど…。』
『いや、びっくりしただけ。……ありがとな。』
俺1人のために今日1日の計画を練ってくれた彼女に、誕生日は8月12日だと打ち明けるのは悪い気がしてしまった。
でも、その気持ちがあったのは最初の年だけ。次の誕生日を迎える頃には、彼女との仲がさらに深まり、彼女に惹かれていく自分に気づいた。
だから、欲深くも彼女と確実に会えるからという理由で、そのまま本当の誕生日は教えず、今日に至る。
「和谷君の周りの人だけじゃなくてさ、和谷君自身も優しいから、私に付き合ってくれて本当に申し訳ない。今日も付き合ってくれてありがとね。」
まるで泣き上戸みたいに急に感謝しだす彼女。
ちなみにアルコールはまだ一口も飲んでない。素でこういうヤツ。
「……あのさ、お前が申し訳なく思う必要1ミリもないからな。」
「え?」
毎年、8月23日に俺を誘うのに、前置きに『ダメ元なんだけど』と彼女に言わせるのはもうおしまい。
「俺の誕生日、ほんとは8月12日だから。」
そう彼女に伝えると沈黙が訪れる。
少し間が空いて沈黙を破ったのは彼女だった。彼女はテーブルに突っ伏しながら言った。
「ずっと間違えて覚えてて今、ものすごく恥ずかしい。教えてくれればよかったのに…。」
彼女の表情は全く読み取れない。でも、声色からして怒ったり、悲しんでいるようではなかった。
そんな彼女に俺は言う。
「間違えて覚えてる方が、8月23日、お前に絶対に祝ってもらえるだろ。」
だから、今まで本当のことを言えなくて悪かった。と。
言ったあとで、頬から耳にかけて熱が溜まっていくのが分かる。
すると、突っ伏していた彼女が顔を上げる。彼女の両頬は淡いピンク色に染まっていた。今の俺と同じ状況みたいだ。
「……もし私が和谷君だったら、私も多分、和谷君と同じことしてたと思う。」
俺とは視線を合わせず、俯きがちにそう呟く彼女がとても愛おしく思えた。
そして、この8月23日が俺たちにとって特別な日であることは、付き合い始めて、苗字が一緒になっても変わることは無かった。